星降る夜に

さいころ

文字の大きさ
上 下
11 / 13

1890/07/07/22:00 潮實*

しおりを挟む
吐息まで飲み込まれてしまう程の口付けはただ甘く、脳の奥から蕩けてしまいそうだった。唾液を混ぜ合わせるように、僕の舌と絡まるように動く先生の薄い舌に、知らない感覚が口内に感覚が広がっていく。接吻に夢中になっていると、先生は徐に僕の下半身に触れた。緩やかな刺激に、腰がびくりと痙攣する。
「脱いで」
「…はい、先生」
 夢でも、妄想でもない。先生の細い指がそっと肉棒に触れる。薬のせいだろうか。痙攣するように細かく震える手が齎す僅かな刺激ですら快楽を誘引する。じわじわと溢れ出る粘液を塗り込み、丁寧に扱く。波のように押し寄せる快楽に、体を震わせていると、突如、指とは違う、不思議な感覚が伝った。
「え、」
 先生は小さな舌を僕の赤黒く屹立したそれをちろりと舐めた。手とは全く別物の、その感覚にびくりと体が跳ねる。
 想像したことがない訳ではない。ただ、先生にこんなことをさせるのは、申し訳なかった。止めようと先生の肩を揺するも、先生は男が弱い部分を的確に舌で愛撫し、僕を快楽の海へ誘い込む。皇に教え込まれたのだろうか。そう思うも先生は腹を立てる余裕すら与えてはくれなかった。裏側を舐め上げられ、快楽が背中を駆け上がる。視界がバチバチと点滅する。達する_そう思った瞬間、先生は口を離した。
「なんで…っ」
 射精直前で止められた切なさに思わず声を上げる。先生は鈴口に軽く口づけをすると妖艶に笑った。
「私に頂戴」
 先生の吐息が肥大した肉棒に触れる。その僅かな刺激でさえ、腰の奥に溜め込んでいた快感を放出させるのには、十分すぎた。
「す、すみませ!」
 勢いよく放出された精は先生の淡麗な顔を汚す。快楽の余韻に浸るわけなどできず、僕は反射的に謝罪を述べた。
「いや、私こそすまない。意地悪してしまったね」
 先生は怒る訳でもなく、肩をすくめて笑うと、口元の静液をちろりと舌で舐った。その瞬間、硬度を失ったはずの僕の物は硬さを取り戻し、脳はただ先生の温度を感じたい、先生と繋がりたい。そんな欲望に支配される。思わず、先生の肩を掴み、後ろに体重をかけた。
 簡単に押し倒せてしまう先生は、驚くくらい細く、軽くて、すぐに失いかけていた自分の理性が戻ってくる。僕を見上げる先生は力加減を間違えれば折れてしまいそうな程に儚かった。少しでも乱暴にしてしまったら、消えてしまうんじゃないだろうか。
「…好きにしていい。君に壊されるのなら、本望だよ」
 僕の不安を感じ取ったのか先生は、僕の頬を優しく撫でた。小さく頷き、僕は先生の腿に手を触れる。先ほど吐精した粘液を潤滑剤の代わりに指に塗り込むと、その窄まりに慎重に指を挿入した。びくりと先生の体がはね、触れていた腿の強張りを感じる。
「…大丈夫ですか」
「う、ん…大丈夫」
 あまり、大丈夫そうには聞こえなかった。やはり、長年先生を縛り続けた恐怖はそう簡単に拭えるものではない。少しでも気休めになればと、もう片方の手を、強く握られた拳に重ねた。
「ん、ッ、」
 緊張を宥めるようにゆっくりと指を動かす。時折聞こえる吐息混じりの先生の声は痛がっている、という訳ではなさそうで胸を撫で下ろした。指を徐々に増やし、ゆっくりと中を押し広げていく。
「ッ、そこ、やめ」
 擽ったそうに、先生が身を捩る。そして、その摩擦ではだけた着物は、隠していたその腰を顕にした。強く掴めば折れてしまいそうな腰。そしてその左側には、不自然に白く、ひきつった箇所がある。思わず、その傷跡に目が引かれ、手が止まる。
「…み、のるくん?」
 先生の不安げな声が聞こえる。しかし僕は気にも止めず、吸い寄せられるように、その傷跡に唇を落とし__歯を突き立てた。
「い、っ」
 ビクリ、と先生の身体が跳ね、口に鉄の味が広がる。口を離すと、その傷跡の上には歯形がつき、じわりと滲んだ血がその形を不鮮明にしていく。
「…上書きです」
 顔を上げると、先生の両の瞳から涙が溢れていることに気がついた。しまった、と頭から血の気が引く。僕は何をやっているんだ。
「申し訳ありません!痛かった、ですよね」
