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第168話 帝都
しおりを挟む森に戻ると黒曜は長い龍形態に変身していた。
翼のある応竜というやつだ。それで石の木の家をぐるりと取り巻いて眠っている。
これならどんな魔獣も黒曜を恐れて寄ってこないだろう。
俺が近づくとパチリと片目を開けるのはさすが野生動物。感覚が優れている。
まあ、動いたりせずにそのまま寝ているんだけど。
入り口の前にも黒曜の身体があるので仕方なく(嘘)黒曜を踏んづけて部屋の中にはいった。
ふむと『ぶぎゅる』と声を出すのは俺の教育の賜物だ。
どこを目指しているのだとか聞かないように。
部屋の中では子供が毛布を蹴飛ばして元気な寝相を披露している。
「やれやれ、風邪をひかないといいが」
俺は眠ったままの子供にパンツを穿かせ、シャツを着せ、寝床に運んで布団をかける。
これで起きないというのはかなり安心しているということだろう。
気を許してくれたのならうれしい。
餌付けしたともいう。
その後入り靴のドアを取り換える。まあ、壊れても入れ替えればいいようになっているから問題ない。
この子をどうするかだが、まあ、連れていくしかないだろう。
そのうち何とかなるさ。
そう思ってお茶を飲んで就寝。おっと、パンは乾くとよくないからいったん仕舞うか。
■ ■ ■
ぐ~~~っ。
ぐぐ~っ。
ぐぐぐ~~~っ。
変な音で目が覚めた。
何かと思ったら子供が俺の上に載って涙目で俺を見ながら泣きそうな顔をしている。
音は子供のおなかのおとか。
「う~~~っ」
「腹減ったのか? 待ってろ」
いつの間にか夜が明けていた。
テーブルの所に行って今度はおむすびを出してやる。
俺は朝はご飯派なのだ。
味噌汁も出して、すぐに食べようとするから手をきれいに拭いてから。
「食べてよし」
あむあむもぐもぐ…
ドアを開けてすがすがしい朝の空気を…
すぐにドアを閉めた。
ドアのすぐ外で麒麟形態に戻った黒曜君がでっかい蛇を丸齧りしていた。
スプラッターではない。
こんがりと焼かれていて塩コショウはされているのだ。
そのぐらいは自分でやる。
黒曜的にはたぶんごちそうを作っているつもりなんだろう。
でもすがすがしくはない光景だった。
■ ■ ■
「というわけで連れていくことにしました」
『わーいわーい。ちっちゃいのすきー』
黒曜にしてみると新しい舎弟ということなのだろう。
飛び跳ねながら喜んでいる。
ちび助には飯を食わせた後話を聞いたが全く要領を得なかった。
三才児では当然といえる。
母親のことを聞いても涙を浮かべて首を振るだけ。
というかこの子うなりはしても一言も話してないよな。
生存本能のゆえだろう。俺にしがみついて離れない。
少しでも俺の姿が見えなくなるとすごい勢いで部屋の中を探し回る。
自分が生きるためにはいま、俺に依存するしかないと分かっているのだろう。
母親に関しては、おそらくだが結論は見えているような気がする。
できれば遺体ぐらいは収容してやりたいが、ちびに聞いてもわからない様子。
この森の中から生きている人間ならともかく遺体を探すのは無理だ。
とりあえず森に向けて手を合わせて子供のことは引き受けたと念じてその場を後にする。
地図も手に入ったことだし、次は直接帝都か?
■ ■ ■
というわけでひとっ飛び。
とはいってもさすがに始めてくるところなので周辺の地形などは確認しつつ、3日ほどかけて帝都に進む。
その間の特記事項としてはラウニーもかわいいがこのチビもかわいいということだ。
言葉は全く話さないがあーとかうーとかで意思の疎通は計る。
風呂に入れられたり突っつかれたりするのも大好き。
あと、俺が見えなくなると必死に探し回ってくれるのが可愛い。
黒曜にも懐いたようで地上を行くときなんかはおとなしく黒曜に乗っている。
黒曜も本当によく面倒を見ている。
ラウニーの面倒を見ていたのが奏功して力加減も問題ない。
子守ドラゴンである。
さて、そうしてついた帝都だがこれはかなり大きい町だった。
後ろに山、横に湖を侍らせた直径8キロほどの巨大都市。
石造りで無駄に手の込んだ装飾がなされていて帝国の力を示すかのようだ。表向きだけ。
端っこに行くと建物はよれよれでみすぼらしいのやガラの悪いのがいっぱいいるのだからほんと見栄っ張り。
門から入るのもバカなので夜のうちに空からスラムに降りて、中心に向かおうとしたら。
「よう、奇麗なべべ着たにいちゃんよ。哀れな俺たちになんか恵んでくれる気はないかな?」
「どこの若様か知らないがこんなところに入っちゃ危ないって教わらなかったか?」
「それとも玩具になる女でも探しに来たのか? そういうのは自分が玩具になっちまうんだぜ」
「ガキずれってのが分からないが、まあ、どちらも高く売れそうだな」
いきなりガラの悪そうなのが絡んで来たな。
本当にただの物乞いなら少しぐらいは恵んでやってその代わりに情報をと思わなくもないのだが、これはダメだ。
犯罪者だ。
「夜遅いというのに勤勉なことだな」
そいつらは俺の方に歩み寄ろうとしていきなりつぶれた。
それを見て俺はあきれる。
「情けないな、たかだか体重が五倍になったぐらいだろ?」
重力場で地面に縫い付けてやったらあうあう言いながら動けないでやんの。
「たかが五倍程度で動けなくなるようでは立派な野菜の国の戦士にはなれないぞ」
とはいっても聞いてはないのだが。
そんな余裕もなくろくに息もできなかったようで一人二人と目を回してしまった。
こいつらの始末は…まあ、いいだろう。
隠れてこちらを伺っているやつらが付けるだろう。
同情の余地なし。
他にも俺たちのことを伺っている奴らもいるが、黒曜が翼を広げて降り立ったら攻撃的な気配が霧散した。
まあ、でっかいからな。
「黒曜、街中を連れては歩けないし、ちび助と二人で上で待っててくれる?」
『雲の上?』
「そうそう、そんな感じ、寒いといけないからちゃんとシールドかけてな」
と言って黒曜の背中に乗せようとしたらがっしりと服をつかんで離れなかった。
二、三回引っ張った。
びにょーんびにょーん。
寝ているのに離れない。
「仕方ないから一人で待ってて」
『わかったー(ショボーン)』
とりあえず日が昇るまではやることがないのできらびやかな町の方に抜けて、お茶でも…
「あー、なんだなんだ、獣人じゃないか、獣臭いな。この店は人間様の店なんだ。家畜なんか連れてくんなよ」
「いやだ。なんでこんなところに獣がいるの。衛兵は何をしているのかしら」
入ろうとした店、した店でそんな対応。
ほんとに帝国って嫌いだよ。
ぶんなぐってやろうか。
いや、それはともかく何らかの嫌がらせはしてやる。絶対。
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