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第四章 女神降臨編

女神が『かぐや姫』なんて!

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『いまはとて 天の羽衣 着る時ぞ 君をあはれと おもひいでぬる』

 魔法陣には、まさに情を失う寸前のかぐや姫が、想い人である帝へ向けて詠んだ歌が刻まれていた。

 ――ナニコレ!?帝への壮大なラブレター!??いや、オルフェンズは、ここに在る魔法陣を、かぐや姫が転生者を引き寄せるために施したって言ってたわよね?

 帝に対してなら「おしまいの今、天の羽衣を着るまさにその時に、貴方をしみじみと想い浮かべてしまうものだなんてね」って意味合いだろうけど……。転生者を呼ぶものだったら意味合いは変わってくるわ。

 感情を無くし、身も心も魔物に変じて人としての終焉を迎えようとする今、異界を隔てる天を越える力を纏う時がやって来ました。しみじみと、この呪われた境遇から救ってくれる貴方に想いを馳せていますから―――

 だから、自分を滅ぼしにやって来い。


 ――異世界人のわたしに向けた歌なら、そんな意味になるんじゃないかな。

 とんでもなく発想をねじくれさせた強引な意訳だとは思うけれど、そのくらいでなければ、魔方陣にこの歌が記されてる説明がつかない。

 前世のお伽噺に記されていた短歌を見たことで、改めて、かぐや姫が転生者だってことを実感してしまった。そして、この歌がわたしの推測した通りの意味合いなら、彼女の言葉に合点が行く。

『 嗚呼……  ついに、私の破滅が やって来た…… 何と、ままならない……  口惜し……や…… 』

 ――まぁ、覚悟が決まってた割には悔しがっていたのが、なんとも人間臭いけど。人の気持ちなんてそんな簡単に白黒つく訳じゃないものね。かぐや姫だって、お伽噺のお姫様であって、無慈悲な神や魔王じゃないもの。



「転生」兼「地上浄化装置」の陣から目を放して、青龍の背に乗った、他の3人を見遣る。

 王家の血に連なる彼等はいずれも強大かつ自立して事を成せる比類の無い力を持っている。わたしは他の人を強化する、他人任せな力しか持たない。しかもか弱い令嬢で、剣だって持つこともない。
 そんなわたしが、かぐや姫の期待を背負ってこの世界に引き寄せられた転生者らしい。

 魔物化した「かぐや姫」をやっつけるのが、この世界に引き寄せられたわたしの宿命だとしたら、なんて……――――

 見当違いなんだ!!!!

 かぐや姫は自分の人選の不味さをしっかり反省すべきだと思う!との憤りも新たに、両腕を組んでフンスと鼻息をつきながら魔方陣に鋭く視線を走らせる。後ろ姿だというのに、しっかりとこちらの様子に気付いたハディスが笑い交じりに声を掛けて来た。

「セレ?なんだか不機嫌だね?」
「大した力もないにも関わらず、とんでもない重荷を背負っている実感に、今、ぶつけようのない憤りを感じて、更にこんな大それた魔力を見せつけられて、色々と荷が勝ちすぎてることを実感しつつ打ちひしがれているところなんです。なんの益もない負債を生まれながらに負わされてるなんて、ショックでなくて何と言ったものでしょう」

 転生者の箇所を誤魔化しつつ現在の状況をざっと説明すれば、こんな感じになる。不親切極まりないはずのわたしの説明にハディスは特に追及することもなく「落ち込まないのが君らしいや」などと云う声と共にくすくすと笑うのが聞こえて来る。

「それにだな、バンブリア嬢。それを我々に言うかな?」

 冗談めかした風に苦笑を滲ませる王子の声に、はっと視線を向ける。そこに居るのは、王家の血を引く重圧だけでなく稀有な魔力を引き継ぐ責任を生まれながらに背負った3人だ。帝と同じく金色の弱化・浄化の魔力を持つアポロニウス王子を始めとした王族は、帝により建国されたフージュ王国を代々治めている。もしかしたら同じ血筋なのかもしれない。ハディスやポリンドは、それに加えて貴公子がかぐや姫に捧げた贈り物を魔力として引き継ぐ羽目になっている。

「なるほど、全ての諸悪の根源は、自分に連なる一部の人間にとんでもない負荷を掛けるこのシステムを創り出した『かぐや姫』ですね……。女神が『かぐや姫』なんて!おかしいですよ。間違いなく彼女が不平等なこの世界の諸悪の根源ですよ!」

 どん!!

 遣り場の無い怒りを押さえきれず、腹立ち紛れに足を踏み鳴らす。

『ぉ゛……』
「ちょっ!」

 ひしゃげたカエルみたいな声に続いて、ポリンドの鋭い声が発せられる。
 何が起こった?なんて聞く間もなく、視界がぐんっと勢い良く下がり……――――更に更に勢い良く、ぐんぐん下がり続けて行った。
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