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第五章 多様変遷

第二十一話 発展途上国の先行き(一)

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 朝市の数分で立珂の服は完売した。蛍宮へ戻らなければ在庫が無いと告げると宅配を相談されたが、それを確約することは薄珂にはできなかった。響玄ですら他国への船旅は簡単ではないという以上、薄珂にとっても簡単ではない。宅配という選択肢が出るのは鳥獣人の飛行宅配が当然の華理ならではだ。
 だがあまりにも多くの要望が寄せられたため、立珂はここで作りたいと言い出した。
 しかし立珂は発案すれども自分で作れるわけではなく、頼めるのは美星一人だ。それならばと哉珂は自店の従業員に頼もうと言ってくれた。材料は響玄が持って来た生地があったのでそれを使うことになり、今日は観光ではなく朝から服作りを始めることとなった。
 そしてやって来たのは哉珂の工房だ。見る限りで数十名がいて、他の部屋にも人がいる。いつも遊んでくれる侍女など目じゃない人数だった。

「皆に客人を紹介する。こちらはかの名店『天一』のご当主、響玄殿だ」
「響玄です」
「その隣が有翼人服二店舗の店長をやってる薄珂。その横にいるちっこいのが商品監修の立珂」
「薄珂です」
「りっかです! こっちは僕のおともだちの美星さんと慶都!」
「響玄の娘、美星でございます。蛍宮宮廷にて立珂様専属侍女を務め、立珂様の品の縫製も一部担当しております」
「鷹獣人の慶都です。蛍宮皇太子殿下天藍様より直々に立珂護衛の任を頂いております」

 おお、と従業員はどよめいた。立珂は何に驚かれたのか分からないようだったが、二人の自己紹介により立珂が蛍宮の重要人物であることは伝わったようで一斉に背筋を伸ばしている。
「皆も知ってると思うが、昨日立珂の服が馬鹿売れした。既に再販希望が多数あり、これを手伝うことになった。今日中に五十は作ってくれ」
 五十と聞いて薄珂は思わず哉珂を見上げたが、従業員たちは驚くこと困ることもなく頷いている。

(これが哉珂の『企業』か。多少仕事が増えたくらいじゃものともしない)

 そして従業員の中から数名が立珂の元に集まり、立珂と美星に服の構造を習い始めた。小さな立珂のために、従業員たちは背の低い机に場所を移してくれている。

「これが立珂様の服ですか。色遊びが美しい」
「それよりも素材だ。異素材に目が行くが地模様もしっかり活きていてる」
「ああ。良い程合いでお互いが引き立て合っている。素材を大切にしているのがよく分かる合わせだ」
「そうでしょ! じもようといそざいだいすきなの!」

 早速立珂は笑顔で語り始めた。従業員たちは子供の面倒を見ているような顔つきだったが、語るほど真剣になっていく。
 聞きながら補佐をする職員はてきぱきと型紙を起こし、これを百枚、こっちを五十枚、と早くも指示を出し一斉に作業に入ったようだった。響玄に使って良い生地はどれかと確認すると即座に裁断を始め、連携は驚くほど早かった。従業員に目をやると有翼人も人間の姿の者も入り混じっている。

「哉珂。ここってどの種族も一緒に働いてるの?」
「ああ。だがここだけじゃない。華理は種族特性によって労働内容を調整するようなことはしないんだ」
「何で? 平等じゃないよ。羽があるとできない仕事だってある」
「有翼人だからって優遇するのも平等じゃないだろ」
「けど生態は加味するべきだよ」
「そりゃ雇用される側はそれでいいだろうが雇用する側は大変なんだよ。それに嫌なら別の仕事をすればいいだけだ。実際有翼人が大半を占める仕事もあるぞ。見てみるか?」
「うん。先生。立珂と慶都見ててもらってもいい?」
「ああ。行ってこい」
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