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第9話 森の奥の隠された場所
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第9話 森の奥の隠された場所
「普通のクマですね」
「ですです」
いや、普通って…クマってこんなに大きいのか?
後ろ足で立ち上がったその大きさはたぶん2mぐらいあるぞ。
これってやばいのでは?
「うーん、もうすぐ冬だからねえ、たぶんご飯を探しに来たんだよね」
フゼットさんの態度は緊張しながらも余裕があった。
「ですです。リウ太、よく聞くです」
ここでもリウ太になってしまった。
「リウ太は魔法が使えないと聞いたです。ですが魔法のことを勉強することは役に立つです。よく見ておくです。
フゼット、やるです」
テンテン姉も余裕ありまくりだ。
「はーい、任せてください【氷雪の女王。凍える息吹。その指先は死をいざなう惑いの檻。探せども光なく、求れど火もまたなし。氷雪の檻】」
フゼットさんが魔法を唱えるとその体から魔力があふれ、踊るように流れて一つの現象を作り出す。
クマの周りに風が渦巻き、次第にその風に雪が混じり、どんどん細かくなっていく。
まるでクマだけが真っ白な世界に閉じ込められたみたいに。
「魔導師には得手不得手があるです。フゼットは氷雪系と風系が得意な魔導師で、これは敵を凍えさせると同時に白い闇にとらえて動きを封じる魔法です。
ただクマは割と寒さに強いので効果は限定的です」
次第に魔法が晴れ、クマが出てきた。クマはまだ健在ではあったが、白くなっていて結構凍えていそうにみえた。
そしてその時にはフゼットさんは次の魔法を準備していた。
【風に乗って歩むもの、そのいたずらな爪、かすめる悪意、影を切る。ああ、無慈悲なる戦輪よ、わが敵を切れ鎌鼬】
凍えて動きの鈍くなったクマの首近くで風がうなり、次の瞬間クマの首に深い切込みが入ってた。
吹きだす血は先ほどの魔法の余韻か、あっという間に冷えて固まり、クマは静かに地面に倒れた。
「はい、よくできたです」
さらに【加圧】という魔法で血を絞り出し、テンテンさんが収納袋を出してクマをしまう。
「2mぐらいです。若い個体です」
「今日はクマ鍋ですね」
二人ともけっこう喜んでいる。
しかしこの二人はなんで俺をここに連れてきたんだ?
俺に魔法を教えることに何か意味があるのか…
「さあ、帰りましょうか?」
「フゼットはあほです。私たちは狩りに来たのではないです」
「・・・そうでした」
そうだそうだ、そう言えばこの人たちはなぜここに来たんだ。何か探しているって言ってたけど。
「お姉ちゃんたちは何を探しているの?」
「ふむ、まあ、リウ太には関係のない話ですが私たちはこの地に封じられたタタリを探しているです」
「え? なんで?」
タタリというのは話を聞くだけだがよくないものだ。
そんなものを探してどうするというのか。
「タタリがよくないものなのは私たちも知っているです。でも、というかだから確認して回らないわけにはいかないです。
この辺りにタタリが封じられたのはずいぶん昔で、ひょっとしたら封印も緩んでいる可能性があるです。
封印の確認と補修は定期的にしないといけないです」
「でもここのタタリは古文書が見つかるまで誰も知らなかったんだよね」
「タタリというのはとても恐ろしいものです。小さな(といいつつウサギぐらいを手で示し)タタリでもそれなりの戦力が対応しないと危ないものなんです。
しかも滅ぼすのはとても難しいです。
せっかく封印されているのだからそのまま封じて置くです」
「でも大昔の古文書だからね、古文書ってわかる? 大昔の…言い伝え?」
おいおい、うまく説明できなくてごまかしたな。
だがつまりこの世界にはタタリというのがいて、これは昔からちまちまいたらしい。
このタタリというのはとても倒すのが難しく、倒せないときは封印という形で抑えるのだそうだ。
そしてその封印、解けるとまたろくでもないものが出てくるので偉い人がちゃんと管理することになっている。
