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第1章 精霊姫 編
第44話 【攻略対象 辺境伯令息】おれはペットじゃねー!
しおりを挟むちびドラゴンの眼前に迫った根の先が、殺傷の意図も明確に、螺旋を描いて鋭く変化する。
「アルルク!!」
レーナは叫びながら、幼馴染の少年に差し迫った危機を退けようと手を伸ばす。
(距離がありすぎて間に合わないっ)
絶望的な思いに囚われかけたその時、空中に留まり、襲いかかる根を見据えたちびドラゴンが大きく喉と頬を膨らませる。
ボォォオォォ
大きく開けられた彼の口腔から、地を這う鈍く低い音が響いて、青白い焔が噴き出した。その凄まじい炎のひと吐きで、残っていた木の根は全て地面に炭化して崩れ落ちる。
「えぇぇぇーーーー!?」
アルルクだと思っていたちびドラゴンの、まさかの人外らしすぎる攻撃に、驚愕の声しか出ないレーナだ。もしかしたら、ただのドラゴンだったのか、アルルクが勇者となって新しい技を覚えたのか、そもそも人は炎なんて吐けるのか、いやアルルクは既に人外になってしまったのか―――つらつらと、幾つもの候補が頭を過るけれど答えなど出ない。
けれど、彼が何であれ気掛かりなことはあった。
「火なんて吐いて、大丈夫なのっ!? 火傷しちゃうっ!」
レーナは急いでちびドラゴンに両腕を伸ばし、ぐっと引き寄せる。炎はまだ口から轟々と出ている最中だ。
ぎょっとして身体を強張らせたちびドラゴンは、レーナに抱え込まれる直前、目一杯力んで身体に溜めた焔を吐き切った。それから大丈夫だと伝える代わりに、彼女に向かって「みゃうっ!」と元気にひと鳴きしてみせる。
「どこもおかしなところはないのね!? 本当ね!?」
ちびドラゴンの意思は通じた様だが、今度は安心したレーナが「よかったーー」とため息交じりに呟きながら、彼の小さな身体を両腕でしっかり抱え込む。その際、腕の中の生き物が小さく跳ねる感触があったが、さらに力を入れてむぎゅぎゅっと抱き締めた。
「ぅみぎゃぉぉっ!? ぎゃぉっ! みぎゃぅっ!!」
またしても、必死で抗議の声を上げ、じたばたと藻掻いて拘束から逃れようとするちびドラゴンだ。背中に生えた蝙蝠のような形の羽根で、擦り寄せられたレーナの頬をパシパシと叩く。
あまりの嫌がりように、レーナが不満げに拘束を緩めれば、すぐさま身体一つ分の距離を取ったちびドラゴンの全身からシュウシュウと音を立てて蒸気が噴出してきた。
次の瞬間、目の前が真っ白になるほどの蒸気が一気に「ぼふんっ」と噴出する。濛々とした煙の中から現れたのは、レーナの想像通り赤髪のアルルクだ。
1年以上離れて過ごしたアルルクは、最後に見たときはまだレーナよりも小柄だった。なのに今では身長を追い越され、元々恵まれていた体格に更に筋肉が付いて、以前より明らかにガッシリとしている。やんちゃ坊主から、ひと段階、男らしくなった印象だ。頭以外の全身を覆う、赤い鎧姿になっているのも逞しい印象に一役買っているかもしれない。
(やっぱりアルルクだった! っていうか、凄く成長したよね!? 嫌だぁ、目線が完全にわたしより高いし)
ゲンナリしたレーナとは対照的に、人に戻ったアルルクは、頬を染めつつも、憤慨した表情で彼女に詰め寄る。
「おれはっ…… 愛玩動物じゃねーーーーっ!!! むきゅむきゅも、 すりすりも すんなーーー!」
叫ぶアルルクは、ドラゴン形態の彼に対するレーナの猫可愛がりが殊更耐え難かったらしい。
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