上 下
148 / 385
第三章 文化体育発表会編

ならばこの愛らしく、俺を頼りにしている2人をどうしろと仰るのだ‥‥。 ※カインザ視点

しおりを挟む
 俺はカインザ・ホーマーズ。誉れ高いフージュ王国 国王直々に遣える第二騎士団 団長の次男だ。うちは代々優れた武勲を持つ騎士を輩出することで、国民はおろか国王からも一目置かれている家系だ。現在も嫡男である兄デジレは団長父上の補佐役として、次期団長を継ぐ為の研鑽を続けていると、騎士団寮から帰省した兄からことある毎に自慢されている。悔しくはあるが、我が家の優秀さを思えば当然のことだ。

 騎士団には第一から第三までがあり、第一騎士団は王族の近辺警護を始めとしたお飾りの仕事が多い。よって容姿が重視されたような生っ白い奴等が大勢居る。そんな奴等の中では、名門武家出の兄の能力は高すぎたのか父上が直々に配下に据え置いた。その父上率いる第二騎士団は一筋縄ではいかない人間相手が主な任務で、その下部組織として王都警邏隊等の市民にも馴染みの治安部隊が控える。都市の平和を守護する尊い役目を負う重要な組織だ。第三騎士団は、俺の中では獣使いとさして変わらない。下等生物である魔物対策が主な仕事になる。市民たちには同等に華々しく憧憬の念を持って見られる騎士団だが、その実情はそんな風に上等から下等まで幅広い。

 とは言うものの、俺の希望は第一騎士団の団長だ。国王や王子を守護し盛り立てるため、これまでの奴らの様にお飾りではなく、武勲の名家として知られる俺が質実共に完璧に護ってみせる!そして歴代最高の評価を得る団長になってやる!

 第二騎士団団長の令息とは言え、次男の俺は家督を継ぐことは適わないから、幼い頃から親父には厳しく鍛えられてきた。お陰で同年齢のひ弱な令息などとは比較にならないほどの体格と運動能力を手に入れている。それもこれも、家門に寄せられる名声に驕ることなく自己研鑽を続けてきた俺の努力あってのことだ。

 稽古から逃げる事のあった兄の背中を、幼い頃から馬鹿にしながら見てきた俺は、自ら進んで6つ年上の兄貴でも逃げ出す様な訓練に取り組んで来たんだ。ひたすらに。
 その甲斐あって、今ではアポロニウス・エン・フージュ王子の入学に際し、若干12歳にして学友兼護衛筆頭に選ばれるほどの信頼を勝ち得ている。王子の周りには宰相の息子、公爵家の息子、そして前大神殿主の息子を含む、将来のフージュ王国を背負って立つ有望な令息たちが集められている。けれど、どいつもこいつも青瓢箪みたいに弱々しい奴等ばっかりだ。これなら俺の活躍する場はふんだんにあるだろう、気合を入れて学園生活を送って、将来の布石として先ずは揺るぎない王子の信頼を勝ち取るぜ!

 ―――それなのに。

「カインザ、君の宿題だよ。両腕の麗しいお嬢さんの事が片付くまで、私の護衛には就く必要は無いぞ。その状態では務まるはずも無いからな。期限は今、私達が話し合っている文化体育発表会の開始時刻まで。そこで解決出来ていない場合は、私から父上にお話しして他の護衛候補を立てることとするよ。」
「「「そんなっ‥‥。」」」

 自分の声に混じって婚約者メリリアン・ジアルフィー子爵令嬢と、アンことユリアン・レパード男爵令嬢の声が重なる。俺の左右それぞれの手を取った2人はそれぞれ異なった反応を見せた。
 メリリアンは自分の行為が俺を窮地に陥れたと気付いたのか、弾かれた様に握っていた手を離して呆然と王子を見つめているし、アンはそっと細い指の力を抜いて王子、ギリム、ロザリオンをきょろきょろと見渡している。俺のために誰に取り成すべきなのか考えているのかもしれないな。2人とも愛らしい俺の護るべきご令嬢だ。
 女性には優しくすべきだと教わったし、俺に好意を寄せてくれる相手なら尚のことぞんざいに扱える訳もない。何より、2人ともに俺を敬う態度で接してくれるのが嬉しいし、居心地が良い。将来はメリリアンと結婚することは決まっているけれど、俺を大事にする相手なら俺も好意で応えなくては。

「文化体育発表会の期日は、一か月後の水無月末日です。勿論、その日は保護者や後見人の方も学園においでになりますから、その場で騒ぎを起こすことだけはお止めくださいね?」

 なのにこの身の程知らずで高慢な生徒会長バンブリアは、何を生意気に諭すような口調で俺に話しかける?鬱陶しい。こいつのお陰で、王子の俺に対する評価が下がっているんじゃないのか?俺がいなくなったら王子の護衛力が大きなダメージを受けるというのに、何も知らない平民はこれだから困る。

 ぎりりと奥歯を噛みしめて生徒会長をねめつけて居ると、何故か王子はクツクツ笑っていた。
 何が可笑しいんだ?と視線を向けると、薄っすらと口元だけに笑みを乗せた、ひんやりした表情の王子と目が合った。

「カインザ、お前の出す結論を楽しみにしているよ。」
「王子‥‥。」

 結論、と言うことはどういう事だ?俺にか弱き民衆じょせいを護ると云う騎士の矜持を捨てろと仰るのか?いや、それはあまりに無体だ。ならばこの愛らしく、俺を頼りにしている2人をどうしろと仰るのだ‥‥。頼る女性を切り捨てる冷酷な選択を俺は迫られているのかもしれない―――何てことだ。

 絶望と困惑のあまりがっくりと首を垂れた俺の前で、生徒会長は無常に扉を閉めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...