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そして始まる二人の物語ー本編ー
見えては隠れる結婚という名の母港
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女が30歳にもなれば結婚という文字が脳内をチラつき始める。海音の周りも男女問わず身を固め始め、久しぶりの友人からのコンタクトの殆どが結婚の知らせになった。20代後半はお祝儀のために働いているのかと思ったほどだ。
「ねえ、海音たちはまだそう言う話せんと?」
「うーん、まだかな。付き合い始めてまだそんなに経っとらんもん」
「でも相手は40過ぎよね。時間とかあんまり言ってられんちゃない?」
「一度経験しとるし、焦ってないぽい」
「でも海音は30歳なんやし、そこらへんは考えてもらわんと」
「まだ恋人同士を味わいたいとって」
「それならいいけど」
高校からの同級生である朋子とは定期的に会っている。海音に初めて彼氏ができた時も、派手に振られた時も側にいてくれた大切な何でも話せる友達だ。
「ねえ、付き合ってそろそろ3ヶ月やったっけ? 早く会わせてよ」
「そうやった。今度話しておくね」
「年上の男の人かぁ。楽しみにしとるけん」
「うん」
そんな朋子も1年前に結婚し、お腹には新しい命が宿っている。朋子の結婚披露宴の時に海音はブーケを受け取った。拾ったのではなく、朋子から直接手渡されたのだ。いわゆるサプライズと言うもので、彼氏と別れて落ち込んでいた海音に「新しい恋をしなさい! そして幸せになりなさい!」と言う励ましのプレゼントだった。
「次に会うときは、彼氏と同伴でね」
「分かった。約束する」
「じゃあまたね!」
「うん、また」
朋子と話している間、海音はずっと勝利との結婚の事を考えていた。彼は決して遊びで自分と付き合っているわけではない。分かっているし、そうだと信じている。でなければ30歳と言う微妙な年齢の自分を選ぶはずがない。
(出産かぁ……リミットもあるしね)
赤ちゃんを望むならあまりのんびり二人きりを味わっている余裕はない。そう思へばのんびり屋の海音とは言え、自然とお尻の導火線に火がつくもの。
(結婚、妊娠、出産……勝利さん、と)
「急がないと!」
海音はスマホを取り出し気づけば勝利にメッセージを打っていた。
『今度、私のお友達に会ってくれませんか。無理にとは言いませんが』
◇ ◇ ◇
その頃、勝利は会議室にて打合せ中。巡視船乗組員の選定を業務管理官の長たちと行っていた。航海長、機関長、通信長、主計長と一癖も二癖もありそうな面子と顔を合わせているところだ。
「五十嵐船長は、42歳ですか。若いですな」
航海計画書の隙間から眼鏡を光らせてそう言ったのは主計長の荒木だ。庶務、経理、物品の管理などの業務を行う人間だ。
「もう2回目に突入してもいいころですな」
荒木と顔を合わせてニヤリと笑うのは通信長の井上。それを更に煽るように機関長の上田が「エンジンも温まり過ぎるとよくないですしな。そろそろ出航してもいい頃合いです」更にとどめを刺すように航海長の江本が言う。
「船長、玄界灘を越えるんです。さあ! 碇を上げて母港を目指しましょう」
「・・・」
勝利はこの4人が言いたいことを理解できないわけではない。しかし、今ここで話すべき内容ではないのだと目で訴えてみる。勝利の鋭い視線をなんとも思わない保安官のおじ様方は、彼を弟のようにでも思っているのか、単に年下の彼女が羨ましくて冷かしているだけなのか、にやにやと顔面を緩めながら口を閉ざすことを止めない。
「そろそろ、総務的な仕事をしたいものです。配偶者手続きなどの」
「荒木主計長。今は来月からの乗務員選定をしているんですよ。なんですか、配偶者手続きって」
「面舵をいっぱいにきりましょう!」
「江本航海長まで……はぁ」
