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第106話 ラウニー救出作戦② 潜入
しおりを挟む開いた穴はちょうどマンホールのような形だった。
力場で円筒状に隔離してずこっと引っこ抜いたのだ。
そのため丸くてまっすぐ下に伸びている。牢屋の屋根をぶち抜くまで。
切りすぎてはいけないとちょっと不安があったので何も入っていない檻に向かって穴をあけた。
見事に成功だ。
「よし、突入」
「わかった」
「「えっえっ?」」
あっ、ティファリーゼが行っちゃった。
仕方ない。ミルテアさんたちは待ってて。
本当は一人で行くつもりだったんだけどね。
でも番魔物が忠犬モードだから大丈夫だろう。
警戒心バリバリでミルテアさんたちを守っている。
上位者の仲間。という認識らしい。
「しかし魔物が魔族に従うというのは本当だったなあ。人間に飼いならされていても魔族優先。ということなのか。あるいはこの屋敷の待遇がブラックでティファリーゼが救いの神に見えているとか」
どうもそっち臭いな。
そんなことをつぶやきながら下に降りるとティファリーゼとちび助が抱き合っている所に出くわした。
牢と牢の間にある仕切を引きちぎって突入したみたいだ。
仲良きことは美しきかな。
「ラウニー」
「ティー、どしたの?」
ああっ、わかってない。
哀れな。
「にいに!」
とラウニーが俺を見つけた。
と思ったらティファリーゼをペイッと横に捨ててこっちに走ってくる。
ほんと哀れだ。
「やっ、やあ、ちび助。元気だったかい」
「やっ、あい、げんき」
抱き着くというより巻き付くラウニー。
ティファリーはしゃがんで黄昏ている。
ほんと哀れだ。
「さて、脱出だ」
「にいに、助ける」
ラウニーが指さしたのはとらわれていた魔物たちだ。
ここには五頭ほどいるようだ。
頭の高さが2mぐらいあるヨークシャーテリアみたいな魔物とか。
鳥かごに入れられたものすごくカラフルな鳥とか。
多分ここら辺は問題ないような気がする。
前足が鎌のようなっているフェレット。これは鎌鼬かな?
後毒々しい色のカエル。これはたぶんだめだろう。
しかも大きさ的に鳥以外は連れ出せない。
そうしたらティファリーゼがラウニーと魔物の言葉で会話を始めた。
今はあなたが逃げるのが一番なのよ。
ここに人間の国だからこの子たちを連れ出すと戦争になるの。みたいな話だ。
それで納得したらしいラウニーは小鳥の籠だけを持って脱出に応じた。
おとなしく言うこと聞くのなら保護もできようが、そうでなければ不倶戴天の敵同士の人と魔物。なかなか難しいな。
というわけなのだがとりあえず脱出。
ラウニーを抱え。魔力を編んだロープでティファリーゼをぶら下げて上昇。
屋敷の敷地、その片隅にある木々がうっそうとしたあたりに行ってとりあえず身を潜める。
番魔獣は周辺警戒中。
「うわー、かわいい子だね」
「ほんと、ラミア族ってきれいで不気味って聞いていたけど、この子はすごくかわいいわね~」
そしてご婦人方はラウニーにメロメロ。
「やっ、あい。うい」
くるくると天然に愛想を振りまくラウニー。この子も天才だな。
そうこうしているうちに屋敷の外が騒がしくなってきた。
どうやらネムが騎士たちを連れて戻ってきたらしい。
中には聞いたような声が。
ほんとあの人たちは便利使いされているよね。スケカクポジションだから仕方ないんだけど…
「難航してますね」
屋敷の玄関付近から入れろ入れないの押し問答が聞こえてくる。
ここの貴族はキルシュではない別の公爵家の派閥だというから思うようにいかないんだろう。
「ここはひとつさっきの地下から潜り込んで火をつけるべきでは?
