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第169話 潜入ミッション『偵察』

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 夜が明けて人が動き出す。
 日の出と同時に町はすっかり目を覚まし、人であふれかえる。

 ちび助も起きたので手をつないで歩いていたら。

「まあ、イヤダ、獣臭い」
「でも可愛いわね。ペットとしてならありかも」

 相も変わらず胸糞である。
 そのうち。

「あー、ちみちみ、この辺りは家畜の持ち込みは禁止されとる。
 ペットとして連れているのだと思うが、あまり風聞がよろしくないのですぐに外に出すように」

 三人組のなんかごてごてした飾りのついた鎧を着た奴がそんなことを言ってくる。
 一応対応が丁寧なのは俺の着ているものが一級品だからだろう。
 つまり俺が身分のある人だとまずいと思ったのだと思われる。

 返事をするのも不愉快なのでにっこり笑ってちび助を抱き上げ。そのままその場を離れた。
 離れていく騎士だか衛士だか知らないがさっきのやつが側溝の近くに来たので重力場で足を引っかけて転ばしてやった。
 まあ、このぐらいはいいだろ。

 と思ったんだがよくなかった。

「何だ! どうした! 攻撃か!!」

「隊長がやられたぞ。敵襲か!!」

 転んだやつは側溝の角に顔をぶつけて意識を失い。そばにいた二人がパニックになったのだ。

「いくら何でもお粗末すぎる」

 ただ悪いことにこの二人、拳銃を持っていた。
 銃を構えてあちらこちらに向けつつ警戒をする。
 新人なのだろうか? その割に年を食っているみたいだが…

 あきれつつ見ているとひとりの身なりのいい紳士がその二人に話しかけた。
 かなり身分のある人らしい。

「落ち着き給え、どう見ても転んでどぶにはまっただけだろう」

 その男性は兵士(もうこれでいいや)に話しかけ、肩をポン。
 パニックを起こしている戦闘職に不用意に触れてはいけません。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 という絶叫の後に『ぱんっ』という軽い音。

「きゃーーーーっ」
「撃たれたぞ」
「旦那様」
「伯爵さまがーーーっ」

 蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 やっぱり声をかけたのはえらいさんだったようだ。

 その人の護衛だったのだろう、別の兵士が銃を打った兵士たちをぶんなぐって制圧する。

「撃つ前に抑えられんで何の護衛か!!」

 誰かが護衛を叱責し、護衛はその腹いせにか抑えた兵士をさらにぶんなぐる。
 まるで要人暗殺の場面みたいになってしまった。

 こりゃさすがに移動した方がいいかな? と思った俺の耳に気になる言葉が届いた。

「この傷では一刻を争う。聖女様の所に搬送するのだ」
「聖女様はどこに?」
「東の別荘だ」
「急げー。戸板を持ってこい、ポーションも。早くー」

 ほほう。聖女か。なんかそれっぽいの聞いたよな。

「まあ、怖い。でもなんで聖女様なんざんしょ」
「ああ、あの状態で回復魔法とか使うと体に良くないものが残ってしまうらしいのですよ。なので腹を開けてそのよくないものを取り除かないといけないのだそうです」
「まあ、それで聖女様?」
「ええ、何でも異世界の英知でそういうものを取り除くのだそうですよ」
「さすがですわ」

 ふむむん、聖女、異世界、うんうん、思いがけずに居場所が分かるかも。
 聞き込みとかしなくちゃと思っていたからこれはラッキーだ。

 戸板に乗せられて運ばれていく男性の後をつけて行く。
 大騒ぎをしつつ進んでいくので見失う心配もない。

 一行は帝都を東に進む。
 帝城はガン無視だ。つまりここにはいないということだろう。少しはやりやすいかもしれない。

 途中で馬車が合流し、けが人の男性がそれに移される。
 まあ、当然だな。

 当たり所が良かったのかあまり出血とかもしていないので命に別状とかはないのかもしれないが、やっぱりおなかに穴が開けば痛いだろう。
 その状態で御神輿みたいに戸板でわっしょい運ばれたらそれが原因で死んでしまう。
 ような気がする。

 馬車はそのまま帝都を横切るように進み、周りの町並みはいつしかきれいなものになっていく。
 人通りも次第に少なくなり、そのまま進むと今度はきれいな塀に突き当たる。
 金属製の飾りのついた、そして蔦などが絡まって花などつけたしゃれた塀だ。
 そこに沿うように進むとゲートがあってそこでは検問が行われていた。

 馬車は短いやり取りでゲートの中に進んでいったが…まあ、俺では通してもらえないだろう。

 つまりここは身元のはっきりした、ある程度の身分の人以外入れない区画ということなのだろう。

「うっ?」

 俺は検問所から見えない木陰に腰を下ろし、目を閉じて魔力を観察する。
 無生物の静かな魔力の中かなりはっちゃけた感じの落ち着きのない魔力が移動していく。
 そこに焦点を合わせるとその光景、つまり移動する馬車が脳裏にはっきりと映し出される。
 こういう時魔力で物を見れると便利なんだよね。

 俺が黙ってしまったせいかちび助が不思議がって俺の顔をぺちぺちとたたきながら『うっ』とか言った。
 ヤダ可愛い!

 はっ、いかんいかん、危うく見失うところだった。
 俯瞰視点に魔力視を切り替えて監視を継続。
 ちび助はキスの雨を降らせることで黙らせる。

 馬車がたどり着いたのは一件の家。かなり豪華。家というよりお屋敷だな。
 使用人等がいて、奥から出て来た女は…うん、やっぱあいつだ。
 なんか若返っているけど間違いない。
 腰にホルスターで拳銃さしている。

「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 思わず長いため息が出た。
 なんであいつがここにいるんだろ…

 すっごい脱力感だよ。
 なんか無性に八つ当たりしたい感じ?

 そのまま監視を続けるとけが人は屋敷に運び込まれ、馬車なども停車場に落ち着いた。
 家の中まではよく見えないので周辺の観測。

 建物はみんなかなり広い敷地を持っていて作りも立派なものばかり。
 そこで活動する者たちもおそらくは屋敷の主とその使用人ばかり。
 つまり高級な別荘地区ということなんだと思う。

 ゲートのそばには兵士の詰所のようなものがあって、結構な数の兵士が出入りしている。
 警備もそれなりにいるようだ。

 ただ基本地上に対してであって空に対しては特段何かあるようには見えなかった。
 この理由は簡単で人間は空から攻めてこないからだ。

 大きな町は魔物の脅威からは縁遠い。周辺の魔物は狩りつくされているだろうし、もしそれでも進行してくる魔物がいれば監視するまでもなく騒ぎになるだろう。
 人間の敵は人間なのだ。

 ドラゴンとか魔族とか一部の例外を除いて。
 俺はしばらくこの地区を観察して結論を出した。

「夜なら簡単に潜り込めそうだ」

 となれば後は暇つぶし。
 ご飯とかも食べないとだし、とりあえずちび助にフード付きのいい感じの服でも買うか。

 俺の顔に手を伸ばしてほっぺだの耳だのを引っ張って遊ぶチビがラブリー。

 でもほんとこいつの名前どうするかな…本人が名前だけでも喋れればいいんだが…
 下手するとチビが定着しそうで怖い。

 まあいいや。せっかくだから帝国帝都食い倒れツアー行くぜ。

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