255 / 385
第四章 女神降臨編
まさかの相手だけあって手強そうだわ。頑張れわたし!
しおりを挟む
粘るわたしに、しぶしぶ話してくれたギリムの言うには、ハディスたち王族は、天の川出現に伴う魔物増加と、今後も流れ落ちる可能性のある月の忌子対策のために、王城に留まって対策をとっているらしい。具体的に何をしているのかは、王族でも高位貴族でもないギリムには分からないけれど、近く大神殿主であり継承者でもあるミワロマイレ・アッキーノが王のもとへ召集される様で、今度はギリムが神殿と救護院をひとりで取り仕切らなくてはならなくなるんだって。まぁ、元々ギリム一人が取り仕切っていたところがあるから大丈夫なんだろうけどね。
そんなに近くに居るのなら直接向かおうと思い立って、放課後に学舎から出たその足で同じ大門の中の王城まで向かってみた。あっさり会えるとは思ってはいなかったけど、以前の月見の宴で継承者候補だって紹介されて、わたしの立場が国王への直答が許されるものになったって云う事だったから、もしかするとって思った訳よ。
「継承者候補なんですけど、中へ入れていただくことは出来ませんか?」
「――――‥‥いやいや、お嬢さん?我々も通りたい人全てを入れられる訳ではないよ?この正門は正当な理由があり、相応の手続きを踏んだ客人のみお通しするのが我々の務めだからね。」
門番たちは声を掛けるとしばらくキョトンとした後、モノを知らない子供を諭すようにやんわりと断りの言葉を告げて来た。――うん、分かってた。けど直答云々があったから、もしかしてわたしって凄い権力を持っちゃったのかなぁなんて勘違いしちゃったのよ!くぅぅっ、恥ずかしい。
「ですよねー‥‥失礼しました!」
がばっと勢いよく頭を下げたわたしは一目散に迎えの馬車の待つ学園へ逆戻りしたのだった。
ぱたぱたと勢い良く駆けて行く桜色の柔らかなウエーブを描く髪を揺らす後姿を見送りながら、門番がすぐ脇に備えられた詰所からこちらを静かに見詰める男を振り返る。
「これで宜しいのでしょうか?今の方は入城を許されている継承者候補のセレネ・バンブリア様では御座いませんでしたか?」
「うん良いんだ、ありがとねー。僕も無理を言って悪かったね。」
「いえ‥‥王弟殿下のご指示とあれば、従うのも我々の務めで御座います。」
あっという間に後姿が見えなくなってしまったセレネは、きっと魔力による身体強化を使って駆けているのだろう。今も彼女が通った後には僅かに魔力の痕跡とも言える桜色の欠片がキラキラと漂っている。
「全くもぉ、僕の気も知らないで。こっちが気を抜くとすぐに厄介事に突っ込んで行こうとするんだもん。しかも必要以上に目立っちゃうし、本当に困った娘だよねー。」
腕を組んで困った風な態度をとりながらも、どこか嬉しそうな男は事実喜んでいた。何も言わずに離れた自分を追って彼女が来たことに。けれど、月の忌子や魔物発生状況が悪化の一途を辿る今となっては、下手に継承者側に引き込むべきではなかったと後悔もしているし、責任も感じている。
「せめて、近付けないように、離れて居られるようにさせてもらうよ。」
赤髪の男の呟いた言葉は、自嘲気味な笑みに紛れて、誰の耳にも届くことはなかった。
絶対に王城の中には居たはずなのよ。
忍び込めるかしら。オルフェンズみたいに、姿を消して物音もたてずに移動できるなら簡単に出来そうなんだけど、さすがにただの令嬢でしかないわたしにはそこまでの事は出来ないし。さらに卒業祝賀夜会でオルフェンズが騒ぎを起こしたから、対策が強化されてるのよね。だとしたら忍び込むのは絶望的ね。
なら、アイリーシャの屋敷みたいに堂々と入り込める方法は―――。
「破廉恥娘。なんでここに居るんだい?」
中央神殿の礼拝堂正面に鎮座する女神像を備えた祭壇横に、気だるげな様子で立ちながら胡乱な瞳にじっとりと見詰めて来る黄髪長身の美形ならではの迫力に、思わずあとじさりそうになるのをぐっと堪え、にっこりと令嬢らしい微笑みを浮かべる。
「馭者に、世情が不安定で気持ちが落ち込む皆さんのために、微力ながら、少しでも晴れやかな気持ちになれるよう、お祈りをしたいと言いましたら、下校のついでにこちらへ立ち寄らせてくれましたの。おほほ‥‥。」
夕刻の中央神殿は人影もまばらで、ゆっくりと祈りの時間を取りたいと云うわたしの希望を聞いてくれた男衆たちは、神殿と外とをつなぐ大扉の外で待機してくれている。
黄色い髪の美丈夫が、何をわざとらしいことを言っている?と言わんばかりに、こちらに向ける視線を更に剣呑にする。
正攻法で無理なら搦め手‥‥この人と組むとはまさか考えないでしょ?って潜入案を考えた結果、わたしはミワロマイレに協力してもらえる様、頼み込みに来たんだけど、まさかの相手だけあって手強そうだわ。頑張れわたし!
