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私は秘密を持っている 第六話
しおりを挟む「お二人さん、焦ってはいけません。ここは、とにかく私の話を聞いてください。感情に任せて行動することにより、人は多くの誤ちを生み出して、後で罪の意識に苦悶するのです。大胆な行動を起こす前に、まずは心を大きく開いて対話をする。そして、食い違っている部分について熟慮する。どうです、決して、難しいことは言ってないでしょう? 月見団子を盗んでいくイタズラ坊主にでもわかることです。弱者の言い訳だと決めつけながら聴いてはいけませんよ。まずは、この社会を広く見渡してみましょう。海、山、そして冥界。世界は本当に広い。実に遠大ではないですか。この国は特に人口が多く、様々な経歴を持った人間が、ほぼ同じ地域に所狭しと住んでいるわけです。まずは、その認識を持ちましょうよ。ああ、自分とは毛色の違う人間がずいぶんいるなと。その決定的事実を軽んじてはいけません。自分の身の周りで単なる話題作りのために憶測混じりに語られている、実に軽率な情報だけで人生を論じてはいけません。相手がどんなに優秀な方に見えたとしても、同じような人たちとばかり対話していては、それこそ視野が狭くなるというものです。他人の正論を自分の正論へと置き換えてしまうことが、人生において、最大の誤解の元になるわけです。思想の極端に偏った、不幸にも良き師を持ち得なかった人々には、たびたび訪れる傾向にある勘違いの源なのです。
『息子よ、この理屈がわかるのか、おまえは本当に賢いな』
尊敬している父親にそう褒められても、鵜呑みにしてはいけません。記憶に刻んではなりません。どんなに沢山の小説(漫画)を読み耽っても構いませんが、同じ作者の作品ばかりを手にとってはいけません。思想的な教えとは一人の偉人によってのみ語られるものではありません。自己の内面を形成していく、あらゆる学問は、もっと幅広い視野で捉えるべきです。一人の芸術家の作品ばかりを崇めているうちに、あなたの大切な思想までもが、月に惹かれて海岸の潮が満ちていくことが誰の目にも見られていないように、少しずつ変化してしまうのです。あなたは自分がいつの間にか、ねじ曲がった思想を持つ人間に成長してしまったことにすら、全く気づいてはいないのです。多くの人間に裏切られ、どんなに世を拗ねても、部屋に篭りきりでいてはいけません。太陽の光が真理を教えることもあります。我々が食う寝る踊るを楽しんでいるこの世界は、外界との行き来を完全に閉ざされた金魚鉢ではないのです。ドアは、ほら、そこら中に付いています。黄色、黒、緑、白。どれを開けても良い。ここは全ての可能性が眠っている大海なのです。泳ぎ出し、そして、いつか羽ばたく。足下の砂地ばかりを弄っていてはいけません。その目を常に遠くへ遠くへと向けていくべきです。大海のはるか彼方には、未知の人類の住まう新大陸ではなく、むしろ、誰も目にしたことのない、宝石のように輝く虹色のオーロラのカーテンを探すべきです。されば、これまでには思いもよらなかった、新しい思想革命も芽生えます。その道の先のどこかに、もし、先人がいたと気づかされても、それは良いことに変えましょう。常に誰よりも先に、ではなく、自分の力でも出来そうな、何とか生み出せそうな、新しい道を探していくべきなのです。
現実からいえば、数億もの働きアリの中に、否応なしに放り込まれてしまうわけです。上から下から右から左まで思想は実に様々です。隣人の中から、自分と同じ思想の保有者を見つけることさえ難しい。親兄弟であっても、意見は残酷なまでに食い違います。『父さんだけは信じていたのに!』まあ、それも良いではないですか。官公庁も大企業も学校もスポーツ界も、内部で話し合いを試みたならば、結局のところ、その意見はバラバラになるわけです。広大な森林に住まう、幾百万の野鳥たちが、それぞれ違う声で泣きわめくのと同じです。この自由な世界においては、他と違う声色で話せるからこそ、その聴き慣れぬ声は、いずれ森林の奥深くまで通っていくのです。昨夜のスポーツイベントの話題については、みんなが共通の認識として楽しむことができた。