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第二章・リウ君のそこそこ平穏な日常

第4話 爺ちゃんは極悪非道だ!

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第4話 爺ちゃんは極悪非道だ!


 うーん、おデブ子爵じゃ失礼かもしれないな。えっと、なんだっけ。くっ? くく? …クプクプ子爵か。たぶんそんなのだった。
 彼の運命を思うと涙がちょちょ切れるよね。

 爺ちゃんは確かに公爵だけど特務公爵だそうで、それがどのぐらい偉いのかよくわからないから何とも言えないのだけど…

「あら~、マシスさまはもともと公爵様よ。特務が付いているのは治療厚意に関しては王様よりすごいぞってことなの~」

「えー、すごすぎない?」

「まあ、すごいんだ」

 なんと、爺ちゃんは普通の公爵プラス特務公爵だったのか。話を聞いたら治療行為のためならば王様をぼこぼこにしてもいいんだって。
 なるほど、どんなに偉い人も医者のいうことはきくべきだってことなんだな。
 でも王様を治療するために王様をぼこぼこって…意味あるのか?

 でも今はそれは関係ない。問題はクプクプさんだ。クプクプさんはじいちゃんを前にして真っ青になってガタガタ震えている。
 でもまだ目が死んでいなかった。

「わわわわ、私は、勇者さまをよう、擁する。その、シュメルクローテ公爵家の派閥に属するもので、たっ、たとえ、大医王…様であろうとも、このような仕打ちを受けるいわれはなななない」

 強気なのか弱気なのかよくわからないツッパリだ。
 虎の威を借る狐という感じ。

「ふん、それがどうした。
 勇者なんぞ功績を上げて初めて敬われるのだ。未熟なガキになんの権威がある」

 でも爺ちゃんに鼻で笑われたよ。

「それにおめえ、わかってねえだろここで無礼うちになる貴様らに、あのろくでなし公爵の権威など何の意味もねえぜ」

 爺ちゃんが椅子でふんぞり返り、ニニララさんがナイフでクプクプさんの頬をぺちぺち叩いた。これは絶対貴族の所作ではないな。
 さらにこの人たち普通じゃないからね。
 ニニララさんはそのまま鋭いナイフをクプクプさんの太ももに〝どすっ〟とぶっさしたわけさ。

「ひぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!! いだいいだいいだいいだいああぁぁぁぁっ」

 足を押さえて転げまわるクプクプさん。
 護衛の中にも真面目な人がいたみたいで動き出そうとしたんだけど。

「あらあらだめよ、お悪戯《いた》をしたならちゃんと反省しないと」

 次の瞬間その人たちは手とか足が変な方向に曲がっていたりするのだ。
 いやー、フウカ姉ちゃんこわいわー、まじこわいわー。

「よっしゃ、リウ、練習だ。魔法使っていいから治したれ」

 うんやっぱりこうなった。
 良く村の近くの獣相手とかだとやるんだよねこれ。

「でも僕の魔法は秘密だったのでは?」

 だから魔法での治療は獣相手しかやったことないんだよね。

「大丈夫。こいつらはぜったに裏切らねえから」

 あー、はいはい、つまりこの人たちは二度と逆らう気が出なくなるまで痛めつけられるわけね。かわいそうに。

 僕は順番にけが人を治療していく。
 もちろん本当の意味では魔法は使えないので、魔素治療だよ。
 魔素使って傷口を張り合わせる。そのうえで患部に魔素を注ぐと傷はきれいに治るのだ。
 魔素は生命の根源だから。
 骨折も治す。

 フォースハンドで折れた骨をもとの位置に戻すんだ。体の中にも手を伸ばす感じでね。ちゃんと骨を元に戻して魔素を注ぐわけさ。回復をイメージしてね。
 すると魔素は回復魔法のように回復力をブーストしてすぐに傷が治っていく。

 魔素は万物の根源だからね、どんなことをして欲しいかイメージするとちゃんとそれなりに作用するんだ。
 どうしようもなく壊れたところは魔素を使って疑似的に肉体を再建する。そうすると一見治ったように見えて、実は時間経過で定着していく。どうせばれないんだからそこら辺も練習させてもらおう。

 そんで僕が直す尻からけが人が量産されるわけ。

 フウカ姉ちゃんは体術が得意な人だ。合気道見たいなものらしい。関節技とか。
 そこに医学知識を盛り込んで的確に人体を破壊したりするわけさ。
 それって何か間違っているような気が…
 あとね、扇子が凶悪。
 金属と宝石で出来たキラキラ奇麗な扇子なのに岩とか砕けるんだぜ。腕とかぽっきりだ。
 うちのメンバーまともな人がいないぜ。

 だもんだから。

「申し訳ございません、もう、二度と、このような生意気な口は叩きません、お許しください」

 傷を治されたクプクプさんが、米つきバッタみたいに地面に頭を叩きつける勢いで謝っている。
 心もぽっきり折れたみたい。

「おう、そうかよ、ちったあ分かったみてえだな」

「はっ、はいはい、それはもう」

 たった一度の怪我と回復で平身低頭するクプクプさんはメンタル弱すぎだと思います。
 だけど爺ちゃんの性格はとても悪いぞ。

「だがまだ反省がたらんな。
 リュメルクローテってのはせがれが勇者の加護を与えられたってんで調子こいてるバカ野郎だろ。
 ずいぶん人様に迷惑かけているらしいじゃねえか、てめえもいい話は聞かんぜ」

「ひい」

 メンチ切りながらずいっと顔を近づけます。

「許してくれ~なんて言ってる段階じゃ、全然反省なんぞしてねえってこった。
 自分の罪が分かってんなら自分が許されるべきじゃねえってことぐらいわかりそうなもんだからよ。
 きっちり反省ができるようになるまで俺が性根を叩きなおしてやるぜ。なあ」