ただときどき大昔の封印が忘れ去られてしまうようなことがあるらしく、そういうのが見つかると対処が必要になる。
めったにないんだろうけどね。
ただ今回はその稀有なケース。
できれば早急に確認して、封印の状態とか、封じられたものの状態とか、調べて適切な措置を取りたいらしい。
今はその第一段階としてその場所探し。
「いかんせん古い話です、探すのも大変です」
《あっ、それならわちしが知っているですよー》
そうそう、知っている人とかいると大変にって…マジか。
びっくりしていると二人が俺の顔をじっと見ている。
あー、どうしたもんかねえ、教えるべきだとは分かっているのだけど、教えてなんでわかったとか言われても返事のしようがないんだよな。
《そのまんま教えちゃって大丈夫ですよ~。妖精と話ができる人もたまにいるですよ~》
ほう、そういう感じか。
ならいいな。
「姉ちゃんたち、こっち」
知っているといってもすぐに納得はしてもらえないだろう。だったら案内しちゃおう。
「リウ太、どうしたです?」
テンテン姉が呼び止めるが俺は無視して奥に行く。
《後ろからくるですよ~、回避ですよ~》
テンテン姉がさらに追いかけてきて俺に手を伸ばす。
後ろとはいえ右斜め後ろだ。
なぜかテンテン姉がどこにいるのか、何をしようとしているのかわかったような気がした。
もやッとした人型(獣人だからちょっと違う)が感じられたのだ。
だからひょいと避ける。
そしてそのまま奥に向かってダッシュ。
いやさ、テンテン姉が本気になったら絶対につかまる自信があるぜ。
今のでわかった。
なので先導するしーぽんを追いかけながら全速で走る。
そして何とかテンテン姉たちが戸惑っているうちに目的地に着くことができた。
それは川沿いに進んだ森の中の、ちょっとした段差だった。
見た目は本当に周囲と区別がつかないほど当たり前の地形。たぶん長い年月で埋もれてしまったんだ。
「どうしたです? いきなり走り出して」
「ここ」
俺はその草やつたに覆われた小さい崖を指差した。
ここまでくればしーぽんに言われなくてもわかる。ものすごく嫌な感じが漂っている。
他の人平気なのか?
《今の人間は世界の魔力に対する感受性が鈍いですよー、普通は分からないですよー、でも~》
「なななななっもなんですここは? いやいや言わなくてもわかるです。これが封印の塚です、長い間に完全に埋まってしまったです」
《ヴェスティアみたいな人でない種族はまだそういう感性を持っているです》
「テンテンさん?」
「見つけたデス、やばいです。これはもう決壊寸前です。結界が決壊するです。すぐに大将に連絡するです。
逃げるです」
そう言うとテンテンさんは俺を小脇に抱えてまっしぐらに村に帰っていった。
うん、まあ、これでいいだろう。
◇・◇・◇・◇
即座にバリケードとか目印の旗とか作られて大騒ぎ。
やっぱりお塩は効果があるみたいで周辺にまいていたらしい。
そして夜。テンテンさんとフゼットさんがやってきた。
当然なぜわかったかを聞くためだ。
「えっとね、妖精さんに教わった」
そう言ったらみんな固まった。
おい、問題ないんじゃなかったのか?
《はて~? ですよ~問題ないはずですよ~》
「やっぱりこの子は申し子ですです。昨日魔動車を観察している時にひょっとしたらと思ったです。
この子に加護を与えているのがどういう存在なのかわからないです。ですが何か大きな存在に愛されているです」
テンテン姉がそう言うとフゼットさん納得したようだった。
お母ちゃんは…うーん、ちょっと心配をしている感じ?
だがその話はここまでだった。あとは普通にご飯を食べてお眠の時間。
「どう? リウは寝た」
「はい、ぐっすり」
ふふふっ、フゼットさんはお人よしだ。寝たふりをしているだけだったりする。
「それにしてもリリアーヌが駆け落ちしていたとは意外過ぎる顛末です」
女三人集まればというのがあったが三人だけになった事でお母ちゃんたちは砕けた感じで話を始めた。
ところでリリアーヌって誰?
