46 / 107
第1章 精霊姫 編
第46話 【攻略対象 辺境伯令息】渡さない
しおりを挟むダンテフォールでは現実として、力を付けた精霊のような存在による神隠しが可能らしい。神自身からの申告だ、間違いはない。
この世は、なかなか厄介なものなのだと改めて認識したレーナは、自然、眉間に皺を寄せた顰め面しい表情となっていた。
「レーナ? もしや攫われてしまった私の不甲斐なさに怒っているのか……」
「へ?」
祠から飛び出して、流れるようにレーナの両手を取ったエドヴィンが、彼女の目の前でエメラルド色の瞳を不安げに揺らしている。レーナより身長も高く伸びてずっと男らしくなったはずの彼が、何故かか弱げに見えてレーナは狼狽える。
――とは言うものの、それはエドヴィンが計算しつくした仕草で、彼女にそう錯覚させているだけなのだが、レーナはそうとは気付かない。
「ごっ……ごめんなさい! 心細かったんだよね。エドの姿見て安心したから、別の考え事しちゃってた! ほんと、ごめん」
慌てて取り繕うレーナだが、エドヴィンにしてみれば、もっとしっかり心配して欲しかったのだから残念な反応だ。けれど、彼女の注意を自分に向けることが出来たから良しとしておこう……と考え直したところで、鋭く彼の思惑に気付いた者が不満げに声を上げる。
「レーナを危ない目に あわせてんじゃねーよ! ボーッとしてっから さらわれたんだろ。んなの、ジゴーじとく ってやつじゃん!!」
「あーっ! んもぉ、アルルクったら、またそんな乱暴な言葉遣いしちゃって! いつも注意してたのに、まだ治んないの!?」
「へへっ、そだな。レーナはいっつも、おれの話すこと 聞いて、そう注意してくれてたな」
レーナは、エドヴィンに捕まれていた両手をスッと抜き取り、身体ごとアルルクヘ向き直る。一瞬、得意気な表情をしたアルルクと、エドヴィンの視線がカチリとぶつかり合う。スゥと、エメラルド色の瞳を細めたエドヴィンだったが、フワリと柔らかな笑顔を浮かべて見せた。
「レーナ、本当に私のことで心配をかけて悪かった。さぁ、早く私たちの帰りを待つ屋敷へ、一緒に帰ろう」
言いながら、何処かの優雅なパーティー会場へエスコートするように、さっとレーナの片手を取る。
「はぁ? 何いってんの? レーナの帰る場所は、おれたちの プペ村だ」
今度はアルルクが、レーナの空いた片手をグッと引く。
(いや待って!? どーゆー状況、これ!?)
両手に花ならぬ、両手に花も恥じらう乙女ゲームの攻略対象とは、平凡村娘に何が起こったと首をかしげるレーナだ。ゲーム開始までまだ間があるにしても、断じてモブが立って良いポジションではない。こんな状況は、平穏なリュザス探しの旅出立への障害にしかならないだろう。誤りは正さなければ――と焦りながら口を開く。
「ちょっ……! あなたたち、何か間違って――」
『渡さない』
レーナの言葉を遮って、女の声が響いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
追放された付与術士、別の職業に就く
志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」
……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。
けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。
とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。
たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。
作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
家族のかたち
yoyo
大衆娯楽
16年前に失踪した妻の子ども勇を児童養護施設から引き取り、異父兄弟の兄の幸司、勇と血縁関係のない幸司の父親である広、そして勇の3人での暮らしが始まる。
この作品には、おねしょやおもらしの描写が度々出てきます。閲覧の際には十分ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる