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第113話 注意一秒怪我一生、というかはいそれまでよ。

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「なかなか良い乗り心地ですね」

「ん、快適」

「車ってこんなに揺れない存在ものでしょうか?」

「きゃう~」←寝てる。

 車は身長に門までゆっくり進み、門を出てから速度を上げた。

 いろいろサスペンションとか性能はいいのだか、使ってみたらあまり意味がなかった。

 重力場で包んです~っとすすませているので地形関係なしでした。
 まあ、手ごたえがあって面白い? 童心に帰ったみたいで。

 でも慣れてくると自分で飛ぶのとほとんど変わらない。
 障害物は自然と躱すようなライン取りになるし、地面亀裂があっても、ぶっちゃけ崖のように避けていてもお構いなしに進んでいるからね…

 本当に魔動車のふり以外にこの形にする意味がなかった。

 時速50kmぐらいでしばらく進むと結構奥の方に来る。

「うわーすごい、こんな場所普通の魔動車でも進めませんよ」

「所詮魔法」

 森の中木々の隙間を縫うように、まるで見えない軌道があるように車はのらりくらりと進んでいく。木の根も地形的な段差もお構いなしだ。
 その光景を見てマーヤさんが思考を放棄した。

「うっきゃう~」←寝てる。

「すーすー」←ラウを膝枕しているうちにつられて寝てる(ネム)。

「緊張感なさすぎ」

「それだけ旦那様を信頼しているということですよ。いいなあ~、いいなあ~」

「大丈夫、みんなで幸せになろうよがマリオンさんのモットー」

「あー、昔テレビにそんな隊長いたね。
 でも俺では人生経験が足りなくてあの域にはとてもとても」

「大丈夫。経験はあとから追いついてくる。大きな服もいつかはぴったり」

 おっ、なんかいいこと言った。
 どや顔しているし。

 どこん!

「あかん、人身事故や」

 人じゃねえけど…

「マーヤさんのどや顔に気を取られているうちに事故ッてしまった」

 どこん、どこどこどこん!

「あー、いいわけできんぐらい蹂躙してしまった!」

「豚が飛んでる」

「オークですね。いやだわ」

「女の敵」

「んあ?」←起きた。

■ ■ ■

 さて、オークである。

 ゴブリンもいたがオークもいる。
 魔族としていたという話は聞いたが、普通に魔物としてもいる。
 魔族というのはこの中で特に知能と力が強くなった特殊個体のことだろう。
 しかしこれはただの魔物だ。

 だがゴブリンやホブゴブリンよりは強いらしい。
 エルダーゴブリンよりは弱いらしい。そのぐらい。

 危険度でいえばⅢ~Ⅳというところだろう。

 一対一なら熟練の冒険者と互角。安全に戦うならオークに倍する兵力が必要。そんな感じ。

「こいつらのいやらしいところは武器を使う頭があること。あと女を見ると襲い掛かる」

 性的にという意味だそうな。
 後食用にはならない。しないというべきか。

「あのオークを産んだのは人間の女かもしれない」

 うーん、なるほど、そりゃ食用にはならんわ。

 外に意識を向けるとどうやら六匹ぐらいのグループだったようだ。
 盛大にグルーブの真ん中に車が突っ込んでしまった。

 重力場のフィールドで包まれた車だ、オークたちにしてみればグラビトンハンマーでぶっ飛ばされたようなものだろう。

 六匹の内三匹は既に死んでいる。跳ね飛ばして倒れたところに突っ込んでひき殺してしまった。よかった魔物で。

 残りの内一匹ははねとばされて瀕死。一匹が骨折などの重症。最後の一匹は健在だ。

 最初車を警戒していたオークたちは車が攻撃などしてこないのを理解したのか元気なのと怪我したのが攻撃をしてきた。
 もちろん力場に守られているから全く効いていない。

 いないけど、どうするこれ?