「普通のクマですね」
「ですです」
いや、普通って…クマってこんなに大きいのか?
後ろ足で立ち上がったその大きさはたぶん2mぐらいあるぞ。
これってやばいのでは?
「うーん、もうすぐ冬だからねえ、たぶんご飯を探しに来たんだよね」
フゼットさんの態度は緊張しながらも余裕があった。
「ですです。リウ太、よく聞くです」
ここでもリウ太になってしまった。
「リウ太は魔法が使えないと聞いたです。ですが魔法のことを勉強することは役に立つです。よく見ておくです。
フゼット、やるです」
テンテン姉も余裕ありまくりだ。
「はーい、任せてください【氷雪の女王。凍える息吹。その指先は死をいざなう惑いの檻。探せども光なく、求れど火もまたなし。氷雪の檻】」
フゼットさんが魔法を唱えるとその体から魔力があふれ、踊るように流れて一つの現象を作り出す。
クマの周りに風が渦巻き、次第にその風に雪が混じり、どんどん細かくなっていく。
まるでクマだけが真っ白な世界に閉じ込められたみたいに。
「魔導師には得手不得手があるです。フゼットは氷雪系と風系が得意な魔導師で、これは敵を凍えさせると同時に白い闇にとらえて動きを封じる魔法です。
ただクマは割と寒さに強いので効果は限定的です」
次第に魔法が晴れ、クマが出てきた。クマはまだ健在ではあったが、白くなっていて結構凍えていそうにみえた。
そしてその時にはフゼットさんは次の魔法を準備していた。
【風に乗って歩むもの、そのいたずらな爪、かすめる悪意、影を切る。ああ、無慈悲なる戦輪よ、わが敵を切れ鎌鼬】
凍えて動きの鈍くなったクマの首近くで風がうなり、次の瞬間クマの首に深い切込みが入ってた。
吹きだす血は先ほどの魔法の余韻か、あっという間に冷えて固まり、クマは静かに地面に倒れた。
「はい、よくできたです」
さらに【加圧】という魔法で血を絞り出し、テンテンさんが収納袋を出してクマをしまう。
「2mぐらいです。若い個体です」
「今日はクマ鍋ですね」
二人ともけっこう喜んでいる。
しかしこの二人はなんで俺をここに連れてきたんだ?
俺に魔法を教えることに何か意味があるのか…
「さあ、帰りましょうか?」
「フゼットはあほです。私たちは狩りに来たのではないです」
「・・・そうでした」
そうだそうだ、そう言えばこの人たちはなぜここに来たんだ。何か探しているって言ってたけど。
「お姉ちゃんたちは何を探しているの?」
「ふむ、まあ、リウ太には関係のない話ですが私たちはこの地に封じられたタタリを探しているです」
「え? なんで?」
タタリというのは話を聞くだけだがよくないものだ。
そんなものを探してどうするというのか。
「タタリがよくないものなのは私たちも知っているです。でも、というかだから確認して回らないわけにはいかないです。
この辺りにタタリが封じられたのはずいぶん昔で、ひょっとしたら封印も緩んでいる可能性があるです。
封印の確認と補修は定期的にしないといけないです」
「でもここのタタリは古文書が見つかるまで誰も知らなかったんだよね」
「タタリというのはとても恐ろしいものです。小さな(といいつつウサギぐらいを手で示し)タタリでもそれなりの戦力が対応しないと危ないものなんです。
しかも滅ぼすのはとても難しいです。
せっかく封印されているのだからそのまま封じて置くです」
「でも大昔の古文書だからね、古文書ってわかる? 大昔の…言い伝え?」
おいおい、うまく説明できなくてごまかしたな。
だがつまりこの世界にはタタリというのがいて、これは昔からちまちまいたらしい。
このタタリというのはとても倒すのが難しく、倒せないときは封印という形で抑えるのだそうだ。
そしてその封印、解けるとまたろくでもないものが出てくるので偉い人がちゃんと管理することになっている。
ただときどき大昔の封印が忘れ去られてしまうようなことがあるらしく、そういうのが見つかると対処が必要になる。
めったにないんだろうけどね。