「あいつは、何か起こるたびに、やたらと感情を表に出しすぎる」と、とあるバラエティ番組の司会者への、針でちくちく突くような不満も、周囲に座っている、友人知人らには、すんなりと受け入れられました。あるいは酒の力かもしれません。パーティをより盛り上げるために、来客すべての好みに合う美味しい話題が、軽やかに踊り狂う舌により、次々と運び込まれていきます。多少の毒も、少し古くなった話題も、完全なる嘘(デマ)であっても、今となっては、誰も真相を知り得ぬ事件を扱っても、まったく問題にはなりません。全ての言霊が右から左へと喝采を浴びながら流されて行く。日頃人には言えずに溜め込んでいた、自分だけの思想を胸の金庫から取り出して、ここぞとばかりに流し込め。みんなが正気を失っている。普段なら黙ってはいない理論も美女とワインの前ではさほど気にはならない。清流も濁流も今は美しいワルツ、サンバのリズム、闇夜に聴こえてくるノクターン。おかげさまでパーティーは大盛況。ここまでの雰囲気はまずまずです。美味しい話題の上に、自論を着実に積み重ねていきながら、様子伺いの明るい笑顔がほとばしる。なるべく、皆が参加できる、万民向きの料理になるように、硬く焼き過ぎぬように、途中で軽い冗談が添えられ、政治を蹴飛ばし、宗教はどこかのクローゼットに押し込め、数分おきに若者向けのポップスを取り込む。下を向いて黙っている人のところへ、優しい言葉がそっと投げられて、宙を飛び交っている。
しかしですね、何かの間違いによって、近年の外交問題ですとか、各々の思想信条の相違にまで話が及んでしまうと、途端に場の雰囲気は落ち着かなくなります。各々が目をぎらつかせて、誤って身につけてしまった勝手な持論を叫びだしてくる。相手側が決して受け入れるはずのない極論を、最後通牒のように鼻先に突きつけて、決して引っ込めようとはしない。これまでにこやかに語っていたまとめ役も途端に融通は効かなくなり、他人の意見には絶対に耳を貸さなくなる。『いや、ちがう、ちがう! キミは何を言っているんだ! 知識が浅いよ! もっと、勉強をしたまえ!』聞き慣れぬ下級新聞紙の片隅に掲載されていた、豆粒のように小さなコラムから、一方の側だけに都合のいい情報を巧妙に切り出してきて、何とか自説を裏付けようとし始める。仕事を退職して、贅沢をする金はないが、時間を持て余している偏屈者たちが、原稿料もろくに貰えずに、何とはなしに書き綴ったような落書きまがいの記事を、これは実に有力な情報だと言い張りながら、食卓の上まで堂々と持ってくるわけです。大手新聞社の政治社会面は読んだこともありませんけどね。実際は他人と討論するような勇気はないんです。でも、家にこもって壁や人形を相手に怒鳴り散らしているだけならいいでしょう? そのうち、独り言を飛び出して、他人に向けてぶつけたくなるのかもね。何しろ、私の思想は窮屈なのでね。理解させるまでには時間がかかる。
『それなら、これに反論してみな! もし、そちらに十分な論拠があるならね!』
しかし、他の参加者としても、そんな横暴を許すわけにはいきません。これまでに培ってきた友好関係よりも、自分が一貫して通してきた正義や道徳観念の方が、より優先すべきだと感情を高ぶらせ、息を巻くわけです。今となっては、みんなが顔を真っ赤にして、罵り合う。朝顔のように地道に育ててきたはずの信頼関係は、いまや砂上の楼閣のごとしです。娯楽や芸術と政治とは、まったく別のベクトルの話題であり、決して同等には語れないというわけです。『知りもしないことを語るな』という理屈よりも、そもそも、食卓を彩るべき料理を慎重に選ぶべきなのです。納得する気がないのに数時間にわたり延々と極論のぶつけ合いを続けるている討論番組。あんなものをマネする必要はありません。格好良いところはひとつもありませんのでね。魚介類にしても哺乳類にしても、その種類は実に豊富です。縄張り争いをすんなりと収めるのは主催者でも容易ではない。政府は手当たり次第に金をばら撒き、自分になついてきたメディアだけを利用している。例え、政策は破綻していても、より多くの支持を得ようと、色々と画策しているようです。しかし、思想の統一というわけにはなかなかいかない。