「この女にやらせる」

 マーヤさんが指さしたのはシアさんだった。

「ふええっ?」

 シアさんびっくり。
 オークの戦闘力を考えれば倒せない敵ではない。だが女性の場合、ゴブリンと同じで生理的な嫌悪感が先に出るようだ。
 ベテランならともかくまだ若いシアさんでは当然だろう。

「ムムムむっ無理です。むりむりむ」

 慌ててお断りするシアさんだったがマーヤさんは車に積んである盾を指さして言い切った。

「大丈夫。新兵器がある」

 新兵器。つまり俺がイアハートの所で作っていた盾ね。
 あの後も地道に作業して完成したんだよ。
 でもってこのメンバーで盾を使っているのってシアさんだけなんだよね。
 当然シアさんにあげたんだけど、どうもマーヤさんはそれがうらやましかったらしい。いじわるとまではいかないが事あるごとにシアさんをいじっている。

「だからとっとと行って犯されて来い」

 あれ? ちょっといじっているだけだよね。
 シアさんを外に導きながらマーヤさんも戦闘準備に入った。
 もちろんシアさんを一人で行かせるようなことはしない。
 でもマーヤさんは以外と好戦的である。

 まあ、タイミングもいいから作戦開始だ。

■ ■ ■

 馬車のドアをあけ、シアさんが飛び降りる。
 そしてそのまま正面にいた怪我オークにシールドバッシュ。

 バンッ! と空気が破裂するような音が響いて怪我オークは吹っ飛んでいった。オークは優に2mはあるのにすごい威力だ。

 シールドバッシュというのは盾を使って敵をはじく技能でこういうのは【スキル】ではない。純粋な技能だ。
 ただ【スキル】による補正は入っている。
 【盾術】とかがメインだろうか。
 盾を使うときにどう盾を動かせばいいのか最適解(に近いもの)が分かるとか。大きな盾でも適切に動かせるとかそんなものだ。
 なので盾術のスキルを持っているものが盾を使うととても効率がいい。

 だがそれでも何百キロもあるだろうオークをぶっ飛ばすのは難しい。
 こんな攻撃を可能にしたのは盾に仕込まれた魔術回路だ。
 魔力を流すことによって魔法的な現象を発生させるサーキットのことで。この魔術回路を仕込まれた武器防具を魔剣とか、魔槍とか言うわけだ。

 つまりシアさんが使っているのは俺が作った魔盾ということになる。

 シアさんの身体を三分の二ぐらい隠す大きさのカイトシールドで、黒光りする本体に白いラインがきれいな模様を描き出している。
 この外枠と模様を構成しているのがペークシスだ。

 魔術回路は盾の内部に作られている。
 今回は試作ということで作られた魔術回路は一つ。イアハートの所の知識にあったもので、その効果は慣性制御というべきものだ。

 物質にはその場にとどまろうとする性質があり、これが動き始めに大きな力を必要とする理由なのだ。これがあるから無重力でも重いもの。つまり質量の大きいものを動かそうとすると大きな力が必要になる。

 そして同時に動き続けようとする力も存在する。

 これが慣性なんだが、たとえは慣性がかからない。ということは動かすときに軽い力で済むということであり、例えば動かしたい方向に慣性がかかるとすればそれはその物体が勝手に動いているといっていいほど簡単に動くわけだ。

 そしてその慣性を任意に大きくできるのであればでっかい豚をぶっ飛ばすぐらいわけもない。

 本来数十キロしかない(といってもこれだって重い)盾が、見せかけ上は数百キロ、あるいは数トンもの質量持てるわけで、これはもう重機で跳ね飛ばされるようなものなのだ。

 けがをしていたオークはいきなり数トンもの質量に、しかも高速で跳ね飛ばされて哀れ即死してしまった。

 ぷぎーっ!!

 おこった(であろう)最後のオークが全力で突っ込んでくる。肩を前に出して全身での体当たり。
 前述の通り大質量の衝突は恐ろしいもので、あれをまともに食らえば少なくとも大怪我はまぬかれない。のだが、そこは慣性制御。

 静止慣性が極大であったらどうなるか。

 ごきゃっ!

 全く動かない、際限なく硬い板に全力で体当たりしたら?
 例えば巨大なコンクリートの塊に全力で、全く加減なく突っ込んだら?
 普通に死ねるだろう。

 死ななかったのは魔物だからだ。

 それでもオークは跳ね返され、顔や肩がつぶれ、一瞬でけが人ならぬ怪我豚になって地面に転がった。

「やあっ」

 そこにシアさんが気合とともにカイトシールドの尖った所を突き刺す。
 当然これにも慣性制御が働く。

「ぷぎょっ」

 カークは鋭い刃物ではなく巨大な鉄の板でし切られたように分断されて死ぬことになった。

「あの盾は反則だと思う」

 まだ生きているオークに同じようにとどめを刺し歩くシアさんを見てマーヤさんはそうつぶやいた。

 うん、確かにものすごく強力な武器になったな。

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