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……アレ?

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「これ以上は、いただけません……!」

イズールは困り果てていた。
一枚板のテーブルの上には冬用の街着一式が並んでいる。

「でも、もうあなたの身体に合わせて仕立て直してしまったのよ……ああ、捨ててしまうしかないかしら」

困ったわねぇ、と