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第四章 翼衣專店

第九話 動き出した未来【中編】

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「久しぶりだねえ、美星!」
「放して下さい! 穢れます!」
「おやおや。なんて言い草だ。ひどいもんだよ」
「あなたに優しくする義理はありません」

 抱き着いたのは紅蘭だ。よしよしと頭を撫でていたが、その手は払われ美星はつんっと顔を背けた。
 前面に不愉快さを押し出している。

「えっと、知り合い?」
「違います」
「そうだよ」

 真逆なことを言い嫌悪を示すこの態度は、護栄の時と既視感を覚える。
 一体どういう関係なのかじっと二人を見るが、紅蘭はにやりと笑い咳ばらいをした。

「改めて挨拶しよう。あたしが美星の母親だ!!」
「「え!?」」

 美星はげんなりと肩を落とし、立珂は無言で二人の顔を見比べている。
 薄珂も二人を見比べるが、そうか、とようやく合点がいった。

「そうだ。誰かに似てると思った。美星さんだ」
「止めて下さい! こんな人と似てるなんて!」
「は~。ひどい娘だよ」
「どっちがですか! 立珂様! こんな人の傍にいてはいけませんわ。それよりもお客様を見なくては!」
「う、う」
「明日からは私もお手伝いしますからね! さあさあ!」

 美星は立珂を抱き上げすたすたと店内へと入って行った。
 あまりの態度に薄珂はぽかんと口を開け、当の紅蘭は笑っている。

「相変わらず元気な娘だ」
「あの、育ての親じゃなくて本当の?」
「そうだよ。似てるのは家族って言ったのお前だろう」
「けどあんな美星さん初めてだよ。仲悪いの?」
「良くはないな。あたしはあの子を捨てたからね」
「えっ」

 衝撃的な言葉がさらりと出てきて、薄珂は思わずびくりと震えた。
 けれど紅蘭はくすくすと笑うだけでそれ以上は何も言わず、響玄の肩をばしっと叩いた。

(あ、そっか。美星さんのお母さんてことは先生の奥さんだ。奥さん……)

 薄珂はじいっと紅蘭を見つめた。

(……なんか納得いかない)

 響玄親子の過去は知らないが、なんとなく響玄の妻で美星の母なら清楚で上品な女性だろうと想像していた。
 響玄と美星は仲の良い親子で二人とも品があり、いかにも高級店を営むにふさわしい。
 きっと家族全員そうなのだろうと思っていたが、薄珂の期待は大きく裏切られてしまった。

「何か言いたげだね薄珂」
「あ、いえ、別に」
「ふんっ。いいさいいさ。それより響玄。あんた本当に有翼人保護区作るのかい?」
「もう着手している。薄珂と立珂のおかげで現実的な話になったんだ」
「儲かりそうだね」
「それはそれこれはこれ」

 わはは、と響玄は気分良さそうに笑った。対等に話す二人は夫婦というより仕事相手のようにも見える。
 それに家族ならば一緒に暮らしていても良いだろうが、響玄と美星は二人暮らしだ。
 何か深い事情がありそうで想像を膨らませていると、こんっと紅蘭に小突かれた。
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