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5-11 おかあ…おか…あう…
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5-11 おかあ…おか…あう…
山の中腹に大きな木が生えている。山頂ではなく中腹だ。
その周辺は庭のようになっていて綺麗にととのえられ、枯葉も枯れ枝も落ちていない。
たぶんあのお婆さんが掃除をしたのだろう。
お社も祠もないけれど慣れ親しんだ神社のような雰囲気がある。
空から見た限りではあのお婆さんは今も登山道の入り口で頑張っているようだ。
ひょっとしたらここに何かの思い入れがあるのかもしれない。
登山道の入り口から山頂まで1kmもないような小さな山だが、今までとても大事にされているのがよくわかる。それだけに一部がはげ山になっているのがとても悲しい。
俺は軽く一回りして大木の手前に降り立った。
「モース君、どんな感じ?」
≪母 よ 助け きた 返事 ない≫
『かなり状態が悪いでありますな』
大木を見るとそれを背に立つゆらゆらした淡い人型が揺れてる。子供ぐらいの大きさで、女の人のような姿だがかなり薄くてぼやけいる。
『そちらはどうだったでありますか?』
「そうだね、お城に何か細工があるみたいだ。この周辺の大地の力を根こそぎかき集めている感じだな。たぶんそれを結晶化するような何かがあるんだろう」
そう言う魔法道具とか何かがあるのだと思う。
『それを壊せば治るでありますか?』
「んー、無理」
『無理でありますか…』
大地の生命力を結晶化した石を砕いて撒くことで農作物は直接成長に必要な力を供給されて大豊作になっている。だが既に土地自体はほとんど力を持っていない。力を奪われて砂漠みたいなものだ。
豊穣の砂というのを巻かなくなればあっという間に不毛の大地になってしまうだろう。それは既にこの土地が砂漠化していると言ってもいい状態で、今更やめたから戻るというようなものではない。
このあたりがかろうじて生きているのはこの華芽姫という精霊の力だろう。
この精霊が自分の力を大地に注ぎ続けているから何とかもっている。というかこの精霊の力を根こそぎ奪って豊穣の砂は作られているわけだ。
そしてこの華芽姫にはもう、この地を回復させるような力は残っていない。
精霊というのはどこにでもいるものだがこの地は既に精霊のいない死の大地と化している。
≪こまった≫
まあその通りだな。
「さて、とりあえず話を聞いてみるか」
俺はゆっくりと人差し指を伸ばす。
精霊もゆっくりと手のようなものを伸ばしてきて、それが触れたときにキラーンと光った。
うん、なかなかいいシーンだ。
次の瞬間ピントが合うみたいに像がぶれて華芽姫が姿を現した。
≪ははーっ≫
感極まってスケアクロウマンが抱きつくのだが…
「はは…は…母?」
華芽姫は三歳ぐらいの幼女だった。日本人形のような姿をした小さい女の子だ。
おい。
◆・◆・◆
精霊とは何か、平たく言ってしまうと情報処理ができるまでに結晶化したエネルギー素子である。
つまり精霊のもとというのはその周辺に粒子のように漂っていて、それが結びつくことで力が強くなり、ある程度まで来ると情報処理を始める。
これが精霊だ。
上級、下級、その下と分かれていて、明確に違いがあるのだが、そのカテゴリーの中でもさらに明確な差があったりする。
精霊虫と呼ばれる精霊は割と発生しやすく、それを越えて意思の疎通が可能になったものが下位精霊で、人間並みの知能と自意識を持っに至ったものが上級精霊と呼称されるわけだ。
完全な自意識を持った精霊になるとこれは安定性がけた違いで、例えば腕一本分ぐらいの力を失っても、周囲からまたエネルギー素子を吸収して元に戻り、しかも本体の知性や意識には影響がない。
しかも上位の精霊は下位の精霊を動かすことができるので、環境に与える影響も大きい。
複合型で完全な自意識を持ったモース君などは上級の中でもかなり上位の精霊で、自分よりも下の下級精霊を生み出すことのできるこの華芽姫もかなり上位の精霊といえる。
生み出すと言っても自分の一部を分離して確立させるだけなので元の姿は関係ないのだが…見た目幼女の母親というのはどうなんだろう? と違和感がぬぐえない。
しかも抱きついている子供はでっかい案山子だ。
シュールではある。
まあそんな精霊だからあちこちで『神』として正確には土地神として祭られていたりするのだが、この華芽姫もそう言った神の一柱ということになる。
その幼女が俺のまえで手をついて頭を下げている。
the・土下座。
絵面的にまずくね?