ただ今回はその稀有なケース。
できれば早急に確認して、封印の状態とか、封じられたものの状態とか、調べて適切な措置を取りたいらしい。
今はその第一段階としてその場所探し。
「いかんせん古い話です、探すのも大変です」
《あっ、それならわちしが知っているですよー》
そうそう、知っている人とかいると大変にって…マジか。
びっくりしていると二人が俺の顔をじっと見ている。
あー、どうしたもんかねえ、教えるべきだとは分かっているのだけど、教えてなんでわかったとか言われても返事のしようがないんだよな。
《そのまんま教えちゃって大丈夫ですよ~。妖精と話ができる人もたまにいるですよ~》
ほう、そういう感じか。
ならいいな。
「姉ちゃんたち、こっち」
知っているといってもすぐに納得はしてもらえないだろう。だったら案内しちゃおう。
「リウ太、どうしたです?」
テンテン姉が呼び止めるが俺は無視して奥に行く。
《後ろからくるですよ~、回避ですよ~》
テンテン姉がさらに追いかけてきて俺に手を伸ばす。
後ろとはいえ右斜め後ろだ。
なぜかテンテン姉がどこにいるのか、何をしようとしているのかわかったような気がした。
もやッとした人型(獣人だからちょっと違う)が感じられたのだ。
だからひょいと避ける。
そしてそのまま奥に向かってダッシュ。
いやさ、テンテン姉が本気になったら絶対につかまる自信があるぜ。
今のでわかった。
なので先導するしーぽんを追いかけながら全速で走る。
そして何とかテンテン姉たちが戸惑っているうちに目的地に着くことができた。
それは川沿いに進んだ森の中の、ちょっとした段差だった。
見た目は本当に周囲と区別がつかないほど当たり前の地形。たぶん長い年月で埋もれてしまったんだ。
「どうしたです? いきなり走り出して」
「ここ」
俺はその草やつたに覆われた小さい崖を指差した。
ここまでくればしーぽんに言われなくてもわかる。ものすごく嫌な感じが漂っている。
他の人平気なのか?
《今の人間は世界の魔力に対する感受性が鈍いですよー、普通は分からないですよー、でも~》
「なななななっもなんですここは? いやいや言わなくてもわかるです。これが封印の塚です、長い間に完全に埋まってしまったです」
《ヴェスティアみたいな人でない種族はまだそういう感性を持っているです》
「テンテンさん?」
「見つけたデス、やばいです。これはもう決壊寸前です。結界が決壊するです。すぐに大将に連絡するです。
逃げるです」
そう言うとテンテンさんは俺を小脇に抱えてまっしぐらに村に帰っていった。
うん、まあ、これでいいだろう。
◇・◇・◇・◇
即座にバリケードとか目印の旗とか作られて大騒ぎ。
やっぱりお塩は効果があるみたいで周辺にまいていたらしい。
そして夜。テンテンさんとフゼットさんがやってきた。
当然なぜわかったかを聞くためだ。
「えっとね、妖精さんに教わった」
そう言ったらみんな固まった。
おい、問題ないんじゃなかったのか?
《はて~? ですよ~問題ないはずですよ~》
「やっぱりこの子は申し子ですです。昨日魔動車を観察している時にひょっとしたらと思ったです。
この子に加護を与えているのがどういう存在なのかわからないです。ですが何か大きな存在に愛されているです」
テンテン姉がそう言うとフゼットさん納得したようだった。
お母ちゃんは…うーん、ちょっと心配をしている感じ?
だがその話はここまでだった。あとは普通にご飯を食べてお眠の時間。
「どう? リウは寝た」
「はい、ぐっすり」
ふふふっ、フゼットさんはお人よしだ。寝たふりをしているだけだったりする。
「それにしてもリリアーヌが駆け落ちしていたとは意外過ぎる顛末です」
女三人集まればというのがあったが三人だけになった事でお母ちゃんたちは砕けた感じで話を始めた。
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