252 / 356
第四章 翼衣專店
第三十五話 有翼人保護区の守護者(一)
しおりを挟む
方針が決まってからの動きは速かった。
麗亜と柳は明恭と連絡を取ることが大変なようだったが、それでも東奔西走してくれている。
響玄も慌ただしく動き回っているが、一方で美星が不安そうにしているのは明らかだった。それを感じ取った立珂はしばらく響玄の家で生活しようと言い、今は毎日美星にべったりだ。その甲斐もあってか美星は日々を笑顔で過ごし、そしてついに有翼人保護区の試験運用が開始された。
「有翼人以外も多いな」
「家族が有翼人とは限らないからね」
薄珂と立珂は有翼人保護区を見て回っている。
天藍と護栄が柳を連れて現場の視察するというのだが、知らない顔がいることを怖がる有翼人もいるかもしれない。
そんな彼らを安心させるため立珂にも来て欲しいということで、薄珂も一緒にやって来たのだ。
当初は護栄ですら不安を感じていたが、柳の連れて来た社員の奮闘により保護区は落ち着いている。
しかし問題は何かしら発生するものだ。
突如がらがらと何かが崩れる音と怒号が飛び交った。発生源を見ると、露店が何やら揉めているようだった。
「ここはうちの出店場所だ!」
「違ぇよ! そこの線までだ!」
「こっちが日陰になる分はそっちに詰めるんだよ!」
「勝手言ってんじゃねえ! だからそこ場所代安いんだろーが!」
ぎゃあぎゃあと叫び声が聞こえてくるが、こういう争いは中央でも少なくない。
どうにかして支払っている場所代以上の売り場をもぎ取ろうと姑息な手段を使う者がいて、それに対抗する正義漢もいる。
どちらが正しいかと言えば正義漢なのだが、それは争いを誇張するので必ず警備員が調停することになっている。
それはこの有翼人保護区でも同じだ。ぴいっと調停の笛が鳴り響き、揉めている男は一斉に動きを止めて振り返った。
その先にいたのは有翼人保護区のために設立された警備隊の一人だ。
「暴力沙汰は両者ともに出店禁止で罰金銀五」
「何だこの餓鬼!」
「お、おい待て! あれ! あの装飾は立珂様の羽根だ!」
「それに服。これは立珂様が作った有翼人保護区職員の規定服」
有翼人保護区はまず安心してもらうため、有翼人に支持されている立珂が制服を作った。
同時に有翼人のための店があることも知れ渡る。
立珂の服に立珂の羽根飾りを胸に掲げ、男たちに立ちはだかったのは――
「慶都だ!」
「立珂。危ないから大人しくしてろ」
「慶都! 慶都ー!」
大男に恐れることなく立ち向かったのは慶都だった。
立珂は緊迫感の無い明るい声で飛び跳ねたけれど、慶都は振り向かず男たちを睨んでいる。
「住民に怪我人が出た。両店共に閉店を命ずる」
「はあ!? この程度で何言ってんだ!」
「立珂様の羽根を頂いたからって調子にのるなよ」
「それはこちらの台詞ですね」
「は!? あ、あんたは!」
落ち着いた足取りで登場したのは、解放戦争の勝利に一役買い、国民の信頼が最も厚い男だった。
「慶真様!?」
「おいおい、慶真様が現場に出て来るのか」
「職員に従わない場合は再出店も不可とする。この出店契約に承諾していますね」
「……は、はい」
「よろしい。では店を撤去なさい」
「分かりました……」
揉めた男たちはすごすごと引き下がった。
見ていた住民はわあっと沸き起こり、慶真は頭を下げて回っていく。
そして騒ぎが治まると、ようやく慶都が立珂に向かって走って来た。
「立珂!」
「慶都~!」
立珂はわあいと慶都に飛びつき、二人はきゃあきゃあとじゃれ始めた。
「あれ? 慶都、背伸びてない?」
「遠征の間に伸びたんだ」
慶都一家はここ数か月蛍宮を離れていた。
目的は孤児難民の捜索だ。知名度のある慶真が表に立つのが一番速いだろうとなり、実践を踏めるなら俺も行くと慶都も立候補した。
家族が行くなら料理や洗濯など、遠征の生活を支える要員として慶都の母白那も同行した。
これには孔雀も参加していた。獣人の英雄となった孔雀がいるというだけで多くの者が集まり、孤児難民じゃなくても移住すると付いてくるほどだったという。
すっかり賑わいを取り戻した様子を見て、柳はぽんっと薄珂の頭を撫でた。
麗亜と柳は明恭と連絡を取ることが大変なようだったが、それでも東奔西走してくれている。
響玄も慌ただしく動き回っているが、一方で美星が不安そうにしているのは明らかだった。それを感じ取った立珂はしばらく響玄の家で生活しようと言い、今は毎日美星にべったりだ。その甲斐もあってか美星は日々を笑顔で過ごし、そしてついに有翼人保護区の試験運用が開始された。
「有翼人以外も多いな」
「家族が有翼人とは限らないからね」
薄珂と立珂は有翼人保護区を見て回っている。
天藍と護栄が柳を連れて現場の視察するというのだが、知らない顔がいることを怖がる有翼人もいるかもしれない。
そんな彼らを安心させるため立珂にも来て欲しいということで、薄珂も一緒にやって来たのだ。
当初は護栄ですら不安を感じていたが、柳の連れて来た社員の奮闘により保護区は落ち着いている。
しかし問題は何かしら発生するものだ。
突如がらがらと何かが崩れる音と怒号が飛び交った。発生源を見ると、露店が何やら揉めているようだった。