『偉大なるかた~ありがとうございます~華芽姫ともうします~』
精霊の話し方はみんな特徴があるよな。
ちなみに『姫』までが名前だ。
「それじゃ、さっそくだけど分かる範囲でいいから状況を説明してくれるかな? 対策はその後で考えよう」
『は~い』
で事の起こりは四年前だったらしい。
『つよーい力を持った人間やってきた~でも嫌な感じだった~だからずっと見ていた~その人間お城にはいる~』
てな調子で説明は続いた。
その人間はどんなやつかわからないそうだ。精霊は人間を形で覚えない、力の波長とか波形とかで覚えるから『~>゜)~~~みにょーん』な感じで覚えている。こんなの~と言われても参考にならない。困った。
まあそいつは城の人間を外に連れ出して一つの実験をしたらしい。
魔法陣を描き、周囲の力を吸い上げる。吸い上げられた力は案の定結晶化して石になる。
その石を細かく砕き、近くにあったしおれた花に与えるとあら不思議、花はよみがえり見事に実をつけたそうな。
それを見ていたお城の人たち大はしゃぎ。
そのしばらく後にお城に力が吸い込まれていく現象が起こった。実験の比ではない規模だったそうだ。
その日から周囲の大地から生命力が、精霊力が失われていくようになる。
だが見た目はあまり変わらない。
なぜなら農作物や花々には豊穣の砂が与えられるからだ。
そして大きな樹木はいきなり枯れたりはしないものだからだ。
華芽姫は周囲の木々を救おうと自分の力をほどいて大地に与える。
本来は使った分は循環によって補われるのだがここにはもうそんな力はなかった。
そして姫が供給した精霊力も城に吸われて失われ、とうとう周囲の樹木まで枯れ始めてきた。現在はそんな状況らしい。
『何とか~なりませんか~』
「うん、さっきも言ったけど無理」
『そんな~』
『城の魔法陣は壊しておくべきではないでありますか?』
うーん、それも難しいんだよな…
なんといっても一応貴族の城だし、殴り込みってわけにはいかない…
それに魔法陣というのも良くない。壊したところでまた設置されれば元の木阿弥だ。
それに話の様子だとここだけの話とも限らない。
何とかその魔法陣の危険性を周知できればいいんだが…
『打開策がないのであればとりあえず精霊の保護をするのはどうでありますか?』
「保護?」
『はいであります。避難場所はあるわけですし』
そう言うとモース君はじっと俺を見た。
「ああっ、その手があったか」
『どの手です~?』
「ん~、この手~」
俺は幼女の脇の下に手を入れて…
ずぼっ
『わひゃ~~~』
引っこ抜いた。
本当は持ち上げるつもりだったんだが服の裾から蛇の尾のようなものが伸びていてそれがずぼっと出てきた。
あっ、蛇っぽいけど根っ子だ。
「さすが樹の精霊。この精霊って土の精霊の一種だよね」
『そうでありますな。土を中心として他の精霊力が少しずつであります』
俺が手渡すとモース君が受け取った。
ちっちゃい直立ゾウさんに案山子にラミア風幼女。
カオスだ。
『あの~、今私が離れるとこのあたりが~』
幼女がのんびりと抗議の声を上げる。
「だけどこのままいてももう君の力って後ひと月ぐらいでしょ?」
幼女は悲しそうにうつむいた。
「上級精霊が完全消滅って笑えない状況だから、とりあえずあちらに避難していてよ。力が完全に回復すればここが砂漠化していても何とかなるでしょ?
