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第四章 翼衣專店

第二十六話 『はっかのおみせ』開店(三)

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 薄珂の目配せで侍女が新たに商品を持って入って来た。
 そこには布が並んでいるのだが、単なる布だった。客はきょとんとしているが、薄珂はにこりと微笑み彩寧に目配せし壇上へ上がってもらった。
 孫は布をしゃぶっていて、彩寧の服もよだれでべとべとになっている。
 それを見て女性客はざわざわと慌て始めた。

「布は駄目ですよ! お腹こわしちゃう!」
「普通はそうですね。けれどこれは大丈夫なのよ。完全天然素材の布ですから」
「「「「「えっ!?」」」」

 ざわっと女性陣が立ち上がり、鞄を放り出し食いついて来た。
 薄珂も知らなかったことなのだが、蛍宮では完全天然素材の物は非常に少ないそうだ。
 先代皇は華美を好むため、きらめく布こそ美とした。そこにきて天然素材は見目が美しくなく、そこらに生えた物を使った布など汚らわしいとして流通すらさせなかったという。
 それも今は解禁されたが、流通はしていない。今まで無くても困らなかったからだ。

 人間も獣人も、赤ん坊が布をしゃぶるのは普通だ。
 彼らにしてみれば有翼人は過敏すぎるだけで、気付かれも配慮もされないのが現状だ。
 けれど有翼人の赤ん坊にとっては、呼吸困難になることもある大きな問題だった。
 完全な天然素材は有翼人を子供に持つ親なら何よりも手にしたい物なのだ。

「生地も糸も全部天然素材。今作ってるのは服と涎掛けですが、生地だけの販売もします」
「今すぐ欲しい。今日欲しい」
「有難うございます。服と涎掛けはご予約のみですが、手拭いをお土産品としてお配りしますのでお帰りの際にお持ちください」

 わあ、と客からは悲鳴のような歓喜の叫びが響き続けた。
 彩寧は孫に着せている新商品を見せて安心さを伝えてくれている。

「それでは次をご紹介します」

 入り口の方へ目配せすると、そこで待機していたのは美月だ。今日は新商品の服を着てくれている。
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