178 / 208
第177話 蹂躙
しおりを挟む『くわはははははっ』
俺が結界から一歩外に出たら魔族は笑いながらいきなり殴りかかってきた。
人間から見れば3メートルのゴリラが繰り出す剛腕なのでとんでもない威力なんだろうが、当たらなければどうということはない。
いや、もっとか?
「物は試し」
『?』
ズンという手ごたえはあったが、それだけだ。魔族の腕は俺の左手で受け止められていた。
「結局の所、魔法のある世界の力って魔力によるものなんだよね」
スキルなんかで本来持てない重さの武器を軽々と振り回す。
それは自分の身体というか存在にそういう効果の魔法を重ねて起動させて、半分は魔法でそれを持っているわけだ。
つまり俺の身体に張り巡らされている魔力回路というのは俺の骨格でもあり、筋肉でもあるわけだ。
あの場所で、あいつから受け継いだ魔力回路。
結構長い時間が流れて今は既におれ自身。
この程度の魔族相手なら素でドツキ合いもできるらしい。
腕を引いて地面にたたきつけ、それを踏んづけると引きずられるようにカラスの顔が下りてくる。
「でかい動物はあまり可愛くないな」
可愛いものは嫌いじゃないんだが、いや、馬とか牛とかもかわいいと思うんだが巨大カラスはかわいくない。
これだったら遠慮なく殴れる。
バキッ!
俺の右フックを受けて魔族が吹っ飛んで木にたたきつけられる。
『あえ?』
何が起こったかわかってない風で頭をふる魔族。
周囲を見回し上空に飛び上がった。
『ぶふうー…ドラゴンの近くで戦うのが間違い』
「あー、黒曜が何かしたと思ったか…」
羽ばたきながらゆっくりと距離を取る。
向かってくるならいいけど、間違っても逃がすわけにはいかないから俺もここから離れるふりをしつつ追いかけていく。
後ろで晶が何か言っているが、結界からは出られないから無視だ。
ある程度といっても100mぐらいだと思うんだけど、それでなぜか安心してカラスゴリラは変な踊りを踊り始めた。
「滑稽で面白いけど…」
別に頭がいかれたとかではないらしい。
手と足で何かを捕まえて引っ張るような動き。それで柔道の投げ技を繰り返すようにジタバタする動き。
非常に面白い。
そのうちに引っ張る動きに合わせて風が動くようになり、投げ技の動きに合わせて魔族の周囲を回るようになる。
それはそのまま持続するようになり、あっという間に数十メートルに及ぶ風の、砂塵の球体に成長した。
そしてその周囲で細い砂塵の槍がまるで蛇のように、龍のようにうごめくようになる。
『龍の巣だ…』
俺じゃないよ、晶がいったんだ。
まあ、俺もあのアニメ思い出したけど。
現実の味気ないところってBGMがないところだよね。
その後『にげてー』とか『危ないよー』とか晶が大騒ぎをしていたけど、まあ、この程度、何の問題もない。
「んー、とりあえず爆縮魚雷」
生み出されたコーティングされた重力場。
それが本当に魚雷のように空中を泳いで龍の巣に向かっていく。
迎え撃つのは砂塵の槍、いや、結構大きくなっているし砂塵の小龍というところか。
爆縮魚雷は重力場と固定された空間の殻だから見た目は局所的なカゲロウみたいなもので、ほとんど見えない。
それでも砂塵の小龍は爆縮魚雷をよく探し襲い掛かった。
「だけどねえ」
爆弾に体当たりするようなものだからねえ…
砂塵小竜と接触した魚雷は周囲の殻を失い、中心の重力塊がむき出しになると一気に周辺にあるものを引き寄せ一点に圧縮する。
爆発的に圧縮されるのでこれが爆縮と呼ばれる現象なんだ。
でも次の瞬間数十分の一に、一瞬だけ圧縮されたそれらは今度は重力場の崩壊とともに解放され、爆発現象に転じる。
突っ込んだ頭が消し飛び、基点を失った所為か細長い蛇体も崩壊して根元まで崩れていく小龍たち。
次々と爆縮魚雷を撃ち込んでやればどんどん周囲の小龍は減っていった。
時折大本まで届いた爆縮魚雷はそこで弾けて木星の目のような波紋を起こして龍の巣に揺さぶりをかける。
「これだけでも勝てそうな気がする」
と思ったんだけどそこまで簡単にはいかせてくれなかった。
もともとが砂塵と風の玉だから厚みを増せば中核に影響を受けずに魚雷を迎撃できると気が付いたみたい。
結果、龍の巣の出力は上がり、爆縮魚雷はその外郭の嵐に飲み込まれて破裂するようになってしまった。
本来木星のように縞模様の美しい龍の巣の表面がぼこぼこと泡立つのは面白い光景だったけど。
そのままこちらに突っ込んでくるつもりのようだからあんまりのんびりと構えてはいられない。
俺は両手で包み込むようにした空間に空間の歪みを固定する。
歪みというか高密度空間だな。
空間自体を高密度に維持するのだ。
惑星の持つ1Gとかすごい力だと思う。
大型惑星の周辺ならもっと強い重力が発生するだろう。太陽の周りとかね。
でもそれだって空間に生まれるひずみはそれほど大きなものじゃない。
光をほんのわずかに屈折させるだけ。
だから俺の手の中にある光を屈折させて黒く見えるこの重力場がどの程度のGを持っているのかわからない。
そういうの計算するのはちょっと無理だよね。
でも、空間属性の、空間構造を制御する俺の力なら、そういうのも作れる。
できたのはパチンコ玉ぐらいの黒い球。
その玉を胸の前に浮かべ。両手を拳に握り腰だめに構えて…
「くらえ! ブラックホール・カノン!!」
ドン! と勢いよくマイクロブラックホールが撃ちだされる。
正確には『疑似(マイクロ)ブラックホール・カノン(試作型)』だけど、まあ、ちょっとカッコつけて。
撃ちだされたマイクロブラックホールは周辺にあるあれやこれやを巻き込んで飲み込み、押しつぶし、でもブラックホールとして自身を維持できるほどの質量がないので崩壊し、後方からそれを吹きだしながら進む。
どんどん加速しながら。
それはゆっくりと進行してくる龍の巣に飛び込んでその大半をもぎ取り飲み込み押しつぶす。
だがここまでだ。
所詮は偽物。
