ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~

月見里清流

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第2章 銃口の先

5-2 shipwreck(フォカロル)――横浜

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 それからの行動は早かった。


 ジープ二台に分乗。
 倉庫から神聖化コンシクレーシヨン済みの武器、弾薬を積み込み、昼過ぎに出発した。
 横浜くらいであれば往復でも余裕でジープの燃料が持つし、電車で武器を運ぶのは――それが小銃だけでなく手榴弾など爆薬も含むモノだから尚更避けた方が無難であった。


 現地担当者への連絡――要は立ち入り禁止の要請なのだが、我々は秘密結社である。名義も変える必要があり、詳しくは知らないがG2参謀第二部という部署名を使っているらしい。
 それにしても意外だったのは、今回はクラウディアが待機になった事だった。


『どうして、クラウディアさんを待機させたんです?』


 道中――。
 夕暮れが迫りつつある、冬の砂利道。多摩川沿いに走り、登戸を過ぎた辺りである。寒風を頬に浴びながら、助手席で手持ち無沙汰気味に、朱に染まる空を見上げていた。
 二台別々のジープでハンドルを握るのはデービッドとバーナード。凸凹道に揺られながら、私は後ろを走る隊長に念話で問いかけた。


『――あぁ、大した理由はない。最近細かい案件で出撃が多かっただろう。ここは無理をしないことが最優先だ。誰か一人でも欠員が出ては困るからな』
『養生のため、ですか』
『どんな戦士でも必要だろう?』
 確かにこの二週間、ちまちまとした闘いがあった。その何れもが大立ち回りビツグファイトではなく、犬の喧嘩程度の闘いだった。



 そもそも、この『神聖同盟』日本派遣支部は、活発化した怪異現象の調査に来日したチームである。主な仕事はあくまで調査。全国各地に駐屯する米軍の各師団司令部から上がってくる、怪異現象及びそれに類する現象を取り纏めることがほとんどである。


 勿論、中身は千差万別、多種多様。
 曰く、火の玉を見た。
 曰く、空を飛ぶ生きた布きれを見た。
 曰く、死人が歩いているのを見た。
 曰く、部隊の人数が一人多い。
 曰く、夜中に女がすすり泣く声を聞いた。
 曰く、同僚が錯乱して銃を市中で乱射した。


 さて――、どれが怪異でどれが怪異でないか。


 中には日本人に馴染み深い妖怪話の類いが多い。今まで書籍や伝聞でしか取り纏められなかった妖怪・幽霊・魑魅魍魎の類いを、連合軍協力組織が公式に調査するというのも可笑しなものである。


 だが、怪異が占領政策への悪影響を与え、人に危害を加えるなら――、話は別である。
 欧州戦線での経験から、『神聖同盟』では怪異を分類、ランク付けし、対処が必要な現象を篩い分けスクリーニングしている。分けられた脅威度に基づき、人選を行い、日々の調査、戦闘をこなしていくのである。



 主なものは4つ。
 ――セーフsafe
 これは危害を加えない、或いは容易に統制下に置けることが大前提の怪異。先の例では、火の玉を見たが特に脅威でもなく、その後の情報更新もないことから、一過性の怪異と分類される。


 ――コーションcaution
 これは危害を加える可能性があり、観察、場合によっては鎮圧も必要になってくる。死人が歩いているのを見た、がこれに当たる。ただの勘違いなら良いが、目撃証言と具体性が顕著だったため調査を行った。結論としてはが基地内を彷徨っていたらしい。今後、人に危害を加える可能性が高いと推測されたため、あえなくクラウディアの聖打ホーリーブロウで昇天となった。


 ――ヴィジランスVigilance
 戦闘を前提にした警戒を必要とする怪異。一番直近は、件の『馬腹』――名前は例の声から採用し、中国の古代妖怪に該当するものがいたため正式名称となった――である。
 ほぼ確実に個人に危害を加え、場合によっては占領軍への影響も考えられる重大な危機。怪異レーダーの警報が鳴り、グレムリンからの事情聴取も行われる。事前に怪異の情報が分かれば良いが、それを調べるのも私達の仕事なのだ。


 そして最大の脅威ランクが、ナチュラルnatural


 欧州戦線での出来事――。
 ドイツ南部にて、遭遇した怪異。
 いや、怪異と言って良いか分からない。隊長曰く使とのこと。


 巨大な眼があり、翼があり、ビルをも越える巨体を空に浮かべ、こちらに語りかけてきたらしい。ただ神聖な啓示や加護はなかった。何故なら、これは使だったからだ。



 この悪魔マンセマットと命名された怪異討伐には、事情を理解してくれたジョージ・S・パットン将軍率いるアメリカ第三軍の一部戦力も協力し、戦車シヤーマン航空機サンダーボルトによる支援攻撃も含めて派手に戦闘が行われたらしい。激闘の末、第三軍に数名の死者が出たものの、悪魔は討伐されたとのことだが……、それ以上の詳細を隊長は語らなかった。


 横浜に着いた頃には既に夜の闇が覆い――、漆黒の太平洋と街々の明かりが、生と死を明瞭に分けつつ併存している。冷え切ったケープをかじかんだ手で取り払い、これまた冷え切った武器をその手に取る。


 冷たい――。
 重い――。


 不安は銃に宿るかのようである。それでも、――陣形フォーメーシヨンの確認と展開を行いつつ――、僅かに白く浮き上がる曇り空を憎々しげに見つめながら、怪異現象が起きた埠頭へ向かった。
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