とりあえず君の回復が先。
というわけでモース君、お願い、あっ、案山子も一緒に」
『はいであります。吾輩にお任せであります』
モース君は二人を連れて俺の中にある『世界の欠片』に戻って行った。
『ただいまであります』
直ぐ戻ってきた。
『向こうに放り出してきたからしばらくすれば回復するでありましょう』
「うん、了解、このあたりの精霊がいなくなればこのあたりは速やかに不毛の大地になる。魔法陣と連動するようにここが砂漠化すればあの魔法陣の意味も分かるかもしれない」
『そのあとで十分回復した精霊を戻せば土地もいずれは回復するでありますな』
「そゆこと、敵が魔法陣といういくらでも描けるものである以上精霊を避難させるしかないでしょ。できればここと同じ様なところがあるならそこの精霊も避難させたいんだけど…」
『分かったであります。精霊ねっとわあくで情報を集めるであります』
対処療法だがそれしかあるまい。
いくつかの領が砂漠化すればいくらなんでも動きが出るだろう。
それに…
『はい、どうやらその魔法陣が引き抜けるのは表面近くの力だけの様でありますな。これなら回復も早いでありましょう』
「そうだね、ただ、事態が収拾してからね、それからでないと意味がないから」
『爺婆たちはどうするでありましょうか?』
「大丈夫でしょ? 農民なんて暮らしていけなけりゃよそに逃げちゃうし、領主は逃げられないけどこれで金儲けしてるみたいだからそれでどうにかしてもらいましょ。それに多少は自業自得」
『そうでありますな』
俺は先ほど見た農民たちの様子を思い出す。
大きな田畑で元気に働く人々、だがもう来年は豊穣の砂とかいうのを確保できないだろう。そしてそのころには普通の実りすら確保できないのだ。
本来ある蓄えを浪費してしまったのだから当然の結果だ。
精霊の考える善悪というのは人間のそれとは違う。
人間の感覚で言えばここの爺婆たちに罪はないのだろうが精霊というのは、世界というのは帳尻が合うかどうかがすべてだったりする。
作用を作れば作用に見合った反作用を受けることになるのだ。良い悪いはそれとして。
彼らは無理やり上げた利益のツケを払わなければいけない。
勿論領主も。
その時に地獄が必要になるかはその時の判断だろう。
俺は最後に華芽姫が依り代にしていた巨木に力を注ぎ込む。
その力は一枝だけ元気にさせて蕾をつけさせた。
俺は木の種類とかわからないがどうやら桜に似た木だったようだ。
その枝を折って空間収納にしまう。
「これで復活の呪文の準備ができたという所かな」
しかし魔法陣のことは調べないとまずいよなあこれ。
山の中腹に大きな木が生えている。山頂ではなく中腹だ。
その周辺は庭のようになっていて綺麗にととのえられ、枯葉も枯れ枝も落ちていない。
たぶんあのお婆さんが掃除をしたのだろう。
お社も祠もないけれど慣れ親しんだ神社のような雰囲気がある。
空から見た限りではあのお婆さんは今も登山道の入り口で頑張っているようだ。
ひょっとしたらここに何かの思い入れがあるのかもしれない。
登山道の入り口から山頂まで1kmもないような小さな山だが、今までとても大事にされているのがよくわかる。それだけに一部がはげ山になっているのがとても悲しい。
俺は軽く一回りして大木の手前に降り立った。
「モース君、どんな感じ?」
≪母 よ 助け きた 返事 ない≫
『かなり状態が悪いでありますな』
大木を見るとそれを背に立つゆらゆらした淡い人型が揺れてる。子供ぐらいの大きさで、女の人のような姿だがかなり薄くてぼやけいる。
『そちらはどうだったでありますか?』
「そうだね、お城に何か細工があるみたいだ。この周辺の大地の力を根こそぎかき集めている感じだな。たぶんそれを結晶化するような何かがあるんだろう」
そう言う魔法道具とか何かがあるのだと思う。
『それを壊せば治るでありますか?』
「んー、無理」
『無理でありますか…』
大地の生命力を結晶化した石を砕いて撒くことで農作物は直接成長に必要な力を供給されて大豊作になっている。だが既に土地自体はほとんど力を持っていない。力を奪われて砂漠みたいなものだ。
豊穣の砂というのを巻かなくなればあっという間に不毛の大地になってしまうだろう。それは既にこの土地が砂漠化していると言ってもいい状態で、今更やめたから戻るというようなものではない。