 思っていたよりも強く噛みすぎてしまったようだ。想像よりも出血をしているし、これはかなり痛かったのでは。ぼくは咄嗟に謝り、自分の着物袖で傷を抑える。先生は小さく首を振り、僕の頭を引き寄せ口を重ねた。
「ありがとう、實くん」
 泣きながら笑う先生は、息を呑むほど美しかった。“
『この世のものではないほど美しいこの書生は、天人ではなかろうか。腕を離せばすぐに天に帰ってしまうのではないかそんな不安に駆られてしまう』
 あの小説にある一節だが、本当に、その通りだなと思う。東雲先生の話を聞いた後に皇を尊敬するのは憚れるが、こればかりは皇の考えに、表現に感銘を受ける。見惚れてしまっていると、先生は、再び口づけをし、僕の耳元で囁いた。
「おいで、實くん」
 ドクン、と腰の奥で欲望が渦巻く。
「はい、先生」
 張り詰めた先端を押し当てる。突き上げたい気落ちを納めながら、ゆっくりと腰を進めると、湿った窄まりはぎゅうぎゅうと僕のものを締め付けて、快楽に支配されそうになる。
「實くん」
 苦しいのだろうか、先生はぎゅと僕の手を握った。顔を上げると、先生は水分をたっぷりと含んだ瞳で僕を見つめていた。
「…名前を、呼んで」
 その言葉に、僕は先生の手を握り返した。
 先生は、気づいていたのだろうか。僕は敢えて、先生のことを名前で呼ばなかった。先生のことを、名前で呼ぶのが怖かった。僕と先生は、ただの書生と先生。僕が抱いている感情はただの羨望で、決して恋慕ではない。今まで、自分にそう言い聞かせて、秘めた恋心を、劣情を、隠してきた。名前で先生のことを呼んでしまえば、それが崩れて、いずれ、先生に知られてしまう。知られれば、先生は僕をそばには置いてくれなくなるのではないかと、不安だった。
「…黎明、さん」
 恐る恐る口を開く。恐れていたことは何もなく、先生の名前を呼んだからといって、僕の中の先生への感情は何も変わることはなかった。ただただ先生が愛おしい。先生を愛している。先生は、自分の名前を表すような、その紫がかった淡い青色の瞳を、嬉しそうに細めると、僕の背中に手を回した。
「…動いて」
 体重がかかっているというのに、重量感がまるでない。本当に天人なのではないかと不安にすら思う。汗で滑る脇腹を掴み、腰を揺さぶる。
「あっ、」
 一箇所を擦った時、先生が甘い声をあげる。ここが善いのかと腰を突き上げると、今まで、どこか余裕を感じさせていた、先生が腰を浮かせ、声を上げた。
「っ、待っ、みの、る、くッ」
 腰を揺するたびにひっきりなしに漏れるその嬌声に甘い愉悦が脳に広がっていく。
「っ、實く、ん」
「黎明さんッ、」
 夢中になって求めている間、僕もジリジリと溜め込まれたその熱に、限界を迎えようとしていた。
「黎明さん、僕、もうっ」
「いい、よ、實くん」
 前立腺が収縮し、快感が駆け巡る。口付けを交わしながら、先生の中で、熱を吐き出した。溶けるようなその熱は、先生と融合してしまったかのように感じる。僕は幸福感に揺蕩いながら永遠にこの時間が続けばいいのに、とそんな叶うはずもないことを、心から願っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

逢瀬はシャワールームで

イセヤ レキ
BL
高飛び込み選手の湊(みなと)がシャワーを浴びていると、見たことのない男(駿琉・かける)がその個室に押し入ってくる。 シャワールームでエロい事をされ、主人公がその男にあっさり快楽堕ちさせられるお話。 高校生のBLです。 イケメン競泳選手×女顔高飛込選手(ノンケ) 攻めによるフェラ描写あり、注意。

花開かぬオメガの花嫁

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
帝国には献上されたΩが住むΩ宮という建物がある。その中の蕾宮には、発情を迎えていない若いΩや皇帝のお渡りを受けていないΩが住んでいた。異国から来た金髪緑眼のΩ・キーシュも蕾宮に住む一人だ。三十になり皇帝のお渡りも望めないなか、あるαに下賜されることが決まる。しかしキーシュには密かに思う相手がいて……。※他サイトにも掲載 [高級官吏の息子α × 異国から来た金髪緑眼Ω / BL / R18]

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

処理中です...