まあ、本物だと非常に困るのだけどね。
俺の与えた力が切れればブラックホールの形を維持できなくなり、飲み込まれたものが一気に解放される。
大気や砂塵を圧縮し、押しつぶしたプラズマをまき散らしながら崩壊する。
ブラックホールの蒸発。
『ぎいぃえぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ』
聞くに堪えない悲鳴が上がった。
「悲鳴が聞こえるということは直撃はしなかったか…」
龍の巣は消し飛び。ウインザルが落下してくる。
腕や足が引きちぎられ、全身ぼろぼろで、しかもプラズマに触れたのか燃えている。
それは〝とさっ〟という意外と軽い音を立てて地面に落ちた。
『にんげん…じゃない…化け物…』
「まあ、確かにそうかもね」
俺は重力の断層を利用してその首を切り落とす。
体の方はグラビトンウェーブで焼いてしまおう。
あとに残ったのは大きな魔石だけだった。
まあ、これで…ひとまずは終わりか…
「あっ、なんで村の連中がここに獣人とか送り込んでいたのかわからなかった」
いや、わかってはいたけど証拠がない。
まあ、いいか、村人締め上げりゃ何とかなるだろう。
さて帰ろう。
◇・◇・◇・◇
「え? 帰らないって? なんで?」
「だってこのキャンプの方が環境がいいしご飯もおいしいから今日はここでゆっくりしてから帰ろうよ」
むっ、まあ、村よりもここの方が快適だけど…
「それにキオも寝ちゃったし、緊張して疲れたんじゃないかな」
なるほど、魔族がいる間随分気を這っていたみたいだからね。
なら、まあ、いいか、急ぐもんでもないし。
そんな感じでゆっくり帰ることにしたんだけど、村に戻ったら変なのが待っていたのだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
鏡の精霊と灰の魔法使いの邂逅譚
日村透
BL
目覚めれば異世界で伯爵家の息子、ミシェルになっていた水谷悠真(みずたにゆうま)。
新たな人生を歩むことを決意し、周りの人々と良い関係を築くも、突然現われたミシェルに
「ありがとう、もういいよ」
と身体から追い出されてしまう。
あの世とも現実ともつかない世界に閉じ込められ、ただ解放されることだけを望む日々を送るのだったが、やがてミシェルの兄オスカーに出会い、すべてが変わることとなる。
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。
FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。
目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。
ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。
異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。
これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。
*リメイク作品です。
かちこみっ!
もっけさん
ファンタジー
琴陵姉妹の異世界日記ifの設定を借りて新しく物語を書き直しました。
ユグドラシルの世界の女神によって面白半分で召喚された八(わかつ)七五三(なごみ)は知恵で異世界と地球を行き来する。
妹の一二三(ひふみ)も打倒邪神に参戦し姉妹で異世界と地球で四苦八苦しながら日々を送るドタバタ復讐コメディ
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
異世界ライフの楽しみ方
呑兵衛和尚
ファンタジー
それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。
ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。
俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。
ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。
しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!
神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。
ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。
『オンラインゲームのアバターに変化する能力』
『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』
アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。
ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。
終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。
それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。
「神様、【魂の修練】って一体何?」
そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。
しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。
おいおい、これからどうなるんだ俺達。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる