上 下
12 / 107
第1章 精霊姫 編

第12話 【攻略対象 辺境伯令息】人外の血を引いた辺境伯は侮れない!

しおりを挟む

 レーナは、かたくなに頭を下げることを拒む父に悪戦苦闘しながら、ふと視線を感じてその主の方へ視線を向ける。すると既視感のある、エメラルドの双眸に行き当たった。

(そうだった! なんでこんな分かりやすい姿なのに気付かなかったんだろう!)

 ふいに、彼女の脳裏に羽角はずみ 玲緒奈れおなだった時にプレイしたゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』の設定が閃いた。

 ドリアーデ辺境伯の家系には、他に類を見ない特徴がある。彼らの一族には光を受けると黄金に輝く緑の髪と、エメラルド色の瞳が代々引き継がれているのだ。これは、初代ドリアーデ辺境伯となった男が、後に彼が治めたシュルベルツ領の樹海に住む精霊姫ドライアドと結ばれて生まれた家系だから現れる特徴だとされる。

 ただ、貴族社会の中でも辺境伯家と精霊姫との繋がりを知るのはほんの一握り。王国中枢に近い人間だけに伝えられる事実だ。一般的には「精霊に愛でられる美貌の一族」とだけ伝わっている。

(うん、確かにこの辺境伯はとんでもない美形ではあるけど、攻略対象ではなかったわ。それに他の攻略者のアルルクが、まだあんな鼻たれ小僧なんだもの。ゲームの舞台はまだ5年以上は先だわ。だとしたら攻略対象は、お父さん世代のこの人じゃなくって、子供とか、養子になる親戚筋の子とか?)

 ついついじっと見過ぎてしまったらしい。エメラルドの瞳が細められ、ふふんと鼻を鳴らしたドリアーデ辺境伯がニヤリと笑う。

「なんだ、娘? わらべのくせに我に見惚れるとは見所のあるやつよな」

「「あ゛ぁ!?」」

 揃った声は、レーナと父のものだ。

「ちょっとくらいつらが良くたってなぁ、俺の可愛さが尊すぎるレーナの足元にも及ばねぇんだよ! レーナに、邪な目を向ける無分別な奴が世迷言よまいごとぬかしてんじゃねー!!」

「どんなに顔が綺麗でも、人攫いや幼女趣味のおじさんに興味はないわ!」

 おおよそ権力者に向けると思えない言葉を吐く父娘に、警邏隊長の顔色が、青を通り越して白くなる。対面に座った兵士が、ガタリと音を立てて立ち上がろうとするのを、そっと掌を向けるジェスチャーで制したのはドリアーデ辺境伯だ。

「ふふ。村娘が我の庇護下に入るのは、過分な誉だと思うが。違うのかい?」

 微かに口元を綻ばせた余裕の表情で、エメラルドの瞳がひたりとレーナを捕える。口調と表情は柔らかいが、見詰められたレーナが猛禽に狙われているようなうすら寒さを感じるのは、彼の緑の瞳に宿るのが酷薄な光だからか。父が更に何かを言いかけたが、口を警邏隊長の両手で強制的に塞がれてムームーと唸っている。

(ただのモブ娘に、なんで興味を持ってるんだろう!? もしかして、綺麗なだけに平凡嗜虐趣味があったりする!? やだやだ、コワイコワイっ!)

 表面上はとても綺麗な笑顔を向けてくる、人外ドライアドの血を引いた辺境伯に、レーナは怖さしか感じない。その笑みが、彼女に向けて更に圧を強めた。

「さっき……うちの兵士と一緒に吹き飛んだときの怪我は、もういいのかい?」

 意味深に、ことさらゆっくりと紡がれた言葉にレーナは音を立てて血の気が引く心地がする。

(ばれてる!?)

 ギクリと身体を強張らせて、ドリアーデ辺境伯を勢い込んで仰ぎ見れば、猫が獲物をいたぶるような愉悦の表情に行き当たる。

 レーナは確かに怪我をしていた。と言っても裂傷や骨折のような重大なものではない。兵士の巨体に引っ張られて地面に打ち付けられたことによる、擦り傷と打撲程度のものだ。目立たないものだったから、修繕リペア能力でこそっと治していたのだ。自分自身の怪我で、程度の軽いものなら合成材料無しでも治せるのは、こっそり繰り返した実験で確認済みだった。重傷の修繕はさすがに試してはいない。

「見事な腕前であったなぁ。それ以外にも痕跡が見てとれるが、そちらも上手く――」

「わぁぁぁぁーーーーーっ!」

 不意に大声を出したレーナに、応接区画に集まる4人の視線が集まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55
ファンタジー
【完結】同棲中の彼の浮気現場を見てしまい、気が動転してアパートの階段から落ちた、こはる。目が覚めると、昔プレイした乙女ゲームの中で、しかも、王太子の婚約者、悪役令嬢のエリザベートになっていた。誰かに毒を盛られて一度心臓が止まった状態から生き返ったエリザベート。このままでは断罪され、破滅してしまう運命だ。『悪役にされて復讐する事も出来ずに死ぬのは悔しかったでしょう。わたしがあなたの無念を晴らすわ。絶対に幸せになってやる!』自分を裏切る事のない獣人の奴隷を買い、言いたい事は言い、王太子との婚約破棄を求め……破滅を回避する為の日々が始まる。  誤字脱字、気をつけているのですが、何度見直しても見落としがちです、申し訳ございません。12月11日から全体の見直し作業に入ります。大きな変更がある場合は近況ボードでお知らせします。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

家族のかたち

yoyo
大衆娯楽
16年前に失踪した妻の子ども勇を児童養護施設から引き取り、異父兄弟の兄の幸司、勇と血縁関係のない幸司の父親である広、そして勇の3人での暮らしが始まる。 この作品には、おねしょやおもらしの描写が度々出てきます。閲覧の際には十分ご注意下さい。

処理中です...