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イズールの小さな部屋、ふたたび
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「サリラ様、ごきげんよう。今日も良い天気ですね。昨日はボッケをありがとうございました。それではアーエ様におつなぎいたしますわ」
イズールはちょっと低めの声でゆっくりと分かりやすく話すと、素早く魔石をつなげた。
結局ボルフは昨夜サリラ邸からそのまま旅立ってしまったようだ。
イズールは無駄になってしまった夕食にちょっと怒り、アドルにやつあたりをしてしまった。
ボルフにふられてしまったアドルは、理不尽なやつあたりをされたにもかかわらず、機嫌よくボルフの分まで食べ切ってしまった。
外で食事をしていた時には気づかなかったが、すごく食費のかかりそうな男のような気がする。
良く働く竜使いの騎士は良く食べるのであろうか。
考え込んでいるとまた魔石が輝いた。
心を弾ませる紺色の魔石だ。
「アドル様、ごきげんよう。今日もいい天気ですね。お話うかがいます」
「昨日、ボルフさんもレイアさんもいなかったし、君が怒ってしまって言い損ねたことがあるんだけれど」
私用とは珍しい。
「僕の家で暮らさないかい?」
「……結婚してからね」
焦れたようにアドルが言う。
「じゃあ、結婚しようよ」
「……私たち、まだそんなに長いお付き合いではないし……」
「君の声でおかえりやただいまを言ってもらいたいんだ」
小さな部屋の紺色の魔石をうっとりと見つめながらイズールは答えた。
「……嬉しいわ。ありがとう」
「じゃあ、夏までに式を」
と弾む声に慌てる。
「また公演があるのよ。小鳥の魔術具も新しく出さなきゃいけないし、そんなに早く準備できないわ」
「知っているよ」
アドルが穏やかな声で言う。
「式は伸ばしていいから、忙しいならなおさら俺の家で一緒に暮らした方がいいでしょう?明日引っ越しをしよう」
「明日?!」
「騎士団の連中に、助けてもらうことになっているから」
アドルの声はあくまで穏やかだ。
「その前に今日の昼、食堂で待ち合わせてマリベルに婚姻の申請を受け取ってもらおう。」
「急だわ……」
イズールは呆然とする。
「大丈夫、すぐに慣れるよ」
機嫌よく言って、紺色の魔石が消えた。
今日も定時に上がれるが、サリラの家で地獄の特訓があるのだ。
公演のチケットはもうすでに売り切れてしまったらしい。
小鳥は今この瞬間も売れ続けているだろう。
しかし金のかかる女はいるし、井戸だって掘らなければならない。
「忙しい……!」
と言いながら、イズールはまた光り出した魔石に手を伸ばした。
【了】
イズールはちょっと低めの声でゆっくりと分かりやすく話すと、素早く魔石をつなげた。
結局ボルフは昨夜サリラ邸からそのまま旅立ってしまったようだ。
イズールは無駄になってしまった夕食にちょっと怒り、アドルにやつあたりをしてしまった。
ボルフにふられてしまったアドルは、理不尽なやつあたりをされたにもかかわらず、機嫌よくボルフの分まで食べ切ってしまった。
外で食事をしていた時には気づかなかったが、すごく食費のかかりそうな男のような気がする。
良く働く竜使いの騎士は良く食べるのであろうか。
考え込んでいるとまた魔石が輝いた。
心を弾ませる紺色の魔石だ。
「アドル様、ごきげんよう。今日もいい天気ですね。お話うかがいます」
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私用とは珍しい。
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「……私たち、まだそんなに長いお付き合いではないし……」
「君の声でおかえりやただいまを言ってもらいたいんだ」
小さな部屋の紺色の魔石をうっとりと見つめながらイズールは答えた。
「……嬉しいわ。ありがとう」
「じゃあ、夏までに式を」
と弾む声に慌てる。
「また公演があるのよ。小鳥の魔術具も新しく出さなきゃいけないし、そんなに早く準備できないわ」
「知っているよ」
アドルが穏やかな声で言う。
「式は伸ばしていいから、忙しいならなおさら俺の家で一緒に暮らした方がいいでしょう?明日引っ越しをしよう」
「明日?!」
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「急だわ……」
イズールは呆然とする。
「大丈夫、すぐに慣れるよ」
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公演のチケットはもうすでに売り切れてしまったらしい。
小鳥は今この瞬間も売れ続けているだろう。
しかし金のかかる女はいるし、井戸だって掘らなければならない。
「忙しい……!」
と言いながら、イズールはまた光り出した魔石に手を伸ばした。
【了】
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