上 下
380 / 385
【後日譚】 卒業祝賀夜会の婚約破棄再び!巻き込まれヒロインに安息の時はない!

婚約者は反抗期の男子と化す。

しおりを挟む
 そして夕刻、バンブリア邸には昨日アポロニウス王子が交渉した『帰宅』の約束通り、ハディスが戻って来た。

 昨日と違うのは、王子による交渉の結果、ハーレム構成員だった男性達に意思の発現が見られるようになったこと。勿論、通常に戻ったわけじゃあ無い。かぐや姫に魅了された状態で意思が戻っただけなので、今のハディスは黄金ネズミみかどに敵認定されている人物わたしの婚約者である身の上が、とことん納得出来ないみたいだ。

不満たらたらな表情で帰宅してきた。反抗期の男子か。

「何故僕は愛しいあのお方の傍に永遠に居られないのだろう」

『いや、愛しい人の側には居る……!』

「我が一生の不覚……まさか婚約を結んでいる身であったとは!前世の夢は幻でしかないのか――。火鼠の裘を捧げたあのお方が現れた望外の夢の只中かと思いきや、何と云う悪夢」

『いいや、夢のような現実だ』

「かのお方のお心を得るためならば、僕はどのような困難も乗り越えてみせると誓おう―――」

『君の心を捕えておきたい―――』

 どうやらハディスは、帝とかぐや姫の影響下にあるだけでなく、魔力として引き継いだ『火鼠の裘』を得るために奔走した右大臣阿倍御主人あべのみうしの意思に影響されてしまっているらしい……。しっかり「前世」なんて言葉を使っているし、間違いないと思う。それにしたって現婚約者を目の前に、散々な言い様だ。
 とは言え、所々かすれ声でご本人様と思しき、わたしに向けた甘すぎる言葉が挟まれている。普通の時に聞いたら胸焼けして逃げ出しそうな言葉だけど、今はその言葉に救われる思いがするから不思議だ。ただ、言葉数からいって、本人が劣勢を強いられていることは確かだろう。

 まぁ、意思がしっかりしてくれた分、自力でご飯を食べたり、お風呂に入ったりはスムーズになってくれて良かったとは思うけれど、右大臣には納得できない嫌われっぷりだ。

「そんなハディに朗報がありますわ」
「僕を愛称で呼んでいいのは、真の心を捧げた月の姫君だけだ」
「はいはい!ハディアベス閣下。これでイイですわよね。貴方がそう呼べって言ったってちゃんと日記に書いて覚えておきますよ!」

 話が進まない。まるで恋に恋して黄色い魔力の影響で脳内お花畑になっていた、いつかのメルセンツを思い出しちゃうくらい、今のハディスが痛々しい。いや、ハディスの恰好ではあるけど、こんな自己陶酔した言葉を臆面もなく言っちゃうなんてやっぱりハディスじゃあないわ。だから何を言われても気にしない、気にしない。

「あぁ……何故僕はここに帰らなければならないと思うのだろう!?」

 気にしない……。

「我が身に婚約の言葉が戒めとなって纏わり付いている……なんと呪わしい!」

 気に……。

「真に思う月の君のお側へ行きたい!」

 ――なるわ!その顔で言われたら!
 オリジナルのハディスに似ても似つかない、いつまでもグチグチ言う男に、いい加減苛立ちが隠せなくなって来る。

「だったら契約期間終了を待って、待遇の変更を要求してくださいませ。わたしとハディアベス閣下の契約は学園の卒業祝賀夜会までになっていますから」
「そうだった!僕のこの『枷』は夜会までだった」

 社交での駆け引きはまず表情から。内心を悟られぬよう、心穏やかに、貴族の笑みを崩さぬよう心掛けるのですよ―――と、わたしに何度も繰り返し教えてくれたマナー講師の伯爵夫人に、最初に習ったのはそんなことだったかもしれない。そんな高位貴族教育の成果もむなしく、感情をそのまま抑えきれずに投げ遣りに言ってしまいました。ごめんなさい。

 けど、伝えた言葉に、偽ハディスは目を輝かせてるし。くそう……。

 それはさておき『枷』だけが副音声で重なって聞こえたけど気のせいよね……?まぁ、時間もないことだし、計画を進めるわ!

「嘆いたところで何の実利も得られないのはお分かりかと思います。せいぜい得られるのは同情くらいでしょう。掴み取りたいものは、とことん努力して手を伸ばす。ダメなら他のアプローチを考える。これまでのハディアベス閣下なら出来た事も、今の貴方には出来ないのでしょうかしら」
「何だって!?かぐや姫に存在を認められた僕を侮る気か!?良いだろう、僕の力を見せてやる!」

 髪と同じくらい、赤く顔に血を上らせて、ハディスこと右大臣は荒々しく足音を鳴らして自室に入って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...