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第三章 文化体育発表会編

そんなホントに照れた様な顔しなくたって!!うつるじゃないっ!

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「ハディス様?わたし、このままだと生涯独身になっちゃうんですけど。大人げない真似は止めていただけませんか?!」
「心配には及ばないよ、君の相手になりそうな奴は客としては来ていないから安心して?」

 歴史学の研究結果自体は、学園生や青年貴族達から好評を得た様だったから、課題としては成功だと言えた。
 けど婿探しの釣果としては、開き直ったハディスのお陰で、散々な有り様だった。だって、年頃の令息がことごとくパネルへ接近しようとするや、殺気で威嚇するんだもん。あり得ないわー!

 なので、若者層の好評を得ていたのは主にスバルとギリムが説明員の当番だった時間帯だ。ギリムの時は特に、パネルに記された貴公子と彼をシンクロさせ、ウットリと眺めるご令嬢方の人垣が出来ていたみたい。

「そんなの、色々見比べないと分からないじゃないですか!そもそもハディス様とオルフェが傍にいるだけで顔面威力が高すぎて近付きにくいのに、更に威嚇するなんて誰も寄ってこれないですよね!?」
「叔父上、また大人気ない真似をしているのでしょうか?」
「‥‥ここまでやっていても、厄介な奴は堂々と近付いて来れるんだよね。」
「なんの話かは分かりかねるが、そろそろバンブリア嬢の交代の時間かと思ってな。不馴れな下級生のために案内を頼もうと足を運んだわけだ。」
「良いですよ、どの子ですか?」

 困っているような下級生は‥‥いないんだけど?居るのは憮然としたハディスと、薄い笑みを崩さないオルフェンズ、そして正面のふてぶてし‥‥ゲフンゲフン、堂々としたアポロニウス王子とそのご学友一同だけなのよねー?

「何を探している、私だ。」
「不馴れな下級生?」
「バンブリア嬢、指。指すな。」

 呆然と繰り返したわたしに、ギリムが眇めた目を向けてきて、初めて王子を指差してるってことに気付いた。いけない‥‥あまりの衝撃に色んなマナーとか敬意とかが吹き飛んだわ。

「では、彼女を借りるよ。護衛殿。」

 すっと出された王子のこの手は、案内を頼むなんて言いながらしっかりエスコートをしてくれるつもりらしい。さすが王子様。年上女子もとってもスマートに扱ってくれるけど――。

「アポロニウス副会長、案内は致しますが、周囲の目もありますし安易に女性の手を取られない方が余計な詮索を呼ばないと思います。なので、わたしはいつも通り護衛と先導いたしますね。」

 にっこり令嬢スマイルで建前のエスコートの断り文句を告げると、側に立っていた護衛――ハディスがすっと右腕を差し出したので、珍しく普通のエスコートらしい素振りを見せるものねーなんて思いながら左手をそっとその腕にかけた。

「そうか、私は叔父上に負けてしまったか。」
「えぇっ!?」

 そんなつもりは無いんだけど、そうなっちゃうの!?と自ら腕を掴んでしまった護衛の顔を見上げると、いつもの定型通りの笑顔ではなく、予想外の柔らかな笑みに行き当たる。

「‥‥‥はっ。」

 いけない!つい見とれたわっ。
 無意識とは言え、わたしったら何してんのよ!もちろん王子が嫌いなわけじゃないよ!?一応友人‥‥だしね。

「いえいえいえ、アポロニウス副会長と手を取り合って来賓の高位貴族を始め各所に影響を与える人達までが居る今日の学園内を練り歩くのは、しがない身分のわたしと勘違いされちゃう可能性もあったりして困るかなぁーって、思っただけですよ!?他意はありませんからっ!」
「私が良いと言うものを、何を困ると言うんだ?バンブリア嬢は決まった婚約者が居る訳ではないんだろう?」

 呆れたような表情を隠そうともしない王子は、珍しく年相応の悪戯っぽい笑いを浮かべるけど、彼の背後の高位貴族令息達の視線が刺々しさを孕みだす。
 ――このお方をどなたと心得る!
 なんて言われたのもつい最近だったわね。

「それに、学園内では身分の上下を持ち込まない事になっていたはずたが?」

 にっこり・と、やり返された―――!いつかの食堂での仕返しねっ!?

「くっ‥‥それを敢えて言われるのでしたら、こちらも敢えて言いましょう。アポロニウス副会長は、今さら案内の必要なんてないですよね!?1年棟からこの4年棟まで学園の端から端みたいなものですよ。そこをこうして何不自由なく行き来してらっしゃいますし、なんなら生徒会活動で学園の隅々まで歩いてますもんね?なのでわたしはハディス様と行きますっ!」

 エスコートされるために軽くかけていただけの手に力をグッと入れて、もう一方の手も、こちらが良い!と主張の意味も込めて添える。

 と、周り中が息を飲む気配が伝わってきた

「だそうだ。叔父上、なかなか熱烈だな。」

 王子の言葉に、ギギギとぎこちない動きで、今わたしがしがみついている形になっている護衛の顔を見上げる。

「うん‥‥いや、勘弁して。不意打ち」

 顔を片手で覆うハディスが、ちらりとこちらを見下ろすのと目があって、わたしの顔には沸騰したように顔に熱が上がる。
 だって、ハディスこそ、そんなホントに照れた様な顔しなくたって!!うつるじゃないっ!

 混乱のあまり動かすことを忘れた両手は、凍りついたようにがっちりと固定されて、互いに照れながらも離れることが出来ない。

「案内を頼みに来たはずなんだが、何を見せられているんだろうな?私は。」

 王子が張り付けた笑みでありながらも、どこか呆れを滲ませたような声音で呟く。

 けど、構ってる場合じゃないからー!!



 真っ赤に頬を染めて護衛と仲睦まじく腕を組むセレネと、王家縁の意匠を施した衣服を纏う騎士の様子に、距離を取りながらも興味津々といった様子で注目していたギャラリーたちは「あぁ、やっぱりな。」と、彼女にはとても不本意な方向で納得していたのだけれど――――それには、セレネは気付いていないのだった。
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