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第四章 翼衣專店
第三十三話 有翼人の本能(一)
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美星の活が入ってから数日後、改めて会議が開かれた。
参加者には浩然が追加されている。これは柳の提案で、数字を管理する第三者の意見も欲しいということだ。
護栄は美星をちらりと見たが、美星はぎろりと柳を睨みつけていた。
柳はふうと小さくため息を吐いたが、護栄は表情を変えずに話し始めた。
「五十六家庭の仮住まいから始めます。店や各種施設を仮配置し意見を貰い改善。その後全体を決める」
「住民はどうを選出するんですの?」
「生活保護を受けている有翼人です。有期雇用職員とし給料を支払います」
「無理を押し付けるのではないでしょうね」
「面接をし快諾してくれた者のみにします。面接は響玄殿がなさるので安心なさい」
「ならよろしいですわ」
「今日は店や施設を検討します。進行は柳殿にお願いいたします」
美星は護栄すらも睨みつけていた。
元々折り合いは良くないうえ、柳を連れ込んだのだから笑顔を向けてもらえるはずもない。
しかしその鋭い視線を奪うように、柳はこんっと机を小さく叩いた。
「俺は情報を整理し客観的な意見を出すだけ。決めるのはそっちだ」
「当り前です」
美星は切り付けるように言い捨てた。
しかし率直に言えば、感情的な美星の言い様に薄珂は問題を感じている。
(柳さんの協力が得られなくなったら全てやり直しだ。保護区完成が遠のくうえ麗亜様への貸しが増える)
おそらく、これほどの人物を紹介してもらった時点で貸しになっている。それを暴言で怒らせ帰国させたとなれば貸しどころか謝罪が必要になる。
気持ちは分かるけど、と小さく息を吐くしかなかった。
「まず理想を明確にする。金も技術も無視していい。有翼人のわがままを聞かせてくれ」
美星の視線を物ともせず、柳は立珂を見た。
「立珂はどんな所に住みたい?」
「川! 薫衣草畑! 洞窟! 木の家! すっぽんぽんでぎゅってできる外!」
「ふうん。自然が好きなんだな。美星お嬢さんは?」
「……お父様と二人で暮らせるのならどこでも」
「川やらなんやらは?」
「私は外に出たいとは思いません。裸なんてとんでもない」
「まあそうだな」
浩然はかりかりと記録を取っているが、柳は椅子に背を持たれ優雅に足を組んでいる。
真面目に考えているとは思えない姿勢で、これがまた美星を苛立たせるようだった。
「じゃあ次。食べ物は何が欲しい? 立珂から」
「腸詰! 水飴! 莉玖堂さん!」
「莉玖堂?」
「一番美味しい腸詰屋さん! 全部手作りなの!」
「手作り。へえ。他に思い浮かぶ店名はあるか?」
「ない」
「いいね。お嬢さんは?」
「特別どうという物はありません。食材の販売さえされていれば」
へえ、と柳は少しだけ何かを考えていた。
にやりと笑うと、再び立珂に視線を戻した。
「じゃあ次。今言った物以外で欲しいものは?」
「お洒落! 車椅子! 加密列茶!」
「車椅子がいるのか? 歩けるだろう」
「でも外ずっと歩いてると疲れるの」
「羽重いもんな」
「個人差はありそうだな。で、加密列茶? それは食べ物だろ」
「う? 違うよ。おくすりだよ」
「薬?」
え、と全員が立珂を振り向いた。これは薄珂も初めて聞いたことだ。
参加者には浩然が追加されている。これは柳の提案で、数字を管理する第三者の意見も欲しいということだ。
護栄は美星をちらりと見たが、美星はぎろりと柳を睨みつけていた。
柳はふうと小さくため息を吐いたが、護栄は表情を変えずに話し始めた。
「五十六家庭の仮住まいから始めます。店や各種施設を仮配置し意見を貰い改善。その後全体を決める」
「住民はどうを選出するんですの?」
「生活保護を受けている有翼人です。有期雇用職員とし給料を支払います」
「無理を押し付けるのではないでしょうね」
「面接をし快諾してくれた者のみにします。面接は響玄殿がなさるので安心なさい」
「ならよろしいですわ」
「今日は店や施設を検討します。進行は柳殿にお願いいたします」
美星は護栄すらも睨みつけていた。
元々折り合いは良くないうえ、柳を連れ込んだのだから笑顔を向けてもらえるはずもない。
しかしその鋭い視線を奪うように、柳はこんっと机を小さく叩いた。
「俺は情報を整理し客観的な意見を出すだけ。決めるのはそっちだ」
「当り前です」
美星は切り付けるように言い捨てた。
しかし率直に言えば、感情的な美星の言い様に薄珂は問題を感じている。
(柳さんの協力が得られなくなったら全てやり直しだ。保護区完成が遠のくうえ麗亜様への貸しが増える)
おそらく、これほどの人物を紹介してもらった時点で貸しになっている。それを暴言で怒らせ帰国させたとなれば貸しどころか謝罪が必要になる。
気持ちは分かるけど、と小さく息を吐くしかなかった。
「まず理想を明確にする。金も技術も無視していい。有翼人のわがままを聞かせてくれ」
美星の視線を物ともせず、柳は立珂を見た。
「立珂はどんな所に住みたい?」
「川! 薫衣草畑! 洞窟! 木の家! すっぽんぽんでぎゅってできる外!」
「ふうん。自然が好きなんだな。美星お嬢さんは?」
「……お父様と二人で暮らせるのならどこでも」
「川やらなんやらは?」
「私は外に出たいとは思いません。裸なんてとんでもない」
「まあそうだな」
浩然はかりかりと記録を取っているが、柳は椅子に背を持たれ優雅に足を組んでいる。
真面目に考えているとは思えない姿勢で、これがまた美星を苛立たせるようだった。
「じゃあ次。食べ物は何が欲しい? 立珂から」
「腸詰! 水飴! 莉玖堂さん!」
「莉玖堂?」
「一番美味しい腸詰屋さん! 全部手作りなの!」
「手作り。へえ。他に思い浮かぶ店名はあるか?」
「ない」
「いいね。お嬢さんは?」
「特別どうという物はありません。食材の販売さえされていれば」
へえ、と柳は少しだけ何かを考えていた。
にやりと笑うと、再び立珂に視線を戻した。
「じゃあ次。今言った物以外で欲しいものは?」
「お洒落! 車椅子! 加密列茶!」
「車椅子がいるのか? 歩けるだろう」
「でも外ずっと歩いてると疲れるの」
「羽重いもんな」
「個人差はありそうだな。で、加密列茶? それは食べ物だろ」
「う? 違うよ。おくすりだよ」
「薬?」
え、と全員が立珂を振り向いた。これは薄珂も初めて聞いたことだ。
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