勝利は思わず頭を抱えた。勝利にそろそろ再婚をしろと、勇気を持って家庭という名の大船に乗れと言っているのだ。船長たる者がバツイチ独身だなんて恰好がつかないだろうと。
(余計なお世話だって……)
とは、言えなかった。みな、勝利より年上でこの道の大先輩。いくら特殊救難隊に所属していたとは言え、彼らは犯罪を防ぐチームで救難とは真逆の仕事をしてきたシャークの様な軍団。後から入った自分はいくら階級が高かろうが、船長をしていようが海猿にはまだ敵わぬ存在だ。
「女で30歳ともなれば意識し始める時ですよ。男にその気がないと気づけば、波が穏やかなうちに陸に上がってしまいますな」
通信長の井上の言葉にはさすがの勝利もドキリとした。そうだ、海音は年下とは言え世間では結婚適齢期をとっくに迎えた大人の女なのだと。普段そんなそぶりは見せないけれど、それは自分を気遣っての事なのか、それとも見極めのタイミングを計っているのだろうか。考えれば考える程、避けて通れない案件だ。
「「逃した魚は大きい」」
「あー! 分かっていますよ!」
両手で頭をガシガシと掻きながら、会議テーブルに突っ伏した。皆のクスクスと笑う声を聞きながら、海音の事を想ってみる。
ー ブブー、ブブー……
スマホが振動し、メールの通知を知らせた。勝利は周りに見られないよう胸ポケットからスマホを取り出し、テーブルの下で画面をタップした。海音からだった。
『今度、私のお友達に会ってくれませんか。無理にとは言いませんが』
「マジか……」
とてんでもないタイミングだ。この短文にどんな意味が込められているのか、分からないほど勝利は鈍感ではない。友人に紹介するという事は、少なくともこれから先の未来を共有したいと言う事だと勝利は思っている。その子に、自分は海音に相応しいのかジャッジされてしまうだろう。
「はい、では会議は終わりまーす。船長、お早い決断を。リストはおおかたこれで良いでしょう。では、我々はこれで」
「ちょっ!」
ー バタン……
「なんなんだよ……まるで巻き網漁だな。気づいたら囲まれて捕獲されるってか! 別に逃げてるわけじゃないんだよ。逃げられたくないから、進めねえんだよ」
勝利には勝利なりの考えと、過去の痛い思い出が一歩踏み出すのにちょっとした枷となっていた。海音には『週末にでも計画をしよう』そう、返信をした。
ー トントン
「はい!」
「五十嵐さん。本部長がお呼びです」
「すぐに参ります」
勝利は突然の本部長からの呼び出しに首をひねる。一通り最近の警備や救難状況を頭の中でめぐらした。が、本部長から呼び出されるほどの事は起きていない。どちらかと言えば平和だった。
そう思いながら、勝利は襟元を正し会議室を後にした。
◇
「私が、ですか!?」
「五十嵐くんの経歴を見誤っていた。まさか我が第七管区に君のようなマルチで優秀な保安官がいたとは。まったく、なぜもっと強調しない。第七管区の花形じゃないか。今度ホームページに付け加えるか」
「本部長それは遠慮願いたいのですが」
「とにかく、早いうちに返事が欲しい。前向きに頼むよ。うちから出せたら我々も、生きやすくなるというものだ。未来を担う若い保安官の為にも」
「はあ……」
本部長からの話は勝利に海賊対策に参加して欲しいという内容だった。近年、海域を護る任務に徹していた海上保安庁も国際社会に対応する為、海上自衛隊と協力しともに任務に当たる機会が増えた。また、要人の護衛任務も受けることもある。過去、天皇皇后がある島の国を訪れた際に、移動や安全面から海上保安庁の巡視船が宿泊施設となった事があった。日本の法律では護衛や逮捕に至る取締り、邦人の保護は海の警察的役割を担う海上保安庁の仕事となっている。自衛隊はあくまでも自国を護る目的でしか動けないからだ。国際社会とのバランスを取るために海上自衛隊が海賊対策に向かうそれに、警察の役目を持つ海上保安庁から保安官が出されるのだ。
「ここ、第七管区は平和だと思われているんだよ。第十一管区からは出せないってことで、白羽の矢が立った」
