上 下
23 / 57
第二章・リウ君のそこそこ平穏な日常

第3話 リウ君、空を飛ぶ!(不本意)

しおりを挟む
第3話 リウ君、空を飛ぶ!(不本意)


 もともと爆走と言っていい状態だったんだけど、マシス爺ちゃんはさらにスピードを上げた。グオオオオッて感じ。
 後ろに飛び去る風景がすごく速い。 

 道路が舗装されていないことや、車自体がクラシックカーであることなどから魔動車は早いといっても限界はある。と思っていたんだけど、すっごく速いや。
 あとで聞いたら大賢者謹製はちょっと特別なんだってさ。
 オープンカーなんだから加減はしてほしかった。

 そしてあっという間に現場が近づいてきたんだ。 

「ああ、やはり盗賊だな。上等な感じの馬車をならず者が集団で取り囲んでいるようだ」 

 斥候らしくニニララさんが状況を解説してくれた。 
 まだかなり距離があるのにすごい見えてる。
 それはいいんだけど、それ以前に盗賊を見分けた爺ちゃんってどうなってんだろ?

 ぼくがそんなことを考えていると。 

「よーし、まずは先制攻撃だぜ」 

 と爺ちゃんが言った。
 相変わらず思い切りがいいなあ、なんて思っていたらひょいと持ち上げられた。僕が。 

「う?」 

 あ、なんか嫌な予感がする。  

「よーし、リウ行ってこい」 

 そう言うとじいちゃんは僕を思い切り、前方に向かって投げ放った。 

「うえ?」 

 普通に物理法則を考えると、すぐに失速して地面に落ちることになるんだけど、さすがにそれは嫌なので自分でフォローする。
 じいちゃんはたぶんそれも計算でやってるんだよね? 

 僕は自分の周囲にある魔素を操って自分を守りつつ、姿勢制御を行う、ついでに推進力を作ってそのまま戦闘領域まで突進した。

《きっほーですよー、とんでいるですよー。ひこうしょうねんですよー》

 しーぽんがなんか不穏なことを言ってる。マジやめて。
 そして盗賊たちの手前に着地。

 しーぽんのサポートで姿勢制御とかは安定していて安心安全な空の旅。
 そして。

「たっちだうーん」

 どうーーんっ! て感じで風が巻き上がった。
 身に纏ったとった魔素がクッションとなって衝撃を和らげると同時に周囲に押し出されて渦を巻く。その魔素の風は近くにいた盗賊たちをな巻き込んでなぎ払ったんだ。それは透き通った緑の風が敵を蹴散らすような感じだった。

《魔風と名付けるですよー》

「ブワー」 
「べぼっ」 
「うひい」 

 吹き飛ばされた盗賊たちが地面にたたきつけられた。

「何事だーーーっ!」 

 跳ね飛ばされなかったのが騒いでる。うん、間違いなく盗賊だ。
 なんというか、ちょっとばっちい。 
 しかも臭い。 
 着の身着のまま、お風呂にも入らない身だしなみにも気を使わない感じ。 

 とりあえず武器を持った。THE野盗といった感じの人たち。あるいは蛮族《バーバリアン》。 

 その中でも割とまともな格好をしたやつが。こっちを向いて叫んでいる。 

 襲われている側は結構被害も出ているみたい。血を流して倒れている人とか、倒れてうめいている人とか。
 僕が飛び込んできたときも、今まさに切られそうになっている人がいて。それに関してはいい妨害になったみたい。 

 爺ちゃん、これを承知で僕を投げたな。 

 でもこれだったら遠慮はいらないよね? 

 僕は軽く腰を落とし正拳突きを繰り出す。 

「はっ!」

 僕の周りを取り巻いている魔素がその動きに導かれ、偉そうな盗賊に向かって打ち出された。 

 まるで見えない何か(とは言っても、うっすら緑の風のようなものが見えているんだけど)がドリルのように撃ち込まれ、それを受けた盗賊がふっ飛ばされる。 

「ぎゃひーーーっ」

「頭!」
「てめえ、なにしやがる!」
「どこのど…ガキだ?!」

 盗賊の一部がこちらに殺到してきたんだけど、そこにいたのが僕みたいな子供で戸惑っているな。
 そのスキが命取りだ。

 僕は足を上げてついで強く地面を踏みしめる。 

 ズン!
 震脚っていうんだ。

 だけど僕の周りには高濃度の魔素があって、震脚によって押し出された魔素が、周囲の魔素を巻き込み、複数のつむじ風のようになって盗賊に襲い掛かった。 

「ぼへっ」
「ぎゃふっ」
「べしっ」

 また勢いよく弾き飛ばされる盗賊たち。 
 うんうん、まるで一騎当千系のゲームみたい。面白いや。
 
 さすがに盗賊たちが固まったように、こちらを見つめている。 

「うん、実戦は初めてだけど結構いけるね」 

 実はこの技、神威心闘流の技に操魔を合わせて作った戦闘術だったりするんだよ。
 もちろん僕一人で考えたものじゃなくて、父さんとか爺ちゃんとかが、僕の操魔という力を前提に考えてくれた戦い方なんだ。 

