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第四章 翼衣專店
第四話 『りっかのおみせ』展示会の始まり【後編】
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「客が多すぎてどうなるかと思ったが混乱もない。よかったな」
「劇団は列整理もお客さんさばくのも慣れてるしね。任せてよかった」
「広告を頼み経験不足も解消する。お前は本当に頭の回る子だ」
「大袈裟だよ。俺じゃできないからやって欲しいだけ」
「だが誰でも迦陵頻伽を引っ張り出せるわけではない。それを成したのはお前の手腕だ」
「それは立珂の服がすごいからだよ」
「だが団長殿の決め手は護栄様との繋がり。それはお前が作った価値だ」
「それも護栄様が凄いんだ。俺は名前を出しただけ」
「誰でも護栄様の名を使えるわけではない。いいか、薄珂。品だけ良くても流通せねば成功はない。偶然成功などせんのだ。お前は偶然を必然にした。それがお前の才で手腕。誇って良い」
「偶然が必然……?」
響玄はよく薄珂を褒めてくれる。
商売をしたいと言った当初から護栄との商談を経て様々な経験をさせてもらっている薄珂だが、自分が飛びぬけて優秀であるようには感じていない。
だがもう一人薄珂を褒めて認めてくれている人物がいる。
(護栄様も似たようなこと言ってたな。偶然に見えるのは必然である事に気付けてないだけって)
護栄は蛍宮政治の要であり、世界的にも名の知れた人物だ。戦争を三日で終わらせ天藍を皇太子の座に就かせた。
求心力となったのは天藍だが、それを確固たる地位へ押し上げたのは全て護栄の策だったという。
そして、その護栄が認め欲したのは立珂ではなく、立珂の羽根に価値を持たせ国宝へと押し上げた薄珂だった。
響玄は可愛がってくれている欲目があるとしても、護栄は情で動く男ではない。
その護栄が薄珂に何かあると言うのならそうなのかもしれないが、薄珂にはまだ何も分からなかった。
ぐるぐると考え込んでいると、ばんっと強く背を叩かれた。叩いて来たのは今回の運営をしてくれている劇団員だ。
「ぼーっとするな! 演者は準備できてるぞ!」
「あ、うん! 立珂。着替えできてるか?」
「うんっ! 見て!」
余計なこと考えてる場合じゃない、と薄珂はぷるぷると首を振り立珂に駆け寄ると既に着替えを完了していた。
基本的には着易さを重視しているが、今回は華やかさも重視している。
生地はいつもより重ためで、羽による保温で体温の高い有翼人にとっては少々暑くなるが高級感があり見栄えが良いためこれにしたらしい。
本来であれば通気性の良さが重視されるが、それも今回は目を瞑った。
その理由は立珂の服の秘められた多様性を示すためだ。
「お洒落はがまん! 動きにくくても蓮花さんみたいにお洒落したい人が来てるよきっと!」
「ああ。今まで装飾が多くて重い服はあんまり売れなかったけど、それも売り切れたしな」
汗疹や皮膚炎対策から始まった立珂の服だが、立珂自身がお洒落に詳しくなるにつれ服の種類も増えていた。
中には汗をかくくらい通気性が悪い服もあるが、それでも立珂は着る。
それは立珂が皮膚炎と無縁になったからで、これこそが有翼人の行きつく娯楽なのだ。
「行くぞ、立珂。みんなにお洒落の楽しさを教えてあげるんだ!」
「うん!」
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめた。
そして立珂の手を引き舞台袖へと行き、立珂の背をぽんと押した。
すると立珂は大きな目を輝かせ、薄珂の腕の中から飛び出て一人で舞台の中央へと向かって行った。
「劇団は列整理もお客さんさばくのも慣れてるしね。任せてよかった」
「広告を頼み経験不足も解消する。お前は本当に頭の回る子だ」
「大袈裟だよ。俺じゃできないからやって欲しいだけ」
「だが誰でも迦陵頻伽を引っ張り出せるわけではない。それを成したのはお前の手腕だ」
「それは立珂の服がすごいからだよ」
「だが団長殿の決め手は護栄様との繋がり。それはお前が作った価値だ」
「それも護栄様が凄いんだ。俺は名前を出しただけ」
「誰でも護栄様の名を使えるわけではない。いいか、薄珂。品だけ良くても流通せねば成功はない。偶然成功などせんのだ。お前は偶然を必然にした。それがお前の才で手腕。誇って良い」
「偶然が必然……?」
響玄はよく薄珂を褒めてくれる。
商売をしたいと言った当初から護栄との商談を経て様々な経験をさせてもらっている薄珂だが、自分が飛びぬけて優秀であるようには感じていない。
だがもう一人薄珂を褒めて認めてくれている人物がいる。
(護栄様も似たようなこと言ってたな。偶然に見えるのは必然である事に気付けてないだけって)
護栄は蛍宮政治の要であり、世界的にも名の知れた人物だ。戦争を三日で終わらせ天藍を皇太子の座に就かせた。
求心力となったのは天藍だが、それを確固たる地位へ押し上げたのは全て護栄の策だったという。
そして、その護栄が認め欲したのは立珂ではなく、立珂の羽根に価値を持たせ国宝へと押し上げた薄珂だった。
響玄は可愛がってくれている欲目があるとしても、護栄は情で動く男ではない。
その護栄が薄珂に何かあると言うのならそうなのかもしれないが、薄珂にはまだ何も分からなかった。
ぐるぐると考え込んでいると、ばんっと強く背を叩かれた。叩いて来たのは今回の運営をしてくれている劇団員だ。
「ぼーっとするな! 演者は準備できてるぞ!」
「あ、うん! 立珂。着替えできてるか?」
「うんっ! 見て!」
余計なこと考えてる場合じゃない、と薄珂はぷるぷると首を振り立珂に駆け寄ると既に着替えを完了していた。
基本的には着易さを重視しているが、今回は華やかさも重視している。
生地はいつもより重ためで、羽による保温で体温の高い有翼人にとっては少々暑くなるが高級感があり見栄えが良いためこれにしたらしい。
本来であれば通気性の良さが重視されるが、それも今回は目を瞑った。
その理由は立珂の服の秘められた多様性を示すためだ。
「お洒落はがまん! 動きにくくても蓮花さんみたいにお洒落したい人が来てるよきっと!」
「ああ。今まで装飾が多くて重い服はあんまり売れなかったけど、それも売り切れたしな」
汗疹や皮膚炎対策から始まった立珂の服だが、立珂自身がお洒落に詳しくなるにつれ服の種類も増えていた。
中には汗をかくくらい通気性が悪い服もあるが、それでも立珂は着る。
それは立珂が皮膚炎と無縁になったからで、これこそが有翼人の行きつく娯楽なのだ。
「行くぞ、立珂。みんなにお洒落の楽しさを教えてあげるんだ!」
「うん!」
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめた。
そして立珂の手を引き舞台袖へと行き、立珂の背をぽんと押した。
すると立珂は大きな目を輝かせ、薄珂の腕の中から飛び出て一人で舞台の中央へと向かって行った。
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