世界情勢とは宗教や思想の食い違いや大国の利権が複雑に絡み合い、常に混沌とした状況になるわけですが、現在は自由と平和思想が多くの国家を支配しています。暴論を吐いても暴力さえ振るわなければ、どんな判断も思考もとりあえずは許される。『では、自分の頭の中だけで語っていろ。それなら、別に取り締まったりはしない』言論と行動に制約のある、狭い檻の中で、それぞれが生きたいように生きてみる。思想の一致をみない勢力に対しては、根本的な不満は多くあるでしょうが、とりあえずは日常生活を第一に優先させて、折り合わぬ隣人とも極力付き合っていかねばなりません。意見の合わない隣人の住宅とは自然に距離が離れていく。地面の下に感情感知センサーと敷地内移動キャタピラが付いているので可能です。ふざけた奴は日を追うごとにどんどんと離れていく。双眼鏡でしか確認できなくなる。『これはいい、これなら、ストレスなんて、ほとんど感じずに暮らしていける』しかしながら、そんな、画期的な発明はいまだ為されていないのです。そこでどうするか、無用なトラブルは極力起きないように、双方の意見の良いところを汲み取っていこうと、無難な地点へと落ち着いたわけです。君主の横暴が全てにおいてまかり通っていた中世の頃と比べれば、知性の発達といえるのかもしれませんし、教育者の力があったせいなのかもしれません。この国に生まれ来る全ての人が、最低限のマナーを受け入れるのならば、おそらく、思想信条の違いに端を発する対人トラブルは一切起きないはずです。ひずみが起きないわけではない。思想的な進化が起これば、精神的な発達と同時に否応なく権力構造の変化を生むからです。まず、警察官と裁判官の約半数は、その流れの中で容赦のないリストラに遭うでしょう。しかし、それは少しの犠牲に過ぎません。すっかり平和になった公園のベンチで、それまで虐げられていた人たちがくつろぐ平和な光景が見られる一方で、権力者を崇め奉っていた信者たちが次々と転げ落ちていくわけです。変革とはときに残酷ではありますが、世界に本当の変化を求めるならば、目を瞑らねばならぬことではありませんか! 現在を理想の世の中であると仮定するならば、ぜひ、未来永劫、このままの状態において時計の針を進めて貰いたい。未だ言葉を知らぬ赤ん坊は無垢であり、無害のように思えますが、残念なことに、全ての人が同じように成長していくわけではありません。家庭に恵まれず、資産に恵まれず、あるいは、師匠に恵まれず、健康に恵まれず、友人知人にも恵まれないという不幸。そこには、遺伝の力も含まれるのかもしれません。全員のスタートラインを揃えられない以上、真っ直ぐには生きて来れない人たちが現れてきます。それに加えて、あなたがたのように遊びたいがために、勝手気ままに道から逸れていき、自分の過ちによって、社会に馴染めなくなる人達も生まれてしまうわけです。善良なる教師の声に耳を貸さず、授業中にどんな素晴らしい説教を聞いても、終始下を向いて、我関せずと薄笑いを浮かべています。友だち付き合いもスポーツも恋愛も決して本気で取り組むことは出来ない。そして、草陰に身を潜め、いたいけな子供の手を狙って負傷させる卑怯な毛虫どもが、殺虫剤と虫取り網の目をくぐり抜けて社会の隅で生き続け、やがては巨大な毒蛾へと成長してしまうように、不幸な人間とは、結局、他人の適切な助言に、いっさい耳を貸さないまま、己の意のままに最悪の存在へと成長してしまいます。つまり、常識や道徳という苦いドリンクを飲み干せなかったんです。周囲の人々は金や時間を費やしてでも、長期にわたって、それを飲み続けているのに。成長してから常識ドリンクを飲み始める人もいますが、その時にはほとんど手遅れですし、それでも、飲まない人間たちの方が遥かに多いわけです。自分の属する暴力的な組織における上下関係や政治的権力という言葉はなんとか認めることが出来るのに、スポーツや芸術における偉人たちの才能を尊敬する気持ちは全く持てなかった。社会に出たら、周囲に歩調を合わせて生きる、という観念だけが信じられなかったんです。このたった一つの落ち度が、結局のところ、この繊細な人の人生にとって、あるいは、彼に関わってしまう人たち(被害者)にとって、この先の未来を闇に閉ざすことになり、その事件に関わった被害者も加害者も、ひとりの人生としては、取り返しのつかない結果を招くことになります。