このあたりがかろうじて生きているのはこの華芽姫という精霊の力だろう。
この精霊が自分の力を大地に注ぎ続けているから何とかもっている。というかこの精霊の力を根こそぎ奪って豊穣の砂は作られているわけだ。
そしてこの華芽姫にはもう、この地を回復させるような力は残っていない。
精霊というのはどこにでもいるものだがこの地は既に精霊のいない死の大地と化している。
≪こまった≫
まあその通りだな。
「さて、とりあえず話を聞いてみるか」
俺はゆっくりと人差し指を伸ばす。
精霊もゆっくりと手のようなものを伸ばしてきて、それが触れたときにキラーンと光った。
うん、なかなかいいシーンだ。
次の瞬間ピントが合うみたいに像がぶれて華芽姫が姿を現した。
≪ははーっ≫
感極まってスケアクロウマンが抱きつくのだが…
「はは…は…母?」
華芽姫は三歳ぐらいの幼女だった。日本人形のような姿をした小さい女の子だ。
おい。
◆・◆・◆
精霊とは何か、平たく言ってしまうと情報処理ができるまでに結晶化したエネルギー素子である。
つまり精霊のもとというのはその周辺に粒子のように漂っていて、それが結びつくことで力が強くなり、ある程度まで来ると情報処理を始める。
これが精霊だ。
上級、下級、その下と分かれていて、明確に違いがあるのだが、そのカテゴリーの中でもさらに明確な差があったりする。
精霊虫と呼ばれる精霊は割と発生しやすく、それを越えて意思の疎通が可能になったものが下位精霊で、人間並みの知能と自意識を持っに至ったものが上級精霊と呼称されるわけだ。
完全な自意識を持った精霊になるとこれは安定性がけた違いで、例えば腕一本分ぐらいの力を失っても、周囲からまたエネルギー素子を吸収して元に戻り、しかも本体の知性や意識には影響がない。
しかも上位の精霊は下位の精霊を動かすことができるので、環境に与える影響も大きい。
複合型で完全な自意識を持ったモース君などは上級の中でもかなり上位の精霊で、自分よりも下の下級精霊を生み出すことのできるこの華芽姫もかなり上位の精霊といえる。
生み出すと言っても自分の一部を分離して確立させるだけなので元の姿は関係ないのだが…見た目幼女の母親というのはどうなんだろう? と違和感がぬぐえない。
しかも抱きついている子供はでっかい案山子だ。
シュールではある。
まあそんな精霊だからあちこちで『神』として正確には土地神として祭られていたりするのだが、この華芽姫もそう言った神の一柱ということになる。
その幼女が俺のまえで手をついて頭を下げている。
the・土下座。
絵面的にまずくね?
『偉大なるかた~ありがとうございます~華芽姫ともうします~』
精霊の話し方はみんな特徴があるよな。
ちなみに『姫』までが名前だ。
「それじゃ、さっそくだけど分かる範囲でいいから状況を説明してくれるかな? 対策はその後で考えよう」
『は~い』
で事の起こりは四年前だったらしい。
『つよーい力を持った人間やってきた~でも嫌な感じだった~だからずっと見ていた~その人間お城にはいる~』
てな調子で説明は続いた。
その人間はどんなやつかわからないそうだ。精霊は人間を形で覚えない、力の波長とか波形とかで覚えるから『~>゜)~~~みにょーん』な感じで覚えている。こんなの~と言われても参考にならない。困った。
まあそいつは城の人間を外に連れ出して一つの実験をしたらしい。
魔法陣を描き、周囲の力を吸い上げる。吸い上げられた力は案の定結晶化して石になる。
その石を細かく砕き、近くにあったしおれた花に与えるとあら不思議、花はよみがえり見事に実をつけたそうな。
それを見ていたお城の人たち大はしゃぎ。
そのしばらく後にお城に力が吸い込まれていく現象が起こった。実験の比ではない規模だったそうだ。
その日から周囲の大地から生命力が、精霊力が失われていくようになる。
だが見た目はあまり変わらない。
なぜなら農作物や花々には豊穣の砂が与えられるからだ。
そして大きな樹木はいきなり枯れたりはしないものだからだ。
華芽姫は周囲の木々を救おうと自分の力をほどいて大地に与える。
本来は使った分は循環によって補われるのだがここにはもうそんな力はなかった。
そして姫が供給した精霊力も城に吸われて失われ、とうとう周囲の樹木まで枯れ始めてきた。現在はそんな状況らしい。
『何とか~なりませんか~』
