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第49話 決闘、そして…

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「それではこれよりマリオン・スザキ殿とネムちゃんの決闘を開始を行いま~す。立ち会人はこの私。フレデリカ・ルーア・キルシュが努めます。
 双方正々堂々と。そして決闘の結果を尊重することを望みます」

「「お願いします」」

 ネムちゃんと向かい合い、お互いに頭を下げて…あれ? と思った。
 キルシュ?
 あれ? ここってキルシュ公爵領って…

「はじめ!」

 あわわわっ、考え事をしている場合じゃなかった。

 治療の当日はずっと痛みと戦っていたせいか少し疲れぎものルーアさんだったが、翌日にはすっかり元気だった。
 そしてネムちゃんに決闘の話を聞いて、自ら立会人に名乗り出てくれた。

 しかし立会人といってもこの決闘の結果が何をもたらすというのか…

 ちなみに決闘は町のそばにある小さな湖のそばにある空き地で行われている。
 きっと宿場が大きくなればこの辺りも町に飲み込まれるのだろう。
 そういう場所なのでほとんど人目もなく、決闘は厳かに始まった。

 というかネムちゃん速い!

 ネムちゃんの武器は短剣の双剣だ。もちろん木剣だがたぶん当たれば、そして当たったのが普通の人間なら大けができるような威力がありそう。
 気が付いたらネムちゃんがすぐその場にきていて俺は慌てて体を沈めて攻撃をかわした。と思ったら今度は反対の手が出てきて鋭い連撃がやってくる。

 マナーというのではなく誠意として歪曲フィールドは停止している。

 いや、防御力が上がるのはいいと思うんだが、あれって攻撃が当たらなくなるから、決闘にならないし、そうするとたぶんやっていることに意味がないから。

 だからスペックだけで戦うのだ。
 魔力回路に流れる魔力を加速して身体能力を上げる。

 今俺のスピードは、そしてパワーはネムちゃんを上回っているはずだ。たぶん。
 多分というのはそれでもなんかぎりぎりだから。

 ひゅんひゅん風を切る短剣をかわし、あるいは手に持ている木剣で受ける。
 俺が使っている木剣は普通の片手剣サイスのものだ。

 ぶんっとか、ひゅんとか、かんかんとか、がん!とか物騒な音が乱れ飛ぶ。
 そして一連の攻防の後、俺たちは間合いを取ってにらみ合った。

「すごいです。私結構自信あったのに」

「いーや、ぎりぎりだから、むりげーだから」

 俺は格闘ゲームとか苦手なんだよ。あれって相手の動きに合わせてコマンド入れるとかはっきり言って無理。適当にボタン連打するだけの私。

「いきます」

「ひいぃぃっ」

 こんでいい、マジで。
 というわけにもいかんか。

 突っ込んでくるネムちゃんに合わせて横薙ぎの大振り、ブオンという勢いだ。

「え? 伸びる!」

 思いきり踏み込んで体をいっぱいに伸ばして型も条理もなく振り回す。
 彼女は双剣をそろえて俺の剣を受け止めて…

「きゃっ」

 大きく振り飛ばされた。

「なんでこんなに…」

 重いのか…といいたいのだろう。軽い木剣で人一人宙を飛ぶ。

 理由は一つ。俺が振るうからだ。俺を取り巻く俺の力場は持つ武器も包み込む。それは俺には軽く、対するものには重くなる。
 という具合に力が作用する。

 だからといって俺が有利というわけじゃない。
 武器が(俺にとって)きわめて軽いのと、身体能力の強化で何とか渡り合えているが…かなりぎりぎりだ。

 一番の原因は俺に武術の心得がないせいだろう。
 ネムちゃんの攻撃は変幻自在、虚々実々。
 短剣の攻撃を受け止めたと思ったらそれがそのままおとりになって別の方向から攻撃が飛んでくる。
 それに何とか追いつけば今度はそれがおとりだ。

 ならば『どうせフェイント』と無視すればそれがそのまま本気の攻撃になる。

 武術の上級者というのがこれほど手ごわいとは…
 スペックが上回っていなかったら間違いなく瞬殺だ。

「さすがです。すごいです。動きはまだまだというか全然理にかなっていないのに、それでも対応できるなんて…
 しかも…」

 しかもの後は言葉にならなかった。

「ではもう少しギアを上げていきます」

「マジで?」

「はい、さすがに長時間は無理ですが、短時間なら! 行きます」

 マジでしたー

 ◆・ネム・◆ 

 マリオンさんとの戦闘は楽しかった。
 マリオンさんは魔法使い系の人で武術は素人です。そのマリオンさんに武術で決闘を挑むというのはなかなかにずるなのですが、私も獣族の娘です。
 剣を交えずに大切なことを決めるわけにはいきません。

 いざ勝負です。

 そのマリオンさんと撃ち合ってみてわかったのですがマリオンさんは本当に武術の経験がないようです。かろうじて両手剣を使ったことがあるぐらいでしょうか…
 でも筋肉の付き方などは理想的で、体はかなり鍛えているみたいです。

 ドキドキ…

 しかもどんな鍛え方をしたのかスペックがものすごく高いようですね。
 私のフェイントにまんまと引っかかることが度々あります。なのにそのあと完全に出遅れた反応で対応が間に合ってしまっています。
 どんなスピードですか!
 私は結構反応速度には自信があるんですよ。つまり獣族の中でもかなり早いんです。
 それ以上って人間ですか!

 しかも感覚が鋭いです。

 無駄が多いから見切られているとは思いませんけど、それでも死角から放った攻撃も見えているように避けてしまいます。
 避けるときの動きがオーバーアクションで無駄が多いですからやはり見切られてはいないでしょう…なのになぜ?

 つまりマリオンさんは獣人の私よりも鋭い感覚を持っていて、運動能力が高くて、武術の熟練によって生まれる差を覆すほど能力が高いということですね。
 ああ、本当に素敵です。

 でもこのまま負けるわけにはいきません。
 女の意地と誇りです。
 それに力を出し切れないというのはマリオンさんに失礼でしょう。

「ではもう少しギアを上げていきます」

「マジで?」

 ちょっとびっくりしたみたい。こういう反応が結構かわいいです。
 ハートがきゅんとします。
 あと、体の深いところとか…

 そのときめきを力に変えて、大きく息を吸って力強く踏み出します。
 一時的なブーストです。
 スピードとパワーを飛躍的に上げる技です。
 通常の三倍です…まあそこまでは無理ですか…

 これができるようになるまではかなり厳しい訓練が必要でした。
 火事場の馬鹿力といわれる力で、瞬間すごい力が得られます。
 呼吸を止め、集中力を極限まで上げ、意志の力ほ総動員して初めて可能な大技です。

 ボワンと耳の所で風がなりました。
 世界のすべてが色あせ、ゆっくりになります。

 本当は自分が加速しているからそのせいなのですけどね。

 わずか十数秒の加速体験。

 木剣の攻撃がマリオンさんにヒットする! そう思った瞬間、マリオンの気配が強くなりました。絶対に当たると思った攻撃がはじかれました。

『うそ?』

 まるでマリオンさんが私のいる世界に飛び込んできたような…

 縦横無尽に繰り出す短剣の乱舞も、マリオンさんはさばき、ついにはすべて受けて、躱されてしまった。
 でも押し込んでいると思いました。明らかに私の攻撃の方が優位でした。
 あと少し、あとほんの二秒あれば勝てたと思います。
 でも限界が来ました。

「ぷはっ!」

 息が続かなくなってしまいました。
 これは息を止めての本当に限界ぎりぎりの攻撃なので長く続けるのは無理なんです。

 一度息をついでしまえばもう限界です。
 はあはあと荒い呼吸でせわしなく空気を吸います。
 体の方も限界で力が抜けてしまいました。

 そして“こつん”という優しい打擲。
 おでこにマリオンさんの手刀が振り下ろされました。負けです。
 私の負けです。

 なんてすがすがしい。

 やっぱり私の勘は間違っていなかった…

 なんて、勘も何もないですよね。私たち獣族の女は本能で生きてますから勘も何もないんですけどね。

「マリオンさん、私の負けです。ありがとうございました。
 そしてお願いします。私とつがいになってください。
 私はあなたの子供が産みたいのです」

 私は胸を張って堂々と告げました。

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