どんなに教育制度や警察機構が整った先進国であっても、殺人事件や交通事故をゼロにすることは出来ないように、異端者や凶悪犯がある日突然、この国のどこかの分娩室にいる母親の腹からひょっこり生まれてくること、これは必然なんです。『優れた人種からは優れた人間しか生まれない』という理屈では決して片付かない問題です。涼しい風が谷間の隅々まで吹き渡り、牛や鹿が平和に草を噛む牧草地帯にて、点々と存在する、ほんの数十人の住民しか住んでいない侘びた農村においては、絶対に殺人事件は起きない、というわけではないんです。そこに複数の思想を持った人間のある限り、それは避けられません。予期できないノイズも生まれます。人間社会から悪しき事件の起こる確率を完全に潰すことで、ゼロにしてしまうことも、国家からの圧力によって、限りなくゼロに近づけていくことも、きわめて難しい。それは人間という生き物が、学ぶにしても、それを伝えていくにしても、きわめて不完全な生命体であり、代を重ねていけば、流れゆく長い長い年月の中で、必ずや身に備わった価値観が変化していき、正義や道徳を権力の下にこそあるものと履き違えてしまう輩が生まれてくるからなんです。彼らが前提としているのは、常に資産と地位です。この二つは液体のようにうごめく相対的なものであり、人間の手により、どこまでも膨張させることが可能であるからです。国家間の信頼、あるいは愛情や友情や日々の充実した労働といったものを彼らは求めないわけです。肉眼では形の見えないもの、心中においては形を固定化できないものを極端に嫌います。それはおそらく、人生におけるどこかの時点で、『生きていくために必要な』優先順位を入れ替えることに失敗してしまったわけです。教師の一言に、厳しい両親からの叱責に、素直に耳を傾けておけばよかったのですが、残念なことにそれが出来なかった。彼らの心には、才能家や資産家への崇拝はあっても、日々社会を下から動かしている一般の人への尊敬はいっさいありません。大多数の庶民の今後の動向も、自分の未来と対等であるという思考を持つことが出来ません。束の間に手にした権力を盾にして、それを暴力に変えて、立場の弱い人や態度の弱い人を見下してしまいます。いつしか自分の判断がいちばん優れていると思い込み、自分の考えがいちばん単純であることを知らない。
つまり、あなたがたは自分が頭に思い描いただけの正義を、例え社会全体に対して凶器を突き付けてでも、押し通してやろうとする人間なんです。これは格納庫から抜け出して、のさばり歩いている火薬と同義です。ただ、あなたがたのような、権力に媚びて社会をそねむだけの人間のことを、この私としても、簡単に頭が悪いとは断じません。それを言ってしまえば、おのずから新たな確執、新たな争論を引き起こすことになりますからね。その辺は先ほど長々と申し上げた通りです。自分を常識人であると主張するならば、論敵に対しても最低限の敬意を払い、相手方の筋が通っている部分については、極力口を慎むべきです。重要な議論であればあるほど、無用な感情の高ぶりを抑えるべきです。しかし、自分のつまらない主張を、どうしても世論や政治に反映させようと、結局は極論や威圧的な行為に走るしかないような人間たちは、どの時代にも、いずれの国家にも生まれてくるものなんです。もう、これは防ぎようがないわけです。昔の文学者たちは、これをならず者などと表現していますがね。
