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第三章 文化体育発表会編
恐ろしくも醜い異形の魔力 ※ポセイリンド視点
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重いです。
2話続いてしまいますので、まとめてアップします。
―――――――――――――――――――――――――――――
『おぉぉぉぉ‥‥‥‥ぉぉん!』
龍の咆哮が低く響き渡る。
「何とおぞましい魔力の形なの!?」
「恐ろしい‥‥王家に生まれながら、殿下には呪いが憑いているのではないか?」
「見てみろ!恐ろしくも醜い異形の魔力だ。これが王家に相応しいと言えるのか!?」
「おぞましい」
「醜い」
「なんて恐ろしい‥‥。」
幼い頃から、そんな言葉に囲まれながら育って来た。
言葉を覚える前から向けられてきたその罵詈雑言の数々は、意味は分からなくてもどのような感情を伴っているのか理解することは容易かった。魔力が完全な龍体でなく、大蛇の様なぼんやりとした形であった時からそんな状態だったのに、成長に伴い、魔力が更に強くなって『龍』として化身が顕現してからは、更にひどい言われようだった。
「魔力を制御すれば、おぞましい幻影を他者に見せることもなくなります。王族の一人として、しっかりと学ぶべきです。悪戯に他人を怯えさせるなど、王子として相応しくありません。」
自分に魔力講師として就いた公爵が、そんなことを言った。
「魔力が醜悪な形をとるのは、あなた様の中に他人を貶めようと云う傲慢で醜い思いがあるからに他なりません。どうしてそんなこともお分かりになりませんか!?わたくしがこれほどまで親身にあなた様を思って申し上げているのに、まだそのように醜いものを見せようとなさるのですか!?」
裏切られたと、傷ついた表情で、涙ぐみながら、マナーの講師となっていた乳母が、10歳にも満たない自分に侮蔑の言葉を吐き捨てて、城を去った。
自分はおかしいのだろうか?
自分の魔力は醜悪なのだろうか?
自分には他人を陥れようとする醜い心があるから、魔力もおかしな形をとるのだろうか?
考えて、考えて、魔力を変化させようとすればするほど、大量の蛇の形となって部屋いっぱい紫色の蛇で溢れかえる事になったり、髪の一本一本が細い蛇となって世話役の侍女に髪を梳かされまいと暴れまわったり、王城内の影という影に小さな蛇の姿となって隠れたり――。
とにかく全てに空回った。
自分でもどうすることも出来なくて困り果て、けれど、努力すればするほど魔力はおかしな反応を返して来るから、侍女や教育係はこちらのやる気が無いからだと断じて段々と自分から距離を置くようになった。何も知らずに配属されたばかりの衛兵に、魔物だとでも思われたのか、槍を突き付けられそうになったこともあった。
そんな環境のまま自分は11歳になり、兄は17歳になった。そして自分の下には6つになる弟が居ると聞いていたが「悪影響を受けては困る」と弟の乳母や、侍従たちが結託し、自分が会う事はなかった。
国王である父は早くから身体を悪くしており、一番上の兄へ国王の執務の引継ぎを行う事を何よりも急いだ為、自ずと何人もの教師による帝王教育に、王の執務引継ぎにと時間を取られて会える時間は皆無に等しかった。父にしても、兄に執務を教える以外の時間は、最愛の母と過ごす為だけに使った。だから自分は兄弟や親と過ごした記憶は殆ど無い。
12歳を迎える自分の王立貴族学園への入学が決まった時、何を思ったのか忙しいはずの兄が、自分への祝いの為に、共に晩餐を摂る事を提案して来た。自分の周囲は何かと理由を付けて、会食を避けようとしていた様だが、兄が強硬に言い張って何年振りかで共に食事の席に着くことになった。
その席で、流石に兄が自分の周囲の異変に気付いた。
「ポセイリンド?君の髪はそんな癖っ毛だったっけ?それに、カトラリーを使ったり、‥‥そう言えばペンを持つ姿も――どこか痛むわけじゃないんだよね?」
髪は随分長い間梳いてもらえてはいなかった。
カトラリーを扱うマナーを教える講師は涙を流して逃げ出して以来、自分の前には表れていない。
ペンの握りを教えてくれる教師は、どれだけ注意しても私の魔力がふざけた形のままなのは、自分を馬鹿にしているからに相違ないと、この青の魔力を使わなくなるまで、何も教えない――そう言って、与えられた授業時間は自分の執務を持ち込んで、こちらには目もくれない。
それらを監視する衛士たちも、魔物をけしかけないための教育だと言い含められて、見て見ぬふりだ。
そう伝えると、兄は目を大きく瞠り、次いで痛ましげに顔を曇らせた。
兄デウスエクスが私の髪にそっと手を伸ばすと、髪全体が幾つもの細い束を作って蛇の形をとり、彼の手に向かって牙をむいて威嚇しだした。
それなのに兄は、衛士が剣に手を掛けるのを鋭い視線で制し、悲鳴を上げようとする侍女や、飛び出そうとする使用人達も同様に退け、そして私の髪にそっと触れた。魔力の蛇たちは一斉に兄の手に飛び掛かったけれど、もとより実態を持たないただの魔力でしかないから危害だって与えられるはずもない。
けれど、どんなに魔力の無い、蛇や龍を見ることが出来ない人間でも、気の立った私の魔力に触れれば、相応の不快感を伴うはずだった。それなのに。
「――っ!」
兄は一瞬息を飲むが、すぐにふわりと優しい笑みを浮かべ、そしてたどたどしく手櫛で私の髪を整え始めた。驚いて兄の顔を見ると「ごめんね。気付かないで、本当にごめんね。」そう言いながら涙を流し、けれど髪を梳く手を止めることはなかった。