 実はこれ、恐ろしいことに手加減モードなんだよ。 

 ブーメランスラッシャーとかクロススマッシャー(タタリとどめを刺したビーム攻撃)だと殺傷力が強すぎてお手軽に使えないから。 

 だから魔素を使ってほどほどに強力で殴る蹴るレベルの攻撃ができるようにと考えてできたのがこれなんだ。 

 実際かなり便利。 

 僕は呆けで見ている盗賊に対し、パッと手を振る。 

 また魔素が渦を巻いて盗賊に襲いかかり、バチコーン! とはじきとばす。 

 多分、父さんが軽くぶん殴ったぐらいの威力はあるよ、二、三m吹っ飛んだから。完全に伸びてるし。 

「このやろうふざけたガキだ。おうてめぇらこいつは俺に任せて馬車の奴らをたたんじまえ」 

 さっきふっとばしたはずの、少し上等な盗賊が。武器を構え肩をいからせて。のっしのっしとやってくる。 

 頭とか呼ばれていたやつだ。 

 堂々と向かってくるところを見るとさっきは不意を突かれたとかそんな感じで思ってるのかもしれない。多分、まともにやれば負けないと思っているんだ。 

 なめられたものだと思う。  

 でも僕の出番はここまで。 

 「ひゃっはーーーーーーっ」 

 マジでヒャッハーはやめてほしい。 

 モヒカンでないのがせめてもの救いかな? 

 走りこんで来た魔動車は僕の脇を走り抜け、盗賊を霞めるように進行し、そのときに爺ちゃんが持っていた棍棒が盗賊の頭《かしら》の頭《あたま》を殴り倒した。 

「もげらっ!」 

 ギュルギュル、キリモミしながら飛んでいく盗賊。危ないので絶対真似をしないでください。よい子も悪い子も。 

「ふははははははははっ、汚物は消毒だーーーーーっ!」 

 そう叫びながら車から飛び降りるじいちゃん。
 次々と盗賊を殴り倒している。
 どっちが凶悪犯か区別がつかない。

 他のみんなも車から飛び降りると、行動かいし、あっという間に盗賊たちを制圧してしまった。

「ちょっぱや」

 まあ、みんな超一流の戦士だからね。強いんだよ。 

 もちろんフウカ姉ちゃんも超強い。 

「よっしゃー、てめえら治療だ、気合入れていくぞー」 

 いや、マジで治療行為が始まるんだけどね。リーゼントのヤンキージジイが言うとなんかろくでもないことのように聞こえる不思議。 

 ◇・◇・◇・◇ 

 ただ大医王とか言われるだけあって、マシス爺ちゃんの指示は的確だ。 
 軽傷のやつは僕の方に放られて来て、ぼくが治療する。 
 自分は重傷者の治療にあたる。

 僕は魔法は使わない。 

 僕の魔法はあまり大っぴらにしない方がいいといわれているんだ。まあね魔法じゃないし。 

 だから医薬品や魔法薬を使って手早く治療をしていく。
 手順は地球のそれと大して変わらないかな。 
 きれいな水で傷口を洗い。薬を塗り込んで。縫合の代わりにすごい粘着力のあるテープで傷口を固定し、その上から包帯でさらに固定。
 ちなみに粘着剤が傷薬になってます。よく作らされるんだけどすっごく臭い。でもよく効く。だから許せ。

 地球と違うのはこの手の薬品に魔法的な効果が付与されていることだろうか。魔力というよりこれに関しては魔素が練りこまれているんだよね。
 魔素もそういう形でなら利用されている。