「ここはうちの出店場所だ!」
「違ぇよ! そこの線までだ!」
「こっちが日陰になる分はそっちに詰めるんだよ!」
「勝手言ってんじゃねえ! だからそこ場所代安いんだろーが!」
ぎゃあぎゃあと叫び声が聞こえてくるが、こういう争いは中央でも少なくない。
どうにかして支払っている場所代以上の売り場をもぎ取ろうと姑息な手段を使う者がいて、それに対抗する正義漢もいる。
どちらが正しいかと言えば正義漢なのだが、それは争いを誇張するので必ず警備員が調停することになっている。
それはこの有翼人保護区でも同じだ。ぴいっと調停の笛が鳴り響き、揉めている男は一斉に動きを止めて振り返った。
その先にいたのは有翼人保護区のために設立された警備隊の一人だ。
「暴力沙汰は両者ともに出店禁止で罰金銀五」
「何だこの餓鬼!」
「お、おい待て! あれ! あの装飾は立珂様の羽根だ!」
「それに服。これは立珂様が作った有翼人保護区職員の規定服」
有翼人保護区はまず安心してもらうため、有翼人に支持されている立珂が制服を作った。
同時に有翼人のための店があることも知れ渡る。
立珂の服に立珂の羽根飾りを胸に掲げ、男たちに立ちはだかったのは――
「慶都だ!」
「立珂。危ないから大人しくしてろ」
「慶都! 慶都ー!」
大男に恐れることなく立ち向かったのは慶都だった。
立珂は緊迫感の無い明るい声で飛び跳ねたけれど、慶都は振り向かず男たちを睨んでいる。
「住民に怪我人が出た。両店共に閉店を命ずる」
「はあ!? この程度で何言ってんだ!」
「立珂様の羽根を頂いたからって調子にのるなよ」
「それはこちらの台詞ですね」
「は!? あ、あんたは!」
落ち着いた足取りで登場したのは、解放戦争の勝利に一役買い、国民の信頼が最も厚い男だった。
「慶真様!?」
「おいおい、慶真様が現場に出て来るのか」
「職員に従わない場合は再出店も不可とする。この出店契約に承諾していますね」
「……は、はい」
「よろしい。では店を撤去なさい」
「分かりました……」
揉めた男たちはすごすごと引き下がった。
見ていた住民はわあっと沸き起こり、慶真は頭を下げて回っていく。
そして騒ぎが治まると、ようやく慶都が立珂に向かって走って来た。
「立珂!」
「慶都~!」
立珂はわあいと慶都に飛びつき、二人はきゃあきゃあとじゃれ始めた。
「あれ? 慶都、背伸びてない?」
「遠征の間に伸びたんだ」
慶都一家はここ数か月蛍宮を離れていた。
目的は孤児難民の捜索だ。知名度のある慶真が表に立つのが一番速いだろうとなり、実践を踏めるなら俺も行くと慶都も立候補した。
家族が行くなら料理や洗濯など、遠征の生活を支える要員として慶都の母白那も同行した。
これには孔雀も参加していた。獣人の英雄となった孔雀がいるというだけで多くの者が集まり、孤児難民じゃなくても移住すると付いてくるほどだったという。
すっかり賑わいを取り戻した様子を見て、柳はぽんっと薄珂の頭を撫でた。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
副会長様は平凡を望む
慎
BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』
…は?
「え、無理です」
丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。
ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】
君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め
×
愛を知らない薄幸系ポメ受け
が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー
────────
※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。
※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。
※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。
※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。
婚約破棄と言われても・・・
相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」
と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。
しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・
よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
***********************************************
誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる