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第四章 翼衣專店

第二十三話 立珂が繋ぐ新たな絆【後編】

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「分かりました。これは専用施設を作り解消しましょう。浩然。獣人保護区の整備予算を中央区へ回しなさい。今期は予備予算を使います」
「承知しました」
「……なんだ。何かやってくれんのか」
「単純な発想ですが着替える施設を設置します。そこに立珂殿の服を置けば」
「それなら派出所使わせてくれよ! 先代皇は派出所とか役所とか、そういうとこ出入り自由で着替えをさせてくれたんだ!」
「そうなんですか? そう、そうでしたか……」

 先代皇といえば天藍と護栄の敵だ。
 今でもその残党と確執があると天藍も護栄も言うが、生き残り宮廷に巣食っているのは先代皇がそれほど指示を受けていたという証拠でもある。

(護栄様が天藍のために犠牲にしたのが獣人の生活だったんだ。それが今表面化した)

 有翼人へ手と金をかけるのなら、その分どこかがおざなりになる。
 護栄は獣人の一部を切り捨てたのだろう。
 護栄が今どんな気持ちでいるかは分からないけれど、表情はいつもと同じだ。

「先代皇の治世に詳しい者を代表に立て、獣人の生活向上に尽くします。力を貸してくれますか」
「あ、ああ! もちろんだ!」
「日々思う事があればこの子に話してください。薄珂。意見をまとめて報告なさい」
「っは、はい!」

 急に名を呼ばれ薄珂は思わず背を伸ばした。
 護栄はいつも『殿』を付けて呼んでくれている。宮廷を出ても来賓だったことへの経緯なのだろう。
 けれど部下ならば敬称など付けはしない。

「お、おお、お前護栄様の部下だったのか」
「正式な着任はまだですがね。優秀な子ですよ」

 護栄はにこりと微笑んだ。浩然はやはり複雑そうではある。
 けれど薄珂はきゅっと唇を噛み、改めて背をただし男に向き合った。

「獣人の生活向上をします。後日獣人保護区へ伺いますので、現状を教えて下さい」
「おお! 任せとけ!」

 男は出会った時とは別人のように無邪気な笑顔を見せ、よろしくな、と何度も薄珂の背を叩いた。
 最後に立珂を強く抱きしめると、手を振って帰っていった。
 嵐が去った部屋は急に静まり、ふうと護栄はため息を吐き薄珂の肩をとんと叩いた。

「制服が届いたらしっかり働いてもらいますよ」
「は、はい!」
「大体みんな三日で逃げるけどね」
「逃げませんよ」
「最初はそう言うんだよ」
「十日持てば良いかもしれませんね」
「逃げませんてば」

 くすくすと護栄と浩然は笑った。
 護栄の元で生き残ったのはわずか三人。どんな流れで離脱するかは分からないが、それほど厳しいのだろう。

「では獣人の件、頼みましたよ」
「はい」

 そうして護栄と浩然は帰って行った。
 その日は夜まで獣人の服について考え、蒲団に入っても立珂は興奮していた。
 早く話を聞きに行こうね、とにこにこしたまま眠りにつく立珂を眺めながら薄珂も眠った。
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