 普通の傷なら弱めのもので、深めの傷なんかは、魔法薬と呼ばれる強力なやつを使う。いろいろしゅるいがおおくて大変。でもそれが僕の仕事。 

 爺ちゃんの方はというと、魔法も使って治療をしている。 

 骨折とかはぐりぐりやって骨を元の位置に戻し、その上で回復魔法をかけてある程度回復させる。 

 ここでのポイントは全回復とかはさせないことだ。 

 それをすると魔力がかなり無駄になるらしく効率が悪いんだって。
 あと自然治癒力をダメにしてはダメって言ってた。 

 たから、あくまでも自然治癒を利用する形でやっていく。 
 あと怪我人に怪我の痛みを教えるのも大事なんだってさ。

 うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。とか言ってる。

 こうしてどんどんけが人を片づけていく。 

 盗賊たちは他のみんなに拘束されているけど、やっぱり怪我人も多いのでそちらの処理もする。 

 そうしているうちに困ったちゃんが再起動した。 

「貴様ら何をしていたのだ? なぜさっさと助けに来ない? 
 ワシはグーブノーグ子爵なのだぞ」 

 ちょっと太ったバーコードハゲの兄ちゃんがわめき出した。
 若いのにデブではげ、これで○○だったら三重苦だ。 

 どうやらこいつがこの馬車の持ち主で貴族らしい。
 うわーーーっ。

 今まで盗賊に襲われたショックからか、目を回してお供の人たちに介抱されていたのだ。 
 お供の中にも空気の読めない奴はいたんだよね。 

 治療をしている爺ちゃんの所にきて、子爵様を先に見ろとかわめいてさ、そんで爺さんの攻撃で悶絶してリタイアしていた。 

 爺ちゃんはお医者さんだから、けがをさせずにものすごい激痛を与える方法とか熟知しているんだよ。 

 その空気読めないマンは痛みで気絶しておとなとしてはダメな色々を垂れ流して昏倒していたりする。
 臭いから端っこで。 

 もうそうなるとほかの護衛も遠巻きに見ているだけ。爺ちゃんを恐れて近づいてこないな。
 でもこいつら本当に貴族の護衛か?
 爺ちゃん公爵様だぞ?
 誰も知らんのか? 

 しかも貴族とか言う以前にただ黙って見ているだけでなんもせんから爺ちゃんの機嫌はウナギ下りだ。

 だからバーコード禿のデブ兄ちゃんに爺ちゃんは返事もしない。

 それが気に障ったんだろうな。

「貴様、貴族に対する礼儀も知らんのか? このクソジジイが、町に戻ったらただではおかん。ワシの権力で全員牢屋にぶち込んで…」

 と言った瞬間そのデブは宙を舞った。

 ふわりと浮き上がり、勢いよく背中から地面に叩きつけられた。

 イタソー。

「かはっ」

 とか息を吐いているし。 

「子爵様ー!」 

「貴様、いくら何でも無礼だぞ、こちらはクーブノーグ子爵家のご当主、クープ・グーブノーグ子爵様だぞ」 

「しょ、しょうだじょ…わしは偉いんじゃ! げぶう」 

 はい、追撃が決まりました。

「おう、そういや、最近代替わりしたって聞いたな。まあ、若造じゃ儂を知らんでも仕方ないがよ、てめえの親父はまだまともだったんだがなあ…」 

 爺ちゃんのセリフにその場が凍り付いた。 

 まあ、爺ちゃん貴族に見えないしな。 

 おデブ子爵はまだ若いみたいだし。会ったことないのかも。 

 でも知っている人はいたみたい。 

 爺ちゃんが治療していた重症の騎士さん。年配の立派な感じの人が止めに入った。

「わ…わか…その方は…大医王マシス・ノバ公爵閣下であります」

 おデブ子爵は一瞬で真っ青になって魔神様のような爺ちゃんを見上げてがたがたと震え出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界チートはお手の物

スライド
ファンタジー
 16歳の少年秋月悠斗は、ある日突然トラックにひかれてその人生を終えてしまう。しかし、エレナと名乗る女神にチート能力を与えられ、異世界『レイアード』へと転移するのだった。※この作品は「小説家になろう」でも投稿しています。

世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人
ファンタジー
脳出血を発症し、右半身に著しい麻痺障害を負った男、山納公太(やまのこうた)。 彼はある日――やたらと精巧なエルフのコスプレ(?)をした外国人女性(?)と出会う。 自らを異世界の人間だと称し、同時に魔法と称して不可思議な術を彼に見せたその女性――ミレーヌが言うには、その異世界は絶大な魔力を誇る魔神の蹂躙に因り、存亡の危機に瀕しており、その魔神を封印するには、依り代に適合する人間が必要……その者を探し求め、彼女は次元を超えてやって来たらしい。 そして、彼女は公太がその適合者であるとも言い、魔神をその身に宿せば――身体障害の憂き目からも解放される可能性がある事を告げ、同時にその異世界を滅亡を防いだ英雄として、彼に一国相当の領地まで与えるという、実にWinWinな誘いに彼の答えは…… ※『小説家になろう』さんにて、2018年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんで現在連載中の作品を転載したモノです。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

処理中です...