さすれば家事を理由に突入できると」
おい、それは名探偵ではなく怪盗の発想だ。
採用しよう。
しかしその方法を採用するには少し奥に行ってスライムたちも回収してこないとな。
まさか燻製にするわけにはいかない。
というわけで再度潜入開始。
「にいに?」
「はいはいすぐ戻りますからね」
外に出てのびのびと俺の足にじゃれていたラウニーがコロンと転げた。
「いやーん、かわいい♡」
ミルテアさんたちが黄色い悲鳴を上げる。
ラウニーも周りにかまいまくられてご満悦のようだ。
この隙に仕事をしてこよう。
俺は再び屋敷に侵入する。
■ ■ ■
「むむっ、これは抜け道か」
前にもあったな。こいつら勝手に地下道掘っているよな。
この町は地下をいじっちゃダメなんだっちゅうのに。
並んだ牢屋の一番端。
ただの物置のように見えるその先に地下へと続く抜け道があった。
いざというときにはここから逃げるつもりなのだろう。
「よし、トラップ設置だ」
空間属性の魔力を編んで細い紐を作る。
踏むと魔力が解放されて高重力場が発生するように細工をする。
それを抜け道に縦横に敷き詰める。
「よし」
これで逃げようとするやつは某ホイホイハウスのゴキちゃんのようにつかまって逃げられない。
よい仕事をした。
■ ■ ■
地下一階への階段を上ると…
「てっ、てめえ、こんなところで何を!」
痩せた男がちょうど降りてきたところで、俺を見つけるなりいきなり剣を抜いて切りかかってきた。
「礼儀知らずだなあ」
俺はその剣を腕で受け止めた。
斥力場ではなく編んだ魔力の鎧で。
ガキーン。と音が響いた。
「まだ構成が甘いが…それなりに仕えるな」
魔力で出来ているのに力場ではなく実態があるんだよねこれ。
もっと研究して上手に編み上げられるようになろう。
「ちくし!」
男が何か言おうとしたが構わずに殴ってみました。
相手が階段の上だったからボディーブローになったんだけど、殴った瞬間なんかビリビリと相手が震えて、そのままばったり倒れてしまった。
「うーん、なんかいい感じに魔力が作用したな…」
男は鼻水やなみだをまき散らしながらぴくぴく痙攣している。
大丈夫だろうか。まあいいか。
しかし考え見見ればよそ様宅に勝手に侵入しているだから礼儀知らずは俺の方だったかもしれない。
階段を上がりきるとそこはコンクリートでできた建物のようになっていた。
飾りっけの全くない実用一点張りの建物だ。
「プライドが足りないな。悪の秘密結社なら壁に紋章の入ったタペストリーぐらいあってしかるべきだ。
これでは視聴者に申し訳が立たない」
魔力視で周囲を確認すると広さの割にそれほどの人間はいないようだ。
全部で10人ぐらい。
地上にも10人ぐらいいて、騎士たちともめている真っ最中。
「そうだな、援護射撃に全員のしちゃうか」
「てめえがのびろ!」
と、言った瞬間に後ろから攻撃された。
でも魔力を探っているから丸わかりだ。
剣を抜いて走り寄ってきた男はいきなりつんのめった。
俺の周囲だけ重力が極端に低くなってるんだよ。
月面ジャンプのように俺を飛び越えていく男に軽くパンチ。
また男はビクンビクンと震えて気を失った。
鼻水垂れてる。
そして重力偏向領域を出たらいきなり落っこちて地面にドカッ。あれは痛そう。まあ、もともと意識がないからわからんか。
「しかしこの鎧はいいな。攻防一体だ」
これを発展させていけば龍気鱗が完成させられるかもしれない。
これは真剣に修業した方がいいな。
頑張ろう。
二人目、三人目を同じ手口で伸してたどり着いた部屋には我が家のスライムたちがいた。
「おお、スライムたちよ、無事か」
とは言ったがよくわからん。こいつらほっとくと数が変動するから。
しかも俺が入ってくるなり俺に縋り付いて、まあ、ちょっとは可愛げが~とか思ったら魔力を吸っているし。
ゆえにうちのスライムたちで間違いないだろう。うん。
スライムたちをしまうぞう君から出した麻袋にしまい込み。肩に担ぐ。サンタクロースのように。
赤い服を着てくるんだったな。
持ってないけど。
さて、これで目的の一つをさらに達成した。あとは外の援護だな。
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