それからは、私の周囲の環境は一変した。
2話続いてしまいますので、まとめてアップします。
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『おぉぉぉぉ‥‥‥‥ぉぉん!』
龍の咆哮が低く響き渡る。
「何とおぞましい魔力の形なの!?」
「恐ろしい‥‥王家に生まれながら、殿下には呪いが憑いているのではないか?」
「見てみろ!恐ろしくも醜い異形の魔力だ。これが王家に相応しいと言えるのか!?」
「おぞましい」
「醜い」
「なんて恐ろしい‥‥。」
幼い頃から、そんな言葉に囲まれながら育って来た。
言葉を覚える前から向けられてきたその罵詈雑言の数々は、意味は分からなくてもどのような感情を伴っているのか理解することは容易かった。魔力が完全な龍体でなく、大蛇の様なぼんやりとした形であった時からそんな状態だったのに、成長に伴い、魔力が更に強くなって『龍』として化身が顕現してからは、更にひどい言われようだった。
「魔力を制御すれば、おぞましい幻影を他者に見せることもなくなります。王族の一人として、しっかりと学ぶべきです。悪戯に他人を怯えさせるなど、王子として相応しくありません。」
自分に魔力講師として就いた公爵が、そんなことを言った。
「魔力が醜悪な形をとるのは、あなた様の中に他人を貶めようと云う傲慢で醜い思いがあるからに他なりません。どうしてそんなこともお分かりになりませんか!?わたくしがこれほどまで親身にあなた様を思って申し上げているのに、まだそのように醜いものを見せようとなさるのですか!?」
裏切られたと、傷ついた表情で、涙ぐみながら、マナーの講師となっていた乳母が、10歳にも満たない自分に侮蔑の言葉を吐き捨てて、城を去った。
自分はおかしいのだろうか?
自分の魔力は醜悪なのだろうか?
自分には他人を陥れようとする醜い心があるから、魔力もおかしな形をとるのだろうか?
考えて、考えて、魔力を変化させようとすればするほど、大量の蛇の形となって部屋いっぱい紫色の蛇で溢れかえる事になったり、髪の一本一本が細い蛇となって世話役の侍女に髪を梳かされまいと暴れまわったり、王城内の影という影に小さな蛇の姿となって隠れたり――。
とにかく全てに空回った。
自分でもどうすることも出来なくて困り果て、けれど、努力すればするほど魔力はおかしな反応を返して来るから、侍女や教育係はこちらのやる気が無いからだと断じて段々と自分から距離を置くようになった。何も知らずに配属されたばかりの衛兵に、魔物だとでも思われたのか、槍を突き付けられそうになったこともあった。
そんな環境のまま自分は11歳になり、兄は17歳になった。そして自分の下には6つになる弟が居ると聞いていたが「悪影響を受けては困る」と弟の乳母や、侍従たちが結託し、自分が会う事はなかった。
国王である父は早くから身体を悪くしており、一番上の兄へ国王の執務の引継ぎを行う事を何よりも急いだ為、自ずと何人もの教師による帝王教育に、王の執務引継ぎにと時間を取られて会える時間は皆無に等しかった。父にしても、兄に執務を教える以外の時間は、最愛の母と過ごす為だけに使った。だから自分は兄弟や親と過ごした記憶は殆ど無い。
12歳を迎える自分の王立貴族学園への入学が決まった時、何を思ったのか忙しいはずの兄が、自分への祝いの為に、共に晩餐を摂る事を提案して来た。自分の周囲は何かと理由を付けて、会食を避けようとしていた様だが、兄が強硬に言い張って何年振りかで共に食事の席に着くことになった。
その席で、流石に兄が自分の周囲の異変に気付いた。
「ポセイリンド?君の髪はそんな癖っ毛だったっけ?それに、カトラリーを使ったり、‥‥そう言えばペンを持つ姿も――どこか痛むわけじゃないんだよね?」
髪は随分長い間梳いてもらえてはいなかった。
カトラリーを扱うマナーを教える講師は涙を流して逃げ出して以来、自分の前には表れていない。
ペンの握りを教えてくれる教師は、どれだけ注意しても私の魔力がふざけた形のままなのは、自分を馬鹿にしているからに相違ないと、この青の魔力を使わなくなるまで、何も教えない――そう言って、与えられた授業時間は自分の執務を持ち込んで、こちらには目もくれない。
それらを監視する衛士たちも、魔物をけしかけないための教育だと言い含められて、見て見ぬふりだ。
そう伝えると、兄は目を大きく瞠り、次いで痛ましげに顔を曇らせた。
兄デウスエクスが私の髪にそっと手を伸ばすと、髪全体が幾つもの細い束を作って蛇の形をとり、彼の手に向かって牙をむいて威嚇しだした。
それなのに兄は、衛士が剣に手を掛けるのを鋭い視線で制し、悲鳴を上げようとする侍女や、飛び出そうとする使用人達も同様に退け、そして私の髪にそっと触れた。魔力の蛇たちは一斉に兄の手に飛び掛かったけれど、もとより実態を持たないただの魔力でしかないから危害だって与えられるはずもない。
けれど、どんなに魔力の無い、蛇や龍を見ることが出来ない人間でも、気の立った私の魔力に触れれば、相応の不快感を伴うはずだった。それなのに。
「――っ!」
兄は一瞬息を飲むが、すぐにふわりと優しい笑みを浮かべ、そしてたどたどしく手櫛で私の髪を整え始めた。驚いて兄の顔を見ると「ごめんね。気付かないで、本当にごめんね。」そう言いながら涙を流し、けれど髪を梳く手を止めることはなかった。
それからは、私の周囲の環境は一変した。
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