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第三章 蛍宮室家
第五話 侍女の想いと立珂の願い
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「「「「「立珂様! お知恵をお貸しください!」」」」」
「う?」
ここは宮廷の一角にある立珂の離宮だ。
以前のところは宮廷から遠く森深いため侍女が行きにくく、護栄が新しい離宮を選んでくれた。立珂はにおいに弱いため風通しの良い広い露台があり、かつ立珂の対好きな薫衣草の良い香りがする離宮だ。
今日も立珂は侍女と遊ぶためにやって来たのだが、彼女たちはやけに目を血走らせている。
「そういえば立珂に相談があるんだっけ」
「はい! 見て下さい、私共の服と装飾を!」
「きれいだけどみんな同じだね」
「そうなんです! 一律の規定服! 髪飾りは白か緑!」
言われてみると、たまに規定服ではない者もいるがほとんどの侍女は皆同じ服装をしている。髪型と装飾品は多少異なるが、いずれもきちんとまとめた清楚な装いだ。
だが面白みがないと言えばない。立珂は侍女の名を一人一人覚えているが、薄珂は皆同じ服同じ髪型で見分けが付かないことの方が多い。
お洒落に興味が無い薄珂は怒るほどのことに思えなかったが、立珂に以前のような布に包まるだけにしろと命じられたら腹が立つ。そういうことなのだろう。
じっと宮廷職員を見ていると、侍女の一人が紫色の髪飾りを付けていた。妙に派手で一人だけ浮いている。
「あの人紫使ってるけどいいの?」
「ああ、伴侶契約を結んでいれば紫も使えるんですよ」
「なにそれ」
「婚姻を結ばず結婚する感じですね。この人と人生を共にします、と宣言するんです」
「ふうん。何が変わるの?」
「本人の気持ちと使える制度です。大きいのは生活補助と国籍。現在他国籍でも蛍宮国籍になります」
「……よく分かんないけど、それだと紫使えるのは何で?」
「私には伴侶がいますよ、という表明です。結婚指輪のようなものですね」
「じゃあ指輪すればいいじゃない」
「宮廷は宝石も禁止なのです。つまらないでしょう」
「え? 彩寧さん使ってないっけ」
「位の高い方は別ですわ。私たちのような下っ端は髪飾りに布を付けるのが精一杯!」
「なんで? みんな一緒に働いてるんだから関係無いじゃない」
「立珂様……!」
侍女は黄色い悲鳴を上げて喜んだ。
響玄の元で学び、人間社会の上限関係というのが薄珂にも少し分かって来た。本来であれば天藍は手の届かない相手で、来賓というのがどれだけ有難い地位だったのか。
そして、来賓であった立珂が侍女の望む言葉を言うというのはそれなりに期待を背負ってしまうということも。
「つまんないね、二色なんて」
「そこでご相談なのです!」
「う、うん」
「「「どうしたらお洒落になるかご助言下さい!!」」」
「僕が?」
侍女はずずいっと立珂に詰め寄ってきた。
まるで食いつかれそうな勢いで、思わず立珂を抱き上げる。
「立珂様はとってもお洒落! 品選びも独自の工夫も!」
「宮廷を出てからはさらに磨かれたようで! お見掛けするたび胸が高鳴りますわ!」
「そうでしょう! 響玄先生が他の国のお洒落を教えてくれるんだ! この服も先生がくれたの!」
「とても可愛いですわ。これはどこの?」
「東の方だって。浴衣っていうんだよ。簪も貰った」
立珂は薄珂の腕からぴょんと飛び降りるとくるりと回ってみせた。
浴衣は立珂の瞳と同じ橙色で、簪は薄珂の瞳と同じ黄金。装飾品は薄珂の瞳の色を選ぶことが多いらしく、わざわざ黄金を探して用意してくれたそうだ。
今日は髪型も凝っている。美星が朝から結ってくれて、編み込みで小さなお団子になっている。立珂のふわふわな髪が風に揺れて可愛らしい。
わあっと侍女は立珂に群がり、どんな生地なのかどういう構造なのかを議論し始める。立珂はとても楽しそうで、もっとこうしても可愛いと思うんだ、と興奮して訴えている。
けれど薄珂は不思議に感じた。ここまで明らかな不満は天藍の評判を下げる。それを護栄が放置するとは思えない。
それに護栄は職員からも支持が高い。その理由の一つに職員の声に耳を傾けてくれるからというのがあり、かつて礼儀作法を強要したのも職員からの不満解消のためだったと薄珂は後から知った。
(優先順位が低いんだろうな。訴えるだけじゃ変わらない)
だが立珂は何とかしてやりたいのだろう。薄珂を見上げる目がそう言っている。
諦めるようなことは立珂が悲しむだろう。立珂には大好きな侍女のみんなと心行くまで遊ばせてやりたい。
薄珂は少し考えて、侍女が付けている装飾品を一つずつ見ていく、
「素材は何でもいいの?」
「ええ。白と緑なら」
「何か良い案でも!?」
「うん。規定は変えられないけど手はあるよ」
「本当ですか!?」
「でも少し待ってくれる? 十日後に護栄様と会うからそれまでは」
「え、ええ? 護栄様に直接掛け合って下さるので?」
「ううん。取引きだよ。利益があれば護栄様は頷く」
期待に満ちた目で見上げてくる立珂はとても可愛くて、薄珂はたまらず抱き上げ頬ずりをした。