五百年を生きた心理学者や凶悪犯罪捜査官なら、私のような純朴で哀れな被害者を見て、このように述べるでしょう。『ああ、こんな愚かしい人間が起こした悲劇でさえも、我々はすでに慣れっこなのだ。人は前に進まねばならぬ』とね。それは、どんなに鬱陶しいと思っても、自分の部屋にすっかり馴染んでしまったハエや蚊を、絶滅させることがなかなか出来ないのと同じです。しかし、メガホンを掲げて、街頭に繰り出して明瞭な反論を繰り返すことによって、世を乱そうとする悪意に満ちた反駁行為を、黙認することは出来ても、暴力による威圧だけは肯定することは出来ません。世の人々から無視されてしまうことを何よりも恐れているあなた方は、実際に反発を喰らえば、ご自慢の穴倉に篭もるしかないのでしょう。今さら大声を張り上げても、大衆の耳には全く届かないわけです。偏った少数派の意見において政治を動かすことはできない。歴史がそれを証明しています。金あさりゲームの繰り返しによる、おぞましい勘違いから成長した、金の亡者たちの愚かしい主張には、そもそもの道理はなく、民主主義の舵取りをまかせるわけにもいかない。クマンバチのように籠に放り込んでおくのが一番です。そういう人間たちが犯罪の一歩手前で踏みとどまっている以上、厳しく取り締まるのは難しいわけですが、毒蛇を野放しにしておくこともできないわけです。人民の95%は社会道徳に従順に育ちます。きちんとした教育を受けた、法律を順守できる、他人の長所を尊敬することもできる。後に残るは、これに当て嵌まらない、ほんの少しの人達、つまり、国民全体の残り5%以下ですよね。この部分を能力が劣っているからといって、鞭や銃で脅すことなく、一から教育し直すためには、どうしたら良いのか、その解決策を私は考えてみたんです。政府や省庁は完全に目を逸らしていますが、もはや、素通りの出来ない喫緊の課題でもあります。実は、若い頃から、ずっとその解答を考えていました。およそ十年にわたり考えていました。そして、ついに正答に足るものを思いついたわけです。
今は義務教育制度などがありまして、全ての児童には小中学校合わせて九年間の学業が義務付けられているわけです。しかし、社会全体を見渡したときに、良い結果が出ているのかというと、とても言いがたいわけです。先ほど申し上げました通り、あなた方のような不心得者が実際に存在しますのでね。見たくもない嫌な証拠が嫌というほど出てくるわけです。そこで、現在の教育制度を大胆に方向転換しまして、取り合えずは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を最後まで読むことが出来て、その上で、最低限の内容理解ができるようになるまでは、教育機関からは出しませんよ、という取り決めにする。例え歳がいくつになろうが、どんな立派な理想を持っていようが、講師全員を納得させるような、完璧な読書感想文を書けるようになるまでは、社会には出しませんよ、というようにするわけです。これが試行されれば、世界文学にうとい自分とて危ういわけですが、我ながら名案だとは思っています。貴方がたから見て、これはどうでしょう? 全国各地において、こういった思想的教育をびしびしと行うことによって、社会の不道徳な人間をさらに減らしていくことが出来るように思うんです。もちろん、これは刑務所内での人間改革や、人身事故を起こして免許失効になり、それを再取得しようとするマナー違反者たちの再教育にも使えるわけです。この倫理教育を小中高と続けていくことによって、ノミを潰し、ハエを叩き、悪い膿みをいっさい育てない純白社会が生まれます。瞳がキラキラとした純朴な青年のみを育て上げて、この社会全体を正義と道徳のみで包み込み、さらに良くしていくわけです」
私が得意満面になって、そこまで話したところで、ギャングの一人は、無法にも右手で思いっきり私の頭を殴りつけた。私の身体は後方に跳ね飛ばされた。こんな理屈っぽい説諭で、腐り切った彼らを改心させることが出来ようとは、まるで思っていなかった。しかし、思った以上に激しい怒りを買ったことに驚いてしまった。正当だと思っていた、これまでの意見もしょせんは私の主観に過ぎなかったのであろうか?
「もう、たくさんだ! こっちが聞いてもいねえ、くだらねえことを、やせ細った犬のように、きゃんきゃんと並びたてやがって! そんな理屈っぽい話を俺らの耳が聴かされても、ちっとも理解なんてできねえ!」
私は大きく両手を上げて降伏のサインを示し、どうか命だけはと、助けを求めた。
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