そんなに近くに居るのなら直接向かおうと思い立って、放課後に学舎から出たその足で同じ大門の中の王城まで向かってみた。あっさり会えるとは思ってはいなかったけど、以前の月見の宴で継承者候補だって紹介されて、わたしの立場が国王への直答が許されるものになったって云う事だったから、もしかするとって思った訳よ。
「継承者候補なんですけど、中へ入れていただくことは出来ませんか?」
「――――‥‥いやいや、お嬢さん?我々も通りたい人全てを入れられる訳ではないよ?この正門は正当な理由があり、相応の手続きを踏んだ客人のみお通しするのが我々の務めだからね。」
門番たちは声を掛けるとしばらくキョトンとした後、モノを知らない子供を諭すようにやんわりと断りの言葉を告げて来た。――うん、分かってた。けど直答云々があったから、もしかしてわたしって凄い権力を持っちゃったのかなぁなんて勘違いしちゃったのよ!くぅぅっ、恥ずかしい。
「ですよねー‥‥失礼しました!」
がばっと勢いよく頭を下げたわたしは一目散に迎えの馬車の待つ学園へ逆戻りしたのだった。
ぱたぱたと勢い良く駆けて行く桜色の柔らかなウエーブを描く髪を揺らす後姿を見送りながら、門番がすぐ脇に備えられた詰所からこちらを静かに見詰める男を振り返る。
「これで宜しいのでしょうか?今の方は入城を許されている継承者候補のセレネ・バンブリア様では御座いませんでしたか?」
「うん良いんだ、ありがとねー。僕も無理を言って悪かったね。」
「いえ‥‥王弟殿下のご指示とあれば、従うのも我々の務めで御座います。」
あっという間に後姿が見えなくなってしまったセレネは、きっと魔力による身体強化を使って駆けているのだろう。今も彼女が通った後には僅かに魔力の痕跡とも言える桜色の欠片がキラキラと漂っている。
「全くもぉ、僕の気も知らないで。こっちが気を抜くとすぐに厄介事に突っ込んで行こうとするんだもん。しかも必要以上に目立っちゃうし、本当に困った娘だよねー。」
腕を組んで困った風な態度をとりながらも、どこか嬉しそうな男は事実喜んでいた。何も言わずに離れた自分を追って彼女が来たことに。けれど、月の忌子や魔物発生状況が悪化の一途を辿る今となっては、下手に継承者側に引き込むべきではなかったと後悔もしているし、責任も感じている。
「せめて、近付けないように、離れて居られるようにさせてもらうよ。」
赤髪の男の呟いた言葉は、自嘲気味な笑みに紛れて、誰の耳にも届くことはなかった。
絶対に王城の中には居たはずなのよ。
忍び込めるかしら。オルフェンズみたいに、姿を消して物音もたてずに移動できるなら簡単に出来そうなんだけど、さすがにただの令嬢でしかないわたしにはそこまでの事は出来ないし。さらに卒業祝賀夜会でオルフェンズが騒ぎを起こしたから、対策が強化されてるのよね。だとしたら忍び込むのは絶望的ね。
なら、アイリーシャの屋敷みたいに堂々と入り込める方法は―――。
「破廉恥娘。なんでここに居るんだい?」
中央神殿の礼拝堂正面に鎮座する女神像を備えた祭壇横に、気だるげな様子で立ちながら胡乱な瞳にじっとりと見詰めて来る黄髪長身の美形ならではの迫力に、思わずあとじさりそうになるのをぐっと堪え、にっこりと令嬢らしい微笑みを浮かべる。
「馭者に、世情が不安定で気持ちが落ち込む皆さんのために、微力ながら、少しでも晴れやかな気持ちになれるよう、お祈りをしたいと言いましたら、下校のついでにこちらへ立ち寄らせてくれましたの。おほほ‥‥。」
夕刻の中央神殿は人影もまばらで、ゆっくりと祈りの時間を取りたいと云うわたしの希望を聞いてくれた男衆たちは、神殿と外とをつなぐ大扉の外で待機してくれている。
黄色い髪の美丈夫が、何をわざとらしいことを言っている?と言わんばかりに、こちらに向ける視線を更に剣呑にする。
正攻法で無理なら搦め手‥‥この人と組むとはまさか考えないでしょ?って潜入案を考えた結果、わたしはミワロマイレに協力してもらえる様、頼み込みに来たんだけど、まさかの相手だけあって手強そうだわ。頑張れわたし!
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる