精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ

文字の大きさ
上 下
139 / 239

6-20 暗躍する謎の怪人(笑)

しおりを挟む
6-20 暗躍する謎の怪人(笑)


「いやーーーーっ、やめろーはなせばかー」

 女の子の悲鳴がこだまする。
 ちょっと威勢がいい。
 ここは迷宮の第一層。ゴブリンなんかが大量に生息するエリアだが…別にこの子はゴブリンに襲われているわけではない。

 小柄で可愛くて、そして素晴らしく胸の大きい女の子だった。

 それを襲っているのは明らかに人間。
 四人の男たちだ。

「俺達迷族につかまったのが運の尽きだとあきらめな」

 そう言いながら男が胸鎧を引きはがす。革製のものだ。手慣れたものでナイフを使って留め具を切り簡単に外す。ついでに切り裂かれた服から大きな胸がまろびでる。
 じつに立派なおっぱいだった。

「しばらくは飼ってやるよ。楽しもうぜ」

 両手を抑えている男が舌なめずりをする。

「心配すんな。少しすれば頭もパーになって嫌なことも忘れられっからよ」

「そうそう、それに頭がいかれても身体は使えるからな…生きていけるぜ」

 二人の男が両側から足を抱え込み、短パンを脱がせようとしながら力任せに開かせようとする。

 女の子は負けじと足を振り回して男たちをポカポカ蹴りまくっている。

「まあ、飲まず食わずだから一週間ぐらいか? それで終わりさ、へへへ…」

 じたばた暴れる女の子だったが男四人に対抗できるはずもなく徐々に露出が多くなっていく。
 常習者だな。腐敗臭もするしこいつらは狩っておこう。

 迷族というのは、迷宮で活動している盗賊のことだ。
 山でやれば山賊で、海でやれば海賊で、迷宮でやれば迷族…
 違和感すごいな。

 まあ、俺のやることは変わらない。
 一言でいうと狩りだ。
 ついでに女の子が助かったりするからいいのだ。

 俺はパンッと翼を翻して地上に降下する。

 俺が何をやっているかというとパトロールだったりする。

 悪人というかゆがみをため込んだ人間を狩るのも俺の仕事なのだが、外ではそういうことはしない。
 よほど世界に悪影響を与えるもの以外は基本無視だ。

 それでもまっとうに活動していると先日の暗殺部隊みたいに歪みが勝手にやってくるからそれは始末するんだけどね、積極的にパトロールまではしないのだ。

 だが迷宮だけは別。
 この迷宮の中には死者の魂をあの世に送る冥力石があるからあれの手入れの一環としてろくでなしの魂を狩って、石の力ではなく神杖で直接地獄に送り込む。
 それは意味のあることなのだ。

 地上をなめるように飛行し、少し通り過ぎたあたりで急停止。

「おわっ」
「何だ!」
「うおぉぉっ、グレンの首がなくなっている!」

 一人目の首を翼で切り落とした。
 そしてゆっくりと振り向く。

「ひいっ」
「化け物」
「ふふふっふにゃけやがって…」

 いや、ふにゃけてはいない。

 いつものタキシード怪人のスタイルだ。
 黒いタキシード、銀のガントレット、黒い帽子、白いシャツ、黒い水晶のようなのっぺりした顔。
 その顔の真ん中で熾火のような目がぼうと光る。

「たっ、たすけて」

 女の子の方は冷静なのか、はたまた迷族よりはましという判断なのか迷族たちの手が寄るんだ隙をついてはいだし、俺の足にしがみついてくる。
 立派なおっぱいがゆっさゆっさである。

 男というものは目の前できれいなおっぱいが揺れていればつい見てしまうもの。
 それは迷族たちも同じだった。
 そしてそれは結果として彼らに冷静さを取り戻させるきっかけになった。

「へっ、びっくりしたが人間じゃねえか」
「ああ、こんな風に武器を使う魔物なんざいないからな」
「化け物でないならぶった切ってしまえばいいんだ」

『ほう。途端に元気になったな』

 俺はあきれたようにつぶやく。今回はボイスチェンジャーの機能も取り入れたので機械的な、そして隠隠と響く声だ。
 その声を聴いて迷族はまた一瞬ビビったようすだったが、それを振り切るように剣を抜いてむかってくる。