「よし、立珂! みんなのためにやるぞ!」
「おー!」
「う?」
ここは宮廷の一角にある立珂の離宮だ。
以前のところは宮廷から遠く森深いため侍女が行きにくく、護栄が新しい離宮を選んでくれた。立珂はにおいに弱いため風通しの良い広い露台があり、かつ立珂の対好きな薫衣草の良い香りがする離宮だ。
今日も立珂は侍女と遊ぶためにやって来たのだが、彼女たちはやけに目を血走らせている。
「そういえば立珂に相談があるんだっけ」
「はい! 見て下さい、私共の服と装飾を!」
「きれいだけどみんな同じだね」
「そうなんです! 一律の規定服! 髪飾りは白か緑!」
言われてみると、たまに規定服ではない者もいるがほとんどの侍女は皆同じ服装をしている。髪型と装飾品は多少異なるが、いずれもきちんとまとめた清楚な装いだ。
だが面白みがないと言えばない。立珂は侍女の名を一人一人覚えているが、薄珂は皆同じ服同じ髪型で見分けが付かないことの方が多い。
お洒落に興味が無い薄珂は怒るほどのことに思えなかったが、立珂に以前のような布に包まるだけにしろと命じられたら腹が立つ。そういうことなのだろう。
じっと宮廷職員を見ていると、侍女の一人が紫色の髪飾りを付けていた。妙に派手で一人だけ浮いている。
「あの人紫使ってるけどいいの?」
「ああ、伴侶契約を結んでいれば紫も使えるんですよ」
「なにそれ」
「婚姻を結ばず結婚する感じですね。この人と人生を共にします、と宣言するんです」
「ふうん。何が変わるの?」
「本人の気持ちと使える制度です。大きいのは生活補助と国籍。現在他国籍でも蛍宮国籍になります」
「……よく分かんないけど、それだと紫使えるのは何で?」
「私には伴侶がいますよ、という表明です。結婚指輪のようなものですね」
「じゃあ指輪すればいいじゃない」
「宮廷は宝石も禁止なのです。つまらないでしょう」
「え? 彩寧さん使ってないっけ」
「位の高い方は別ですわ。私たちのような下っ端は髪飾りに布を付けるのが精一杯!」
「なんで? みんな一緒に働いてるんだから関係無いじゃない」
「立珂様……!」
侍女は黄色い悲鳴を上げて喜んだ。
響玄の元で学び、人間社会の上限関係というのが薄珂にも少し分かって来た。本来であれば天藍は手の届かない相手で、来賓というのがどれだけ有難い地位だったのか。
そして、来賓であった立珂が侍女の望む言葉を言うというのはそれなりに期待を背負ってしまうということも。
「つまんないね、二色なんて」
「そこでご相談なのです!」
「う、うん」
「「「どうしたらお洒落になるかご助言下さい!!」」」
「僕が?」
侍女はずずいっと立珂に詰め寄ってきた。
まるで食いつかれそうな勢いで、思わず立珂を抱き上げる。
「立珂様はとってもお洒落! 品選びも独自の工夫も!」
「宮廷を出てからはさらに磨かれたようで! お見掛けするたび胸が高鳴りますわ!」
「そうでしょう! 響玄先生が他の国のお洒落を教えてくれるんだ! この服も先生がくれたの!」
「とても可愛いですわ。これはどこの?」
「東の方だって。浴衣っていうんだよ。簪も貰った」
立珂は薄珂の腕からぴょんと飛び降りるとくるりと回ってみせた。
浴衣は立珂の瞳と同じ橙色で、簪は薄珂の瞳と同じ黄金。装飾品は薄珂の瞳の色を選ぶことが多いらしく、わざわざ黄金を探して用意してくれたそうだ。
今日は髪型も凝っている。美星が朝から結ってくれて、編み込みで小さなお団子になっている。立珂のふわふわな髪が風に揺れて可愛らしい。
わあっと侍女は立珂に群がり、どんな生地なのかどういう構造なのかを議論し始める。立珂はとても楽しそうで、もっとこうしても可愛いと思うんだ、と興奮して訴えている。
けれど薄珂は不思議に感じた。ここまで明らかな不満は天藍の評判を下げる。それを護栄が放置するとは思えない。
それに護栄は職員からも支持が高い。その理由の一つに職員の声に耳を傾けてくれるからというのがあり、かつて礼儀作法を強要したのも職員からの不満解消のためだったと薄珂は後から知った。
(優先順位が低いんだろうな。訴えるだけじゃ変わらない)
だが立珂は何とかしてやりたいのだろう。薄珂を見上げる目がそう言っている。
諦めるようなことは立珂が悲しむだろう。立珂には大好きな侍女のみんなと心行くまで遊ばせてやりたい。
薄珂は少し考えて、侍女が付けている装飾品を一つずつ見ていく、
「素材は何でもいいの?」
「ええ。白と緑なら」
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「うん。規定は変えられないけど手はあるよ」
「本当ですか!?」
「でも少し待ってくれる? 十日後に護栄様と会うからそれまでは」
「え、ええ? 護栄様に直接掛け合って下さるので?」
「ううん。取引きだよ。利益があれば護栄様は頷く」
期待に満ちた目で見上げてくる立珂はとても可愛くて、薄珂はたまらず抱き上げ頬ずりをした。
「よし、立珂! みんなのためにやるぞ!」
「おー!」
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