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第四章 翼衣專店

第二十七話 世界へ広がる立珂の服(六)

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「では日程が決まり次第連絡しますよ」
「立珂殿。どうぞよろしくお願い致します」
「うんっ! 頑張る!」
「それじゃあ殿下」
「ああ。俺は」
「響玄殿へ交渉に参りましょう」
「あ? 一人で行けよ」
「馬鹿言わないで下さい。外交の話をするのに殿下がいなくてどうするんです。さあ行きましょう」
「え、ちょ、ちょっと待て」

 護栄はぐいっと引っ張り天藍を立たせた。
 天藍はきっとこの後ゆっくりするつもりだったのだろう。薄珂もそのつもりでいた。
 けれど天藍の傍には麗亜がいる。

(そうだよね。麗亜様がいるんだし……)

 薄珂は少しだけ口を尖らせたけれど、くるっと天藍に背を向けた。

「愛憐も麗亜様と行くの?」
「私は立珂と遊ぶわ! 商品ぜーんぶ見せてもらうんだから!」
「じゃあ瑠璃宮も行こうか。案内してないよな」
「見たいわ!」
「見せたい!」

 立珂はぴょんぴょんと飛び跳ねて、あっちには全然違う服があるよ、と早くもお出かけ気分になっている。
 全てを忘れ幸せにしてくれる立珂の笑顔を見てから天藍を振り返った。

「それじゃ天藍。またね」
「え!? 薄珂!?」
「薄珂殿の方が分かってますね」
「おま、だってひと月以上も」
「行きますよ」
「ちょ、ちょっ」

 天藍達を見送ると、窓が強い風で叩かれがたがたと音を立てた。

(立場ってこういうことだよな。仕方ない……)

 薄珂はぎゅっと拳を握り、はあ、と小さくため息を吐いた。

「立珂おいで。風強いから抱っこするぞ」
「はあい!」

 立珂は嬉しそうに薄珂に飛びついた。抱き上げると、それだけで気持ちも温かくなっていく。
 先ほどまで聞こえていた天藍の声はもう聞こえなくなっていた。
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