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第192話 獣気鎧と龍気鱗
しおりを挟む「はて? なぜそうなるのかな? (なるのかな?)」
大事なことなので二回言って…ないな。
獣王さんは修練場の真ん中で堂々と立っている。
体格はギルデインさんに劣るのだけど存在感は上だな。
その彼がなぜ?
「たんに強いやつと戦いたいだけだわ」
後ろでそっとセーメさんがささやく。
この脳筋どもめ!
「いや、そういうことだけではなくだな、余も一国の王として、示さねばならん在り様というものがあるのだ。
貴公のおかげで国は大きな被害を出さずに済んだ。死者も出さずに済むように気を使ってもらってな。
だが、王がそのような情けをかけてもらってそれで良しとはいかんのだ。
もちろん感謝はしている。だから、それに見合った敬意というのははらわねばならんのだ。
ゆえに、全力でそちらの大将であるマリオン殿と戦いたいのだ」
あれ~?
言っていることの意味が分からないぞ~?
真剣に悩む。
情けをかけられて悔しいから戦わずにいられない…というのならわからなくもない。
矜持が傷付いたというやつだ。
だけど感謝しているから敬意を払って戦おう?
何それ?
『おおー、陛下、ご立派です』
『それでこそ我が国王』
『まことに受けた恩にふさわしい恩返しであります』
『ばんざーい』
『ばんざーい』
国民から絶大な支持が!!!
「陛下も厳しく育てられたから武人として申し分ない人物なのだけれど、それでもねえ…」
国の外のことを知らないからどうしても感覚にずれがあるのだとセーメさんは言う。
ネムも同意見らしい。ただ二人とも気持ちはわかるとか。
ここはあれだな。『わたしのしらないせかい~』みたいな?
「あっ、言っておくがギルデインの代わりにとか思っているわけではないぞ。ネム嬢はまあ、姪っ子みたいなものだからな。その相手がどういうやつかは気になる。
だが本人が選んだ縁だ。信じてもいるし反対するようなこともない。
まあ、彼女の支持者は多いから恨みは買っていると思うが…」
「booooooooooo」
「「booooooooooo」」
「あら人気者」
「えっと、恐れ入ります?」
うーん、俺は別に脳筋でも戦闘狂でもないのだが…この流れだと断れないか…
仕方ない。
俺は修練場にでて体をほぐすことから始めた。
歓声すごいな…
時折『死んじまえ―』とかいうのも混じっている。
まあ、あれだ『爆ぜろ』とか『もげろ』とか言うのて同じだろうね。
地球だったら中指立てて『ざまあ』とか言ってやるところなのだが、まあ、通じないからね。
攻めて手を振って挨拶してやろう。
「「booooooooooow」」
はっはっはっ。
「なかなか良い性格をしているな」
「何の、これしき」
俺の前に出てくる獣王さん。武器をもっていない。
はて?
「我らの武器はこの肉体。まずこれを見せよう。それをもって武器を選ぶがよい。真剣で構わんぞ。行くぞ!」
獣王さん足を開き、腰を落として踏ん張ると『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』と気合を入れ出した。
彼の魔力が高まり、次第に体が光を帯びる。
「おお、これはまさか!」
まあ、そううまくはいかず、本当の姿…とかが出てきたりはしなかった。だが変身ではあるな。
魔力が体の表面で繊細な動きを作り出し、それによって魔力が結晶、だんだんと実体を持つように変わっていく。
力場なのだろうか、実際に見えて、触れる魔力の鎧だ。
『おおー、獣気鎧《じゅうきがい》だ』
『獣王様本気だ』
『うおぉぉぉぉぉっ』
『わしょい、わしょい』
うん、アウェー感がすごいわ。
獣王さんが立ち上がったとき、そこには三國志風の鎧をまとった戦士が立っていた。
「これが余の全力だ、さあ、武器を選ばれよ」
俺は心の底から感心していた。
獣王さんの技は突き詰めれば俺の龍気鱗と同じものだ。
だがよくぞそれを成したと俺は言いたい。
俺は自分の魔力炉で源理力を生み出し、それを使っている。
他のやつが使う魔力と比較して量も質も桁が違う。
その俺でも龍気鱗というのは簡単に使えるものではなかった。
にも拘わらず獣王さんは使っている。それは悔しいけど魔力の繊細な制御によるもの。
伝統がそれを可能にしたんだと思う。
「なっ、何かな?」
俺はスススッと近づくと至近距離で獣気鎧を観察する。
魔力の流れ、魔力の速度、魔力の流量。
これは一つの魔法陣だ。
魔力の流れによって力場を発生させる魔法陣。
キャンバスになるのは自身の肉体。だから動いても外れない。
よく見れば体に白粉彫のような刺青がある。
全部じゃない。ほんとに少し。でもこれが要所要所を抑えてこの魔力鎧の構成を支えている。
構築された力場は光を屈折させ、そこに実在するかのように目に見えるようになる。
「素晴らしい、これほど素晴らしいものは見たことがない」
魔法は人間が発展させたものだ。
主に古代文明の人間が。
だが獣人族はもともと魔法が苦手な種族。古代文明と魔法的に系譜が繋がっているとは思えない。
なのにこの魔力鎧。この獣気鎧。
これは一大発明だ。魔法のブレイクスルーだ。まさかそれを獣人の人がなすなんて…
「うっ、うむ、もそこまで賞賛されるとなんというか、てれるの」
あっ、いかん、口に出てた。
まあ、いい、これを自分でやると考えた場合、魔力回路を起点にして魔方式の展開をすると…
俺は自分の体を流れる源理力の回路から流れを分離して獣気鎧の術式を構築する。
いや、違うな。龍気鱗の内部にこの術式構造を張り巡らせていくのだ。
全身を魔力の装甲が多い、形を成していく。
今までのようなドラゴンの装甲のような生物的なものから機械的な、そう、リアルロボットのような繊細な構造に。
変わらないのは背中の下あたりから生える二本の長い尻尾。
シッポがシャララらと動き、地面を叩いた。
ずどおぉぉぉん!
修練場に罅が入り、その罅が全体に広がっていく。
そしてめくれ上がる地面。
「本当に素晴らしい。防御力も、追従性も、反応速度も…依然とは比べ物にならない」
これは龍気鱗の進化だ。
俺はとんと踏み出して獣王さんの後ろに回ってみる。
「なっ!」
あっ、普通に俺のこと見失っている。
すごいなこれ、なんか動きが強力にブーストされている感じがする。
「殺気!」
いや、殺気は出してない。
でも獣王さんは俺を見つけて即座に体制を整え攻撃に移る。
鋭い連続突き。肘打ち。肩からの体当たり。足元を狙う下段蹴り。そのすべてを躱し、あるいは受ける。
「ふう、余の負けだな、歯が立たん。だが最後に」
彼は腰を落として力を溜めて、そしてまっ正面からの正拳付き。
それは俺の胸に打ち込まれ、その瞬間世界が震えた。
そりゃもう、グラグラと。
なんじゃこりゃ!
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