「それで私、ですか」
「君はてっきり特殊救難隊だけかと思ったら、なんだ。特別警備隊の訓練も受けているって聞くじゃないか。年齢も部下を率いるにもちょうどいいし、体力的にも君なら問題ないだろうと思ってね。君の船も船長代理でやれる面子ばかりが揃ったベテラン船だしな」
「引き受ける事が前提の様ですが……」
「ははっ! 察しがいいな。無事に任務が終われば昇級ものだよ。頼むよ五十嵐くん。ご家族にもよく話してほしい。悪い話ではないよ」
「はい」
(家族って言われてもなぁ)
両親はもう70歳を迎え、いちいち息子の仕事に口を出しては来ない。言っても分からない世界だから好きにしなさいと言われるだけだ。
(海音に話すべきことなのか……)
海賊対策に参加するとなれば、海上自衛隊の護衛艦に乗り何ヶ月も外国の海の上で過ごすことになる。いつ帰るとも分からない仕事を海音はどう思うだろうか。それに自分の不在中、好きな男が出来るかもしれない。でもそれを責める事はできない。恋人という間柄なら尚更だ。
(結婚していたって、ダメになるんだ。家庭を省みない国の為だと言い訳をして、家族を犠牲にする男って言われてな)
自分はこの仕事に誇りを持っている。理解できないヤツは必要ない。若い頃はそう思って切り捨ててしまった。しかし、それなりに年を重ねた今では単なる高慢だったのではないかと思える。
「はぁ」
いつかは就いてみたかった警備の仕事が、まさか今頃回ってくるとは勝利も思っていなかったのだ。海音はこんな男との未来をどれくらい考えてくれているのだろうか。仕事と家庭を天秤にかけられない仕事寄りの自分を、将来永きに渡って愛してくれるだろうか。過去の過ちが今になってチクチクと痛み始めた。
『私はあなたの家政婦でも娼婦でもないわ! 都合のいい時ばかり愛しているなんて言わないで! 家庭を護れない人に海なんて護れるわけがないのよ。バカみたい。同じように苦しんでいる家族がいても、あかの他人の命の方が大事なんて......バカみたい!』
国の為に、国民の為にと熱くなった自分にバカみたいと冷や水を浴びせた元嫁の気持ちも、今になれば分からなくもないと。
「ねえ、海音たちはまだそう言う話せんと?」
「うーん、まだかな。付き合い始めてまだそんなに経っとらんもん」
「でも相手は40過ぎよね。時間とかあんまり言ってられんちゃない?」
「一度経験しとるし、焦ってないぽい」
「でも海音は30歳なんやし、そこらへんは考えてもらわんと」
「まだ恋人同士を味わいたいとって」
「それならいいけど」
高校からの同級生である朋子とは定期的に会っている。海音に初めて彼氏ができた時も、派手に振られた時も側にいてくれた大切な何でも話せる友達だ。
「ねえ、付き合ってそろそろ3ヶ月やったっけ? 早く会わせてよ」
「そうやった。今度話しておくね」
「年上の男の人かぁ。楽しみにしとるけん」
「うん」
そんな朋子も1年前に結婚し、お腹には新しい命が宿っている。朋子の結婚披露宴の時に海音はブーケを受け取った。拾ったのではなく、朋子から直接手渡されたのだ。いわゆるサプライズと言うもので、彼氏と別れて落ち込んでいた海音に「新しい恋をしなさい! そして幸せになりなさい!」と言う励ましのプレゼントだった。
「次に会うときは、彼氏と同伴でね」
「分かった。約束する」
「じゃあまたね!」
「うん、また」
朋子と話している間、海音はずっと勝利との結婚の事を考えていた。彼は決して遊びで自分と付き合っているわけではない。分かっているし、そうだと信じている。でなければ30歳と言う微妙な年齢の自分を選ぶはずがない。
(出産かぁ……リミットもあるしね)
赤ちゃんを望むならあまりのんびり二人きりを味わっている余裕はない。そう思へばのんびり屋の海音とは言え、自然とお尻の導火線に火がつくもの。
(結婚、妊娠、出産……勝利さん、と)
「急がないと!」
