344 / 356
第五章 多様変遷
第三十七話 あるべき姿へ(三)
しおりを挟む
天藍は先頭に立ち広場へ向かった。薄珂は立珂を抱っこしてそれに付いて共に壇上に上がる。
「今年も皆が参列してくれたこと嬉しく思う。二度とこの歴史を繰り返さぬよう、皆も語り継いで欲しい。犠牲となった彼等には例年献花を行っているが、今年は特別な贈り物を用意した」
天藍は立珂を振り向き、さあ、と前へ出るように促した。
薄珂は立珂を降ろすと、立珂はとととっと壇上の中央へ立つ。
「立珂です! ちっちゃくなったけど『りっかのおみせ』の立珂だよ! おくりものつくりました!」
立珂は慰霊碑にささげた物と同じ服を広げて見せた。
国民はそれを見た瞬間にわあっと声を上げ、有翼人が喜んでいる姿も見える。
「服と首飾りと髪飾りだよ! 僕がかんがえたんだけど、作ってくれたのは愛憐ちゃんなんだ。氷いっぱいくれて幸せだよね。だから一緒に作りたかったの。有翼人を助けてくれたから!」
「立珂は蛍宮有翼人に光を当ててくれた。犠牲となった彼らにもこの光を浴びさせてやりたかったがもう叶わない。ならせめて蛍宮有翼人の皆が愛する立珂の品を贈りたいと思った」
天藍は立珂の前に膝をついた。そして立珂の小さな手を握り祈りを捧げるように頭を下げた。
「素晴らしい品を有難う。この国は未来永劫、お前に恩を返すと誓う」
「……う?」
「これからも仲良くしようねってことだ」
「あ、うん! なかよくしようね!」
立珂は両手を広げてぴょんとぴょんと飛び跳ねた。国民は皆笑い、立珂ちゃん、と叫び応援してくれている。
天藍はぎゅっと立珂を抱きしめてから抱き上げ、薄珂の腕の中に立珂を戻してくれた。
そして天藍は薄珂を見てこくりと頷き、毅然とした姿勢で国民に向き合った。
「聞いてくれ! 今日はもう一つ皆に伝えねばならんことがある」
立珂の愛らしさに賑わっていた国民だったが、皇太子が見せた真剣なまなざしにしんと静まった。
天藍は集まった全員を見回して、すうっと大きく息を吸い込んだ。
「今日この時をもって俺は皇太子の座を辞する」
一瞬の静寂が走り、誰かが「はあ!?」と大きな叫びをあげた。それに続いてどよめきが広がっていく。
困惑する者にきょとんと首を傾げる者、怪訝そうに眉間にしわを寄せる者――……それはどれも想定していた反応だ。大喜びする人がいないといいなと思っていたが、そういう反応は見られなかった。
「国を出るわけではない。今後は一宮廷職員として国政に尽くす。だが皇太子の号は正当な皇太子へと返そうと思う」
国民はざわざわとしていた。国を救った英雄ともいえる天藍の転身へのどよめきは当然だ。
(動揺は護栄様がうまいこと利用するだろう。それはいい。問題はこの後だ)
薄珂は舞台袖に目をやった。そこには式典用の重厚感ある服を着た孔雀がいる。これは立珂の作った服ではない。
(先々代皇の時代まで使われていたという歴代皇太子だけが身に着ける装束。天藍はともかく、宋睿が袖を通さず保管してたのは意外だった)
宋睿は蛍宮の伝統を重んじることはなかったという。皇族を軽んじる言動もあったらしいが、何故か皇族所縁の品が多く残っていたらしい。
そのほとんどがかつて後宮とされていた瑠璃宮――宋睿以外は立ち入り禁止だった場所の奥深くにしまわれていたという。それはまるで守っていたかのようだったと紅蘭は語った。
(聞けば聞くほど宋睿の人物像が分からなくなる。どういう人だったんだろう)
きっとそれは誰にも分からないだろう。既にいない今、過去を振り返ってもどうしようもない――というのが護栄の判断で薄珂もそう思っている。
けれど護栄がそう切り捨てられたのはその全てを背負う人物がいるからではないだろうか。
天藍は舞台袖へ向かって頭を下げた。そして、孔雀は静々と歩を進めた。
「今年も皆が参列してくれたこと嬉しく思う。二度とこの歴史を繰り返さぬよう、皆も語り継いで欲しい。犠牲となった彼等には例年献花を行っているが、今年は特別な贈り物を用意した」
天藍は立珂を振り向き、さあ、と前へ出るように促した。
薄珂は立珂を降ろすと、立珂はとととっと壇上の中央へ立つ。
「立珂です! ちっちゃくなったけど『りっかのおみせ』の立珂だよ! おくりものつくりました!」
立珂は慰霊碑にささげた物と同じ服を広げて見せた。
国民はそれを見た瞬間にわあっと声を上げ、有翼人が喜んでいる姿も見える。
「服と首飾りと髪飾りだよ! 僕がかんがえたんだけど、作ってくれたのは愛憐ちゃんなんだ。氷いっぱいくれて幸せだよね。だから一緒に作りたかったの。有翼人を助けてくれたから!」
「立珂は蛍宮有翼人に光を当ててくれた。犠牲となった彼らにもこの光を浴びさせてやりたかったがもう叶わない。ならせめて蛍宮有翼人の皆が愛する立珂の品を贈りたいと思った」
天藍は立珂の前に膝をついた。そして立珂の小さな手を握り祈りを捧げるように頭を下げた。
「素晴らしい品を有難う。この国は未来永劫、お前に恩を返すと誓う」
「……う?」
「これからも仲良くしようねってことだ」
「あ、うん! なかよくしようね!」
立珂は両手を広げてぴょんとぴょんと飛び跳ねた。国民は皆笑い、立珂ちゃん、と叫び応援してくれている。
天藍はぎゅっと立珂を抱きしめてから抱き上げ、薄珂の腕の中に立珂を戻してくれた。
そして天藍は薄珂を見てこくりと頷き、毅然とした姿勢で国民に向き合った。
