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第85話 パーティー結成しちゃいました

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「つまり学園のカリキュラムですか」

「そう、結構大変」

 俺の言葉に全然大変でなさそうにマーヤさんが答えた。

 この町にある聖騎士養成学園。これはこのキルシュ領の貴族は問答無用で全員参加が義務付けられている。
 特に跡取りはそうで、ここを卒業しないと家を継ぐ資格をもらえない。

 それは貴族たる者、魔物との戦いの先頭に立つべし。という思想があるからだそうな。
 国王自体が結構武闘派で、この国では魔物との戦いに命を落とした王も多いらしく、この国の貴族はもともと尚武の気風が強い。

 さて学園だがこれは一〇才から入学できるようになっている。
 よその派閥でも平民でも一〇才から入学できる。
 一方で十四才を過ぎると入学資格がなくなる。

 でも大概十歳から入るらしいね。そうしないと勉強についていくのが大変だから。
 貴族と違って平民は入学試験があるが、入学を希望するものは十歳ぐらいから試験を受け始めて合格を目指すらしい。
 なぜならこの学園、卒業後に四年間軍人として任務に就くことを条件に学費が免除されるからだ。
 そしてその軍務中に功績をあげれば騎士見習いへの登用とかもありうるらしい。狭き門ではあるのだが。

 もちろん学費を払って自由を手に入れる方法もある。

 学生期間中に冒険者などをやってお金を稼げるようになった人間はこちらに進んだりもする。

 だが貴族にはそんな自由はない。
 卒業出来なければ貴族にあらず。といった感じで他に道がないのだ。

 一〇歳で入学。
 十四歳まで一般の学問と魔法、そして武術の基礎を叩き込まれ、十六歳まではそれに戦闘訓練や地政学などの為政者側に立つための教育を受ける。

 そしてこの世界は十六歳で成人になる。

 ここからは冒険者としての活動がカリキュラムに入ってきて、魔物の現実を体験し、卒業の十八歳まで実戦の経験を積むのだ。

 例えば週の前半を冒険者としての活動に使い、後半をその活動で得られた経験の総括に使うという様な感じだ。

 学園側も生徒を殺したくないのでバックアップには力を入れている。

 指導教官は多岐にわたり、魔物の研究だとか、戦闘の研究だとかの講座があり、足りないと感じたことをそこで勉強するのもありだ。

 だが冒険者としての活動をしないという選択肢はない。

 もちろん学園で今まで集団として魔物と戦うような経験は積んでいるので魔境での活動が全く未経験というわけではない。
 だから先日のような場合に駆り出されるわけなんだが、それでもそれに加えて冒険者として活動することの意味は何なんだろう。

「この国の始祖が冒険者だったからだと思いますよ。開拓に来た冒険者がこの国の始まりでそこからここまで大きい国になったんだそうです。
 だから冒険者であるというのはこの国の人にとってとても大事なんですよ」

 伝統というやつか。

 考えてみればフレデリカさんのような大貴族ですら若いうちは冒険者として活躍して、その経験が素晴らしいものだったと思っているらしいからな。
 そんな伝統もできようというものだ。

「で、ほかの人もこうしてパーティーを募集するんですか?」

「い、いえ、しょんなことはないんです。同学年の学生どうして活動する人たちもいますし、貴族ならば家から連れてきた騎士をパーティーメンバーにして冒険者をやる人もいます」

 ちょっと噛んだね。
 まあ、やり方はいろいろということなわけだ。

 話によると一番一般的なのは学園の先輩。つまりもう一年とか二年とか冒険者活動をしている学生の仲間になって活動することらしい。
 うん、理にかなっている。

 あと大貴族とかなら腕の立つ騎士を仲間にパーティーを組むものもいる。

 もちろん同学年のパーティーを組んで本当に新人として活動を始めるものもいるようだ。これは平民とかに多い。

 後はこの二人のように知り合いの冒険者に仲間に入れてもらう方法。
 これは本格的に冒険者活動がしたい人向き。
 平民とか、地方の小さい領主とかがそうだ。

「冒険者をやるのなら最低でも四人は欲しい。
 単位を取るだけなら同じぐらいの貴族の令嬢と組むという方法もある。
 でもうちはちょっと大変」

「えっとですね、うちはラーン男爵家というんですけど、母一人子一人で、今母さんが頑張っているんですよね。
 それでですね、うちはここからずっと西に行ったあたりにある山間の領地でして、魔物とかそれなりに多いんです。
 なので出来れは単位以上に冒険者として経験を積んで、いろいろな事態に対処できる実力が欲しいんです」