海音はスマホを取り出し気づけば勝利にメッセージを打っていた。
『今度、私のお友達に会ってくれませんか。無理にとは言いませんが』
◇ ◇ ◇
その頃、勝利は会議室にて打合せ中。巡視船乗組員の選定を業務管理官の長たちと行っていた。航海長、機関長、通信長、主計長と一癖も二癖もありそうな面子と顔を合わせているところだ。
「五十嵐船長は、42歳ですか。若いですな」
航海計画書の隙間から眼鏡を光らせてそう言ったのは主計長の荒木だ。庶務、経理、物品の管理などの業務を行う人間だ。
「もう2回目に突入してもいいころですな」
荒木と顔を合わせてニヤリと笑うのは通信長の井上。それを更に煽るように機関長の上田が「エンジンも温まり過ぎるとよくないですしな。そろそろ出航してもいい頃合いです」更にとどめを刺すように航海長の江本が言う。
「船長、玄界灘を越えるんです。さあ! 碇を上げて母港を目指しましょう」
「・・・」
勝利はこの4人が言いたいことを理解できないわけではない。しかし、今ここで話すべき内容ではないのだと目で訴えてみる。勝利の鋭い視線をなんとも思わない保安官のおじ様方は、彼を弟のようにでも思っているのか、単に年下の彼女が羨ましくて冷かしているだけなのか、にやにやと顔面を緩めながら口を閉ざすことを止めない。
「そろそろ、総務的な仕事をしたいものです。配偶者手続きなどの」
「荒木主計長。今は来月からの乗務員選定をしているんですよ。なんですか、配偶者手続きって」
「面舵をいっぱいにきりましょう!」
「江本航海長まで……はぁ」
勝利は思わず頭を抱えた。勝利にそろそろ再婚をしろと、勇気を持って家庭という名の大船に乗れと言っているのだ。船長たる者がバツイチ独身だなんて恰好がつかないだろうと。
(余計なお世話だって……)
とは、言えなかった。みな、勝利より年上でこの道の大先輩。いくら特殊救難隊に所属していたとは言え、彼らは犯罪を防ぐチームで救難とは真逆の仕事をしてきたシャークの様な軍団。後から入った自分はいくら階級が高かろうが、船長をしていようが海猿にはまだ敵わぬ存在だ。
「女で30歳ともなれば意識し始める時ですよ。男にその気がないと気づけば、波が穏やかなうちに陸に上がってしまいますな」
通信長の井上の言葉にはさすがの勝利もドキリとした。そうだ、海音は年下とは言え世間では結婚適齢期をとっくに迎えた大人の女なのだと。普段そんなそぶりは見せないけれど、それは自分を気遣っての事なのか、それとも見極めのタイミングを計っているのだろうか。考えれば考える程、避けて通れない案件だ。
「「逃した魚は大きい」」
「あー! 分かっていますよ!」
両手で頭をガシガシと掻きながら、会議テーブルに突っ伏した。皆のクスクスと笑う声を聞きながら、海音の事を想ってみる。
ー ブブー、ブブー……
スマホが振動し、メールの通知を知らせた。勝利は周りに見られないよう胸ポケットからスマホを取り出し、テーブルの下で画面をタップした。海音からだった。
『今度、私のお友達に会ってくれませんか。無理にとは言いませんが』
「マジか……」
とてんでもないタイミングだ。この短文にどんな意味が込められているのか、分からないほど勝利は鈍感ではない。友人に紹介するという事は、少なくともこれから先の未来を共有したいと言う事だと勝利は思っている。その子に、自分は海音に相応しいのかジャッジされてしまうだろう。
「はい、では会議は終わりまーす。船長、お早い決断を。リストはおおかたこれで良いでしょう。では、我々はこれで」
「ちょっ!」
ー バタン……
「なんなんだよ……まるで巻き網漁だな。気づいたら囲まれて捕獲されるってか! 別に逃げてるわけじゃないんだよ。逃げられたくないから、進めねえんだよ」
勝利には勝利なりの考えと、過去の痛い思い出が一歩踏み出すのにちょっとした枷となっていた。海音には『週末にでも計画をしよう』そう、返信をした。
ー トントン
「はい!」