 俺は領域神杖『無間獄』をくるりと回し、一歩を踏み出した。

 女の子がしがみついているが俺も達人といっていいぐらいの腕はある。その程度では動きを阻害されることはない。
 事実俺の足はするりと抜けて何の問題もなかった。

 オッパイの感触がちょっと惜しかったぐらいだ。

「ふえ?」

 つかんでいた足がいきなり無くなったせいで女の子が変な声を出してころんでいるけどそこはまあ仕方がないと…

 あれ? 突っ込んできた男が女の子に意識を取られてる。

 おおっ、そうか。つんのめったときに草地で押しつぶされた立派なお山に気を取られたか。
 男って本当に馬鹿だよね。

 これはと神杖を突き出して男の胸を小突く。
 軽く小突いただけだが杖の先端から不可視の力が波動のように広がった。

 男はそのまま後ろに倒れ、動かなくなった。

「な?」
「何が?」

『ふっふっふっふっ…魂を失ったのだよ…』

 それは事実だ。
 体から魂をはじき出したのだ。
 二人の魂は神杖に回収。地獄に直行だ。

 そして反響する機械音声のような声が不気味さを盛り上げる。
 
 それと同時に神杖に鎌の刃が生えた。

 効果的だった。

 生き残った二人の族のうち一人は立ちすくみ、一人は腰を抜かした。

 歩み寄る俺。
 一歩進めるたびにへたり込んだ男の顔が恐怖に歪んでいく。

「ひっ、ひぃっ…助け…たすけて…神様…」

 うっ、はーいとか返事をしてはダメだろうな…
 我慢だ、今はイメージづくりの時間だ。

 そのまま一閃。鎌が走り抜け、刈り取られるように男の魂がはぎ取られた。
 もし霊視能力の狩る人間がいたら鎌の先に貫かれ、縫い止められ、苦痛にあえぐ男が見えたことだろう。

 だが見えなかったとしても魂の苦鳴は空間を軋ませる。ちょっとだけ。
 背筋がぞわぞわして全身にぼわっと鳥肌が立つような空気感が素晴らしい。

「ひあぁぁぁぁぁっ!」

 最後の男は逃げ出した。
 全速力で、一心不乱に、何も見ることなく。

 だが逃げられない。

 周囲に立ち込める冥の霧「エレメンタルミスト」が感覚を狂わせる。

 自分で走って俺の前に戻ってきてしまう。

「ひいぃぃぃぃっ」

 再びの逃走。見事な回れ右。

 そして何かにぶち当たる。
 俺の魔法アトモスシールドを柱のようにあちらこちらに立ててみました。
 見えない何かにどんとぶつかりどちらに行っていいかわからない。

 恐怖と狂気の終わりなきワルツ。

『ふははははははっ』

 男はぱったりと倒れました。

 ありゃ?

 近づいて俺はとどめを…さすことをやめた。
 男の髪の毛は真っ白になっていて、その顔はしわがれた老人のように歪んでいたからだ。
 これだけの恐怖があればこの先…まあ、被害を出すようなことはないだろう。
 ひょっとしたら贖罪に走るかもしれない。もともと大した歪みじゃなかったしな。

 見逃してやろう。

 くるりと振り向くと女の子も目を回していた。

 ありゃりゃ。

 あおむけに倒れてる。
 オッパイ丸出しだ。
 しかもおもらししている。

「よほど怖かったんだね」
《マスターがでありますな》

 多分そうだと分かっていたよ。

 しかし放って置くわけにはいかない。

《どうするでありますか?》

 心配ご無用。そういうときのための変身ヒーローだ。

 一時間ほど後この町で活動する一位爵が一人の女の子を背負ってギルドの支部に現れた。
 彼は倒れていた女の子を保護したと、そう告げ、その場に男たちの死体があったことなどをギルドに告げて去っていったらしい。

 なんてね。

 毛布でくるんでおいたし、おもらしはクリーンの魔法できれいにしておいたから問題ないのだ。

 こういうことをしていれば黒衣の死神のうわさは徐々に広がっていくだろうし、そうなれば普通の自分と使い分けることで動きやすくなっていくだろう。
 やったね。

 ◆・◆・◆

「ディアちゃん、今日行政府の人が来て、先日の族のことでお城まで来てほしいって言伝を頼まれたよ」

「え? なんだろ」

 何かわかったかな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

処理中です...