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第四章 翼衣專店

第二十七話 世界へ広がる立珂の服(三)

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「天ら――あれ?」
「お邪魔しています」
「すみません、お疲れのところ」
「護栄様。麗亜様。来てたの」

 天藍に駆け寄ろうとしたけれど、予期せぬ人物の姿にぴたりと足を止めた。
 この建物にはいくつか入り口がある。売り場にしているのは本来裏口の玄関にあたる場所で、出口は宮廷とは逆へ向いている。
 一方正門は宮廷から入るのだが、護栄や侍女はいつもこっちから入ってくる。
 きっと先程の客と入れ替わりくらいにやって来たのだろう。

(麗亜様がいるならあんまり気安くしちゃだめだよね。『少年狂い』が復活しちゃう)

 天藍と薄珂が伴侶契約したことを知るのはごく一部だ。
 当初薄珂は国籍を貰えるし天藍の傍にいられるし一石二鳥、くらいに考えていた。
 しかし時間がたつにつれ『皇太子の伴侶』は良くも悪くも利用価値の高い位置づけであることが判ってきて、他国の皇子にほいほいと知られて良いものではないことはもう分かっている
 駆け寄りたい想いを押さえ、薄珂はあえて護栄の隣に座った。

「全員集合でどうしたの?」
「実は薄珂殿と立珂殿にご相談があるんです。その可否を今日中にうかがいたくて」
「そうなんだ。ちょっと待ってね。立珂! りーっか!」
「はあい!」

 呼ぶとすぐに愛憐と二人でやって来て、手には服を抱えている。どれも愛憐に見せるんだと意気込んでいたものだ。
 立珂はご機嫌なまま薄珂の隣に座った。

「俺たちに相談があるんだってさ」
「う? なあに?」
「はい。実は明恭でも有翼人専用服を作りたいと思ってるんです」
「そうなの!? いいと思うよ! すごくいいと思う!」
「相談って商品の輸出? そういうのは響玄先生に聞かないと分かんないよ」
「それもですが、明恭の風土に沿った有翼人専用服の開発にご協力頂きたいんです」
「風土? 普通の冬服じゃ駄目なの?」

 薄珂と立珂は揃って首を傾げた。
 さして特別なことを聞いたつもりはないが、麗亜と愛憐は急に悲しそうな顔をして俯いた。
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