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第四章 翼衣專店

第三十五話 有翼人保護区の守護者(一)

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 方針が決まってからの動きは速かった。
 麗亜と柳は明恭と連絡を取ることが大変なようだったが、それでも東奔西走してくれている。
 響玄も慌ただしく動き回っているが、一方で美星が不安そうにしているのは明らかだった。それを感じ取った立珂はしばらく響玄の家で生活しようと言い、今は毎日美星にべったりだ。その甲斐もあってか美星は日々を笑顔で過ごし、そしてついに有翼人保護区の試験運用が開始された。

「有翼人以外も多いな」
「家族が有翼人とは限らないからね」

 薄珂と立珂は有翼人保護区を見て回っている。
 天藍と護栄が柳を連れて現場の視察するというのだが、知らない顔がいることを怖がる有翼人もいるかもしれない。
 そんな彼らを安心させるため立珂にも来て欲しいということで、薄珂も一緒にやって来たのだ。
 当初は護栄ですら不安を感じていたが、柳の連れて来た社員の奮闘により保護区は落ち着いている。

 しかし問題は何かしら発生するものだ。
 突如がらがらと何かが崩れる音と怒号が飛び交った。発生源を見ると、露店が何やら揉めているようだった。

「ここはうちの出店場所だ!」
「違ぇよ! そこの線までだ!」
「こっちが日陰になる分はそっちに詰めるんだよ!」
「勝手言ってんじゃねえ! だからそこ場所代安いんだろーが!」

 ぎゃあぎゃあと叫び声が聞こえてくるが、こういう争いは中央でも少なくない。
 どうにかして支払っている場所代以上の売り場をもぎ取ろうと姑息な手段を使う者がいて、それに対抗する正義漢もいる。
 どちらが正しいかと言えば正義漢なのだが、それは争いを誇張するので必ず警備員が調停することになっている。
 それはこの有翼人保護区でも同じだ。ぴいっと調停の笛が鳴り響き、揉めている男は一斉に動きを止めて振り返った。
 その先にいたのは有翼人保護区のために設立された警備隊の一人だ。

「暴力沙汰は両者ともに出店禁止で罰金銀五」
「何だこの餓鬼!」
「お、おい待て! あれ! あの装飾は立珂様の羽根だ!」
「それに服。これは立珂様が作った有翼人保護区職員の規定服」

 有翼人保護区はまず安心してもらうため、有翼人に支持されている立珂が制服を作った。
 同時に有翼人のための店があることも知れ渡る。
 立珂の服に立珂の羽根飾りを胸に掲げ、男たちに立ちはだかったのは――

「慶都だ!」
「立珂。危ないから大人しくしてろ」
「慶都! 慶都ー!」

 大男に恐れることなく立ち向かったのは慶都だった。
 立珂は緊迫感の無い明るい声で飛び跳ねたけれど、慶都は振り向かず男たちを睨んでいる。

「住民に怪我人が出た。両店共に閉店を命ずる」
「はあ!? この程度で何言ってんだ!」
「立珂様の羽根を頂いたからって調子にのるなよ」
「それはこちらの台詞ですね」
「は!? あ、あんたは!」

 落ち着いた足取りで登場したのは、解放戦争の勝利に一役買い、国民の信頼が最も厚い男だった。

「慶真様!?」
「おいおい、慶真様が現場に出て来るのか」
「職員に従わない場合は再出店も不可とする。この出店契約に承諾していますね」
「……は、はい」
「よろしい。では店を撤去なさい」
「分かりました……」

 揉めた男たちはすごすごと引き下がった。
 見ていた住民はわあっと沸き起こり、慶真は頭を下げて回っていく。
 そして騒ぎが治まると、ようやく慶都が立珂に向かって走って来た。

「立珂!」
「慶都~!」

 立珂はわあいと慶都に飛びつき、二人はきゃあきゃあとじゃれ始めた。

「あれ? 慶都、背伸びてない?」
「遠征の間に伸びたんだ」

 慶都一家はここ数か月蛍宮を離れていた。
 目的は孤児難民の捜索だ。知名度のある慶真が表に立つのが一番速いだろうとなり、実践を踏めるなら俺も行くと慶都も立候補した。
 家族が行くなら料理や洗濯など、遠征の生活を支える要員として慶都の母白那も同行した。
 これには孔雀も参加していた。獣人の英雄となった孔雀がいるというだけで多くの者が集まり、孤児難民じゃなくても移住すると付いてくるほどだったという。
 すっかり賑わいを取り戻した様子を見て、柳はぽんっと薄珂の頭を撫でた。
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