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第五章 多様変遷

第二十二話 華理国主、勝峰(三)

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「柳殿。できるだけの助力をお願いする。足りないものがあれば連絡を」
「承知いたしました」

 勝峰は侍女に何か指示をすると、数名が慌ただしく動き始めていた。薄珂を握るには立珂の機嫌を取るのは必須だ。
 ふいに目が合うと、勝峰は苦笑いを浮かべている。

「さすが晧月様が援助なさるだけある」

 この数分にどんな意味があるかは人それぞれだろう。思惑によっては良くも悪くもある。
 けれどたった一人、何の影響もない立珂は全く関係の無い話題に首をこてんと傾げた。

「こーげつって誰?」
「天藍のことだ。蛍宮以外では名前が変わるんだ」
「……う?」
「お前たちはいつも通り天藍で構わない」
「んにゃ」

 分かったのか分からなかったのか、立珂は小さく鳴いただけだった。

「しかし皇太子が号を名乗るとは古い慣習を重んじるんですね。先々代皇の時代で終わり、宋睿は引き継がなかったと思いましたが」
「護栄がこだわったんだ。俺たちは蛍宮の歴史を尊重したいからな」
「なるほど。護栄様が重んじたのは国民への印象ですか」
「そういうとこ熱心だよね、護栄様って」

 戦争や政治といった大きなことをやってのける護栄だが、どんな時も必ず人心を惹き付けるのを忘れない。
 号を名乗るなんて国民の大半にさしたる意義はないだろうが、先々代皇を愛していた者には絶大な威力があるだろう。そしてその世代をその目で見ていない護栄では軽々手玉に取れるものではない。こうした足固めをしたいのだろう。

 それから、勝峰からは店の経営や今後のことについてもあれこれ聞かれたがどれも深くは答えず響玄に任せて過ごした。
 けれど勝峰が薄珂の人脈に興味を持ったのは確かで、薄珂の目的は一つ達成された。そうなればこれ以上この場にいる意味はなく、立珂が眠くなってきたところで離席を願い、哉珂と共に天幕へと返って来た。
 長い階段を揺られたのが堪えたのか、天幕に着く立珂はすっかり寝入っていた。水浴びはできそうになかったが、汗をかいているであろう羽の下だけは拭いてやらなければいけない。正面から抱っこすると、哉珂に羽根を持ち上げてもらい立珂の背に手を回した。

「見事だった。これで勝峰様はお前を無視できない」
「やっぱり立珂の服は人気だね。さすが立珂だ」
「それで騙されるのは天藍殿のように素直な人だけだ」
「護栄様って大変だよね」

 くすっと哉珂は笑った。哉珂がどれだけのことを考えているかは分からないけれど、少なくとも所属は明恭であり蛍宮政治を優先する立場ではない。
 その哉珂が薄珂の立ち位置を分かってくれてることは大事だった。何しろ薄珂の目的は哉珂と、哉珂のその先にあるのだ。

あいつ・・・の都合が付いた」

 ぴくりと立珂の背を拭く薄珂の手が揺れた。
 哉珂を見上げると、にやりと面白そうに笑みを浮かべている。

「明日は立珂を響玄殿に預けろ。会談だ」
「うん」

 立珂はぷうぷうと寝息を立てていた。その頭をひと撫ですると、哉珂は天幕を後にした。
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