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第八章 リルとの別れ……魔王ガルドとの戦い

第193話 商人リルの悩み

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◆アストロンの視点

 俺はある人物に会う為、
森の中を歩いていた。


 残された時間はあと僅か、現状リルが
父様とバイオス宰相に捕捉されていない
前提の話ではあるが、戦力として六割程度、
これではエーリュシオン共和国との戦争に
間にあわない。そうなればリルが見つかる。
もしくは殺されてしまう。ここはやはり
リルだけでも救出するしか手は
ないかもしれない。

 頼むリル、見つからないでくれよ。
見つかれば奴らは必ずリルを
捉えに来る。リルの神の名を冠する
スキルを手に入れる為に
……どんな手を使っても……

「なんだアストロン随分と難しい顔を
して歩いているじゃないか!」

「あ~考え事をしていた。元気に
していたかドルン」
 ずんぐりむっくりな体型をした
毛むくじゃらな男が落ちてきた。

「なんだ力を貸して欲しいのか?
アストロンらしくないな、どうした!」

「事情については説明する。
力を借りたい」
 強い意思を持った声でアストロンは
言った。



………………▽

◆リルの視点

「契約については以上となるが
二人共質問事項はあるかい」

 サリーおばあちゃんは水源での
商売にあたる契約について説明
してくれた。

説明内容は下記のようになる
①水源である湖の権利はリル達のもの
②水源を使用するにあたり必ず交渉を
 得て使用料金を決める
③新しい店舗を立てる場合は必ず
 許可を得ること
④水を決して汚さない事
⑤…………………………
⑥…………………………

  契約の内容は五十項目を超えた。
正直全部なんて覚えられないけど、
特記するべき事項は①と④になる。

 ①で私達は湖の権利を得ることが
出来た。これに関してはサリー
おばあちゃんのお陰と言う他ない。
外にある山や川、森等が個人や団体の
物になる事はまずない。しかし
商業ギルドの副ギルドマスターとして
様々な資料を持って国の機関に直談判、
湖の権利を得ることが出来た。

 ④水を決して汚してはいけない。
確かにその通りだと思うけど、
これは言葉以上に重みのある項目になる。
もしもその行為を見つければ
水の大精霊マリンが怒り暴れるからだ、
すでに3件発生している事を聞いている。
水で十数メートル吹っ飛ばされたらしい。
 本気で怒らせると王都に影響を及ぼす
可能性があるので細心の注意が必要と
なる。

「リルには事前に承諾を貰っている。
リドさんはいかがですかな~」

 サリーおばあちゃんはリドさんに
確認をする。

「そうですね~特に問題ありませんが
一つお願いがあります。今回の事業に
関しては我々としても非常に重要な
ものと考えております。その為
こまめな情報交換が必要と感じました。
リルさんと定期的な打ち合わせしたいの
ですが宜しいでしょうか?」

「うん、確かにそれは重要な事だとも、
リルもちろん良いな!」
 
 いつもと違ったやや強い圧で
リドさんとの打ち合わせを要求される。
私自身も経験のない事だらけで判断に
困る事が多く起こると思うので
良いのだが、若いけどリドさんみたいな
ベテラン相手にしなければならないと
思うと自信がなく逃げたくなっていた。
でもそんな事でどうするのリル、
自らに気合を入れ私は打ち合わせに
参加することにした。


 水源の契約については正式に成立、
私は家ではなく例の湖に向かう。

「お!リルお疲れ~どうだった~、
上手くいったか?」

 湖の水辺に蒼字(そうじ)さんが
立っていた。私を見つけてすぐに
声をかけてくれた。嬉しい!エヘ!

「はい!蒼字(そうじ)さんの方は
どうですか?」
「ん~まだまだ先は長そうだ!
けど大分タフになった
弱音は吐くけど立ち上がるのは速くなった」

 私の目の前にプカプカと浮かぶ
エルフが一人、きっとあれが
アシュリーなんだろう。すぐにグワッと
立ち上がると、その場所に水球が着弾し
水柱が上がりアシュリーも吹っ飛んで
いく。

「そろそろ終わりかな~腹減ったら
動かなくなるからな~マリン~
そろそろ一回休憩だ~」

 蒼字(そうじ)さんが声をかけると、
湖から水がシュルシュルと地面を
這い蒼字(そうじ)さんに絡まる。

「主様疲れたのじゃ、かまってたもれ」
「あ!またマリンさんダメです!
蒼字(そうじ)さんから離れなさい!」
「またリルか~妾は主様にヨシヨシ
されたいんじゃ邪魔をするでない」
「マリン、ヨシヨシはしても良いけど
精霊は基本疲れないはずだぞ!」
「なんじゃ主様、細かい事を気に
するでない!妾をヨシヨシするのじゃ」
 マリンは蒼字(そうじ)さんに
頭を傾け撫でられに行く。
あ~もうダメだって言ってるのにー、
 私は割って間に入ろうとすると
私より速く来た人物が!

「まずは、ワタシを、ヨシヨシ、
するべきだ~」
 
「「わあ!?」」
 突然死にかけのアシュリーが現れた。

「お腹すいたよ~そうじ~リル~
ごはんにしよ!」

 相変わらず年上の気配を欠片も
出さないアシュリーに
私と蒼字(そうじ)さんは笑った。

 私は少し遅い昼食を取りながら
湖の件の話し合いに
ついて決まった事を説明した。

「リルお疲れ、大分なれない事して
疲れたんじゃないか?顔に出ているぞ!」

「やっぱりですか、う~ん身体を
動かして物を売ってる時と違って
頭を使うのは苦手です。は~でもそれだと
ダメですよね~どうしよう~」

 私はガックリと項垂れると
頭に優しく手が乗った。

「リル、努力をしなくても良いとは
言わない。考えなくても良いとは
言わない。けど俺達は仲間だ!一人
じゃない。仲間の俺達を頼れよ!」

 蒼字(そうじ)さんは私の頭を
撫でてくれた。
 
 私はまだまだ頑張れる。さっきまで
心がどんよりとなっていたのが一気に
晴れやかな気持ちになり軽くなる。
なんでこんな気持ちになるんだろう?
まるで魔法の様なその手が離れた時、
今度は切ない気持ちになった。
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