「五十嵐さん。本部長がお呼びです」
「すぐに参ります」
勝利は突然の本部長からの呼び出しに首をひねる。一通り最近の警備や救難状況を頭の中でめぐらした。が、本部長から呼び出されるほどの事は起きていない。どちらかと言えば平和だった。
そう思いながら、勝利は襟元を正し会議室を後にした。
◇
「私が、ですか!?」
「五十嵐くんの経歴を見誤っていた。まさか我が第七管区に君のようなマルチで優秀な保安官がいたとは。まったく、なぜもっと強調しない。第七管区の花形じゃないか。今度ホームページに付け加えるか」
「本部長それは遠慮願いたいのですが」
「とにかく、早いうちに返事が欲しい。前向きに頼むよ。うちから出せたら我々も、生きやすくなるというものだ。未来を担う若い保安官の為にも」
「はあ……」
本部長からの話は勝利に海賊対策に参加して欲しいという内容だった。近年、海域を護る任務に徹していた海上保安庁も国際社会に対応する為、海上自衛隊と協力しともに任務に当たる機会が増えた。また、要人の護衛任務も受けることもある。過去、天皇皇后がある島の国を訪れた際に、移動や安全面から海上保安庁の巡視船が宿泊施設となった事があった。日本の法律では護衛や逮捕に至る取締り、邦人の保護は海の警察的役割を担う海上保安庁の仕事となっている。自衛隊はあくまでも自国を護る目的でしか動けないからだ。国際社会とのバランスを取るために海上自衛隊が海賊対策に向かうそれに、警察の役目を持つ海上保安庁から保安官が出されるのだ。
「ここ、第七管区は平和だと思われているんだよ。第十一管区からは出せないってことで、白羽の矢が立った」
「それで私、ですか」
「君はてっきり特殊救難隊だけかと思ったら、なんだ。特別警備隊の訓練も受けているって聞くじゃないか。年齢も部下を率いるにもちょうどいいし、体力的にも君なら問題ないだろうと思ってね。君の船も船長代理でやれる面子ばかりが揃ったベテラン船だしな」
「引き受ける事が前提の様ですが……」
「ははっ! 察しがいいな。無事に任務が終われば昇級ものだよ。頼むよ五十嵐くん。ご家族にもよく話してほしい。悪い話ではないよ」
「はい」
(家族って言われてもなぁ)
両親はもう70歳を迎え、いちいち息子の仕事に口を出しては来ない。言っても分からない世界だから好きにしなさいと言われるだけだ。
(海音に話すべきことなのか……)
海賊対策に参加するとなれば、海上自衛隊の護衛艦に乗り何ヶ月も外国の海の上で過ごすことになる。いつ帰るとも分からない仕事を海音はどう思うだろうか。それに自分の不在中、好きな男が出来るかもしれない。でもそれを責める事はできない。恋人という間柄なら尚更だ。
(結婚していたって、ダメになるんだ。家庭を省みない国の為だと言い訳をして、家族を犠牲にする男って言われてな)
自分はこの仕事に誇りを持っている。理解できないヤツは必要ない。若い頃はそう思って切り捨ててしまった。しかし、それなりに年を重ねた今では単なる高慢だったのではないかと思える。
「はぁ」
いつかは就いてみたかった警備の仕事が、まさか今頃回ってくるとは勝利も思っていなかったのだ。海音はこんな男との未来をどれくらい考えてくれているのだろうか。仕事と家庭を天秤にかけられない仕事寄りの自分を、将来永きに渡って愛してくれるだろうか。過去の過ちが今になってチクチクと痛み始めた。
『私はあなたの家政婦でも娼婦でもないわ! 都合のいい時ばかり愛しているなんて言わないで! 家庭を護れない人に海なんて護れるわけがないのよ。バカみたい。同じように苦しんでいる家族がいても、あかの他人の命の方が大事なんて......バカみたい!』
国の為に、国民の為にと熱くなった自分にバカみたいと冷や水を浴びせた元嫁の気持ちも、今になれば分からなくもないと。
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