 なあとか言ってるけど治すのは僕の仕事だよね。たぶん。
 少しは手伝ってくれるといいなあ。

 とか思ってたら爺ちゃん腰のベルトに手を伸ばしてそれを取り出した。

 なるほどそう来たんだね、それだったら思いっきりやっていいぞ。わーいやれやれー。

「あれってリウたんが作ったやつよね~?」

「うん、そう」

 爺ちゃんが腰のベルト、ぶっちゃけちゃうとホルスターから抜いたのは『コルトSAA』と呼ばれる拳銃だった。あっ、本物じゃないからばったもん?
 勿論フウカ姉が言った通り僕が作ったんだ。

 大賢者さんの残した資料に細かい設計図があったあれやこれやの一つになります。

 一つ一つの部品を丁寧にビルドアップで粒子を積み上げて作って、組み立てたんだよ。
 すごく時間がかかったけど、その代わりにかなり安定した作品になった。精密機械を作る練習にちょうどよかったよ。
 次からはもうちょっと手抜きができると思う。
 完成した途端に爺ちゃんに持っていかれたけどね。まあ、僕の小さい手じゃ持てないからいいんだけどさ。

 さて、この銃、地球では有名な銃だよね、かなり古い銃なので構造的にまだまだという感じはあるけど、『ピースメーカー』なんて呼ばれて愛された拳銃だ。

 僕の作ったそれも構造は地球のそれとほとんど同じ。
 違うのは銃弾の発射に魔法が使われることだろうね。

 秘密はハンマーとシリンダーと薬莢。

 薬莢に弾をはめ込んで使うのはおんなじなんだよね。でも火薬とか使わない。それはシリンダーに刻印された魔法陣が肩代わりします。
 薬莢の中には小さい魔石が入っていて、ハンマーが雷管を叩くとこの魔石が魔力になって流れ出すのだ。
 流れた魔力はシリンダーに刻印された爆発の魔法陣を作動させ、シリンダー内部、つまり、薬莢の内部で莫大な圧力を発生させるのだ。
 薬莢は魔力の供給減であり、同時にこの圧力を後ろに逃がさないためのものだったりする。

 この圧力は当然に銃弾を勢いよく撃ちだしてくれて、だからこれが銃として機能するわけだ。うんうん、大賢者さんはいい仕事している。
 完成させた僕の腕も大したものだと思うよね。

 でも構造がピースメーカーだからね、よく知られている拳銃よりも手間がかかる。
 ハンマーはいちいち自分で起こさないといけないし、撃ったらイジェクターロッドという、銃身の横についた棒でいちいち薬莢を押し出さないといけない。
 装填はその逆で一発ずつ詰めて蓋をする感じになる。

 僕から見るとロマンという観点以外ではあまり使い勝手のいいものじゃないとおもう。

 でも、ここにいるのはその大賢者さんの系譜の人たち。大賢者さんのロマンが現実になったとなるともう大喜び。
 だから爺ちゃんも大喜び。大喜びで凶行に走ってるぜ。

 爺ちゃんは銃を気軽に構えるとバスン、バスンと二発撃った。
 クプクプさんの足に向けて。

「ひぎゃーーーーーーーーーーーーっ」

「ひいっ」

 クプクプさんの悲鳴を聞いてうめき声を上げた護衛や使用人の人たち。当然だよね、この暴挙だもん。
 でも慈悲はないのだ。
 声を上げた何人かも爺ちゃんの凶弾に倒れた。
 バスンバスン。本当に容赦がない。

「よっしゃ、治したれ」

 はいはい。
 そんで僕が治療するんだよね。いい練習だよ。

 その間に爺ちゃんは次の弾を装填している。うん、なかなかかっこいいな。
 その弾はというと、途中僕のことを人質に取ろうとした男の体に全弾ぶち込まれたけど。

 爺ちゃんちゃんと急所外してうってます。

「ふいー」

 治療を終わって額の汗をぬぐう。
 治療ってちょっと気を使うよね。

「ねえねえ、あれって~、結構使える?」

「ううん、ぜんぜん」

 興味深そうにフウカ姉ちゃんが聞いてきた。でも僕はきっぱりと否定した。

「あれは玩具。ほとんど役に立たないよ」

「そうなの?」

 そうなのだ。
 まあ、ちょっとした魔獣なら仕留められるけど魔物ってかなり強力な生き物なのだ。上位の魔物だとほとんど効かない。

 じゃあ人間は? というはなしになるんだけどこれも中途半端。

 地球で剣だとか鎧だとかが使われなくなったのは銃が台頭してきたからだって読んだことがある。つまり鎧や盾の性能の問題なんだよね。
 この世界の鎧や盾、魔物素材で作られたそれらはかなり高性能で、ピストル弾ぐらい、弾いちゃうのが結構ある。

 つまりチンピラとかの防御力捨ててる人には有効だけども一流の装備を持った人間、上位冒険者とか騎士とかには効かないのだ。
 だから中途半端。

 だからこの世界では普及しなかったんだと思う。

 誰でも弱めの程度の魔物を倒せるようになるっていうのはすごい事なんだけどね、そんなこともできないような冒険者は拳銃を入手できるようなお金は持ってないと。

「というわけで趣味のものだと思う」

「そっか~、でもかっこいいよね~」

「じゃあ今度フウカ姉ちゃんにデリンジャーを作ってあげるね」

 あれも構造単純だからね。
 スカートをめくって太ももからデリンジャーを…
 うん、危険だ。
 よし、やって見よう。

「おう、りう、治療だ」

「はーい」

 彼らの地獄はまだ続くのだ。
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