「うん、さっきも言ったけど無理」
『そんな~』
『城の魔法陣は壊しておくべきではないでありますか?』
うーん、それも難しいんだよな…
なんといっても一応貴族の城だし、殴り込みってわけにはいかない…
それに魔法陣というのも良くない。壊したところでまた設置されれば元の木阿弥だ。
それに話の様子だとここだけの話とも限らない。
何とかその魔法陣の危険性を周知できればいいんだが…
『打開策がないのであればとりあえず精霊の保護をするのはどうでありますか?』
「保護?」
『はいであります。避難場所はあるわけですし』
そう言うとモース君はじっと俺を見た。
「ああっ、その手があったか」
『どの手です~?』
「ん~、この手~」
俺は幼女の脇の下に手を入れて…
ずぼっ
『わひゃ~~~』
引っこ抜いた。
本当は持ち上げるつもりだったんだが服の裾から蛇の尾のようなものが伸びていてそれがずぼっと出てきた。
あっ、蛇っぽいけど根っ子だ。
「さすが樹の精霊。この精霊って土の精霊の一種だよね」
『そうでありますな。土を中心として他の精霊力が少しずつであります』
俺が手渡すとモース君が受け取った。
ちっちゃい直立ゾウさんに案山子にラミア風幼女。
カオスだ。
『あの~、今私が離れるとこのあたりが~』
幼女がのんびりと抗議の声を上げる。
「だけどこのままいてももう君の力って後ひと月ぐらいでしょ?」
幼女は悲しそうにうつむいた。
「上級精霊が完全消滅って笑えない状況だから、とりあえずあちらに避難していてよ。力が完全に回復すればここが砂漠化していても何とかなるでしょ?
とりあえず君の回復が先。
というわけでモース君、お願い、あっ、案山子も一緒に」
『はいであります。吾輩にお任せであります』
モース君は二人を連れて俺の中にある『世界の欠片』に戻って行った。
『ただいまであります』
直ぐ戻ってきた。
『向こうに放り出してきたからしばらくすれば回復するでありましょう』
「うん、了解、このあたりの精霊がいなくなればこのあたりは速やかに不毛の大地になる。魔法陣と連動するようにここが砂漠化すればあの魔法陣の意味も分かるかもしれない」
『そのあとで十分回復した精霊を戻せば土地もいずれは回復するでありますな』
「そゆこと、敵が魔法陣といういくらでも描けるものである以上精霊を避難させるしかないでしょ。できればここと同じ様なところがあるならそこの精霊も避難させたいんだけど…」
『分かったであります。精霊ねっとわあくで情報を集めるであります』
対処療法だがそれしかあるまい。
いくつかの領が砂漠化すればいくらなんでも動きが出るだろう。
それに…
『はい、どうやらその魔法陣が引き抜けるのは表面近くの力だけの様でありますな。これなら回復も早いでありましょう』
「そうだね、ただ、事態が収拾してからね、それからでないと意味がないから」
『爺婆たちはどうするでありましょうか?』
「大丈夫でしょ? 農民なんて暮らしていけなけりゃよそに逃げちゃうし、領主は逃げられないけどこれで金儲けしてるみたいだからそれでどうにかしてもらいましょ。それに多少は自業自得」
『そうでありますな』
俺は先ほど見た農民たちの様子を思い出す。
大きな田畑で元気に働く人々、だがもう来年は豊穣の砂とかいうのを確保できないだろう。そしてそのころには普通の実りすら確保できないのだ。
本来ある蓄えを浪費してしまったのだから当然の結果だ。
精霊の考える善悪というのは人間のそれとは違う。
人間の感覚で言えばここの爺婆たちに罪はないのだろうが精霊というのは、世界というのは帳尻が合うかどうかがすべてだったりする。
作用を作れば作用に見合った反作用を受けることになるのだ。良い悪いはそれとして。
彼らは無理やり上げた利益のツケを払わなければいけない。
勿論領主も。
その時に地獄が必要になるかはその時の判断だろう。
俺は最後に華芽姫が依り代にしていた巨木に力を注ぎ込む。
その力は一枝だけ元気にさせて蕾をつけさせた。
俺は木の種類とかわからないがどうやら桜に似た木だったようだ。
その枝を折って空間収納にしまう。
「これで復活の呪文の準備ができたという所かな」
しかし魔法陣のことは調べないとまずいよなあこれ。
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