「となると本格的に冒険者活動をするのがいい。
 でもこんなのでも貴族の令嬢なのであまり変なのは仲間にできないし、護衛の私の立場では役立たずも困る」

「でもここに実力があって、信用できる冒険者で、自分たちと同じぐらいの若手がいる。これを誘わないのはバカ?」

 俺たちをいきなり信用するというのはどうなんだろう? それで大丈夫なのか? という向きはあるが…

「なるほどよくわかりました。ネムはどう思う」

「私はいいと思います。この二人は悪くない人材だと思いますよ」

 ネムは賛成か。
 はっきり言ってパーティーを組むというのは頭になかったな。ネムと二人でやっていくつもりだった。

 なのでつらつらと考えてみる。

 この二人に関しては人となりは〇だろう。二人ともいい子だ。
 パーティーを組みたいので…といわれれば協力してやりたくもなる。

 だが俺にとってのメリットは何だ?
 デメリットは何だ?

 俺の秘密に関してはもう考えないことにして、デメリットは魔境を探索するにあたって足手まといになる可能性だ。

 ではメリットはというと…人脈か?
 少し離れたところにある男爵家…うーん、あまり役に立ちそうにないな…ただ面白そうではある。

 もう一つはマーヤ君か。
 この子、じっくり考えると地球人っぽいんだよね。
 ということは勇者である可能性がある。
 これも興味深い。

 うーん、どうしたものか…

 別の考え方をしてみるか?
 例えばここで生きていく以上、人付き合いは広がっていく。
 どうせ広がっていくのならこの二人は好ましい人間だろうね。

「ただでとは言わない、もし必要ならお礼はする」

「いや、それはパーティーとして正しい姿ではないだろう」

「いや、こちらが頼んでパーティーを組んでもらう以上、こちらが利益を供与できないとまずい。
 というわけでこの女を好きにして構わない」

 マーヤさんがシアさんをぐっと押し出してきた。

「にゃ、にゃにゅを言ってるの」

「この女は結構エロい体をしている。やっちゃえばきっと気に入る」

「とんでもない爆弾投下したな」

 シアさんは真っ赤になってじたばたしていて、ネムはなぜか頷いている。
 まあこの手の話は前回も断ったから冗談だろうと思うけどね。
 にしても面白いコンビだ。
 しばらく付き合ってみてもいい気になったよ。

「わかりました、ネムも賛成のようなので前向きに検討します。ついてはいくつか確認したいことが」

「私たちは二人とも処女。覚悟はできている」

「いや、もうそれは引っ張らないで、お願い」

 シアさん“はわわ”している。この子たちとパーティーを組むのは楽しいかもね。

 確認した結果、今年は冒険者としての活動よりも活動の経験をもとにした勉強がメインになるらしい。
 彼女たちが勉強している間は俺たちはフリーになるらしいのでネムとの冒険も問題ないだろう。それに俺も冒険者は初心者。対して彼女たちは座学メインとはいえいろいろ勉強してきたらしいのでその知識は大変に興味深い。

 そして彼女たちは領地の関係で積極的に冒険者としてレベルアップすることを望んている。
 つまり俺たちが奥に行く時でも積極的に参加するということだ。

 お嬢さまのおもりで安全なところで冒険しなくてはいけない…というようなこともない。
 結果、結構な優良物件だ。

 ネムが『お試し的にやってみませんか?』というので、決定でいいだろう。

 ネムも彼女たちと同い年だからね、同年代の友人とかほしいのかもしれない。
 だったらこの二人はいい友人になれるのじゃないだろうか。

 その日はそのままパーティー活動時の条件などを話し合って書類に起こしてお開きになった。
 正式に活動するようになったら連絡をよこすそうだ。

 ちょっと方向性が変わったけど、まあ、いいんじゃないかな。
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