「聞いてくれ! 今日はもう一つ皆に伝えねばならんことがある」
立珂の愛らしさに賑わっていた国民だったが、皇太子が見せた真剣なまなざしにしんと静まった。
天藍は集まった全員を見回して、すうっと大きく息を吸い込んだ。
「今日この時をもって俺は皇太子の座を辞する」
一瞬の静寂が走り、誰かが「はあ!?」と大きな叫びをあげた。それに続いてどよめきが広がっていく。
困惑する者にきょとんと首を傾げる者、怪訝そうに眉間にしわを寄せる者――……それはどれも想定していた反応だ。大喜びする人がいないといいなと思っていたが、そういう反応は見られなかった。
「国を出るわけではない。今後は一宮廷職員として国政に尽くす。だが皇太子の号は正当な皇太子へと返そうと思う」
国民はざわざわとしていた。国を救った英雄ともいえる天藍の転身へのどよめきは当然だ。
(動揺は護栄様がうまいこと利用するだろう。それはいい。問題はこの後だ)
薄珂は舞台袖に目をやった。そこには式典用の重厚感ある服を着た孔雀がいる。これは立珂の作った服ではない。
(先々代皇の時代まで使われていたという歴代皇太子だけが身に着ける装束。天藍はともかく、宋睿が袖を通さず保管してたのは意外だった)
宋睿は蛍宮の伝統を重んじることはなかったという。皇族を軽んじる言動もあったらしいが、何故か皇族所縁の品が多く残っていたらしい。
そのほとんどがかつて後宮とされていた瑠璃宮――宋睿以外は立ち入り禁止だった場所の奥深くにしまわれていたという。それはまるで守っていたかのようだったと紅蘭は語った。
(聞けば聞くほど宋睿の人物像が分からなくなる。どういう人だったんだろう)
きっとそれは誰にも分からないだろう。既にいない今、過去を振り返ってもどうしようもない――というのが護栄の判断で薄珂もそう思っている。
けれど護栄がそう切り捨てられたのはその全てを背負う人物がいるからではないだろうか。
天藍は舞台袖へ向かって頭を下げた。そして、孔雀は静々と歩を進めた。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】
君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め
×
愛を知らない薄幸系ポメ受け
が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー
────────
※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。
※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。
※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。
※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
婚約破棄と言われても・・・
相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」
と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。
しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・
よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
***********************************************
誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。
前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます
当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は……
「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」
天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。
* * * * * * * * *
母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。
○注意◯
・基本コメディ時折シリアス。
・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。
・最初は恋愛要素が少なめ。
・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。
・本来の役割を見失ったルビ。
・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。
エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。
2020/09/05
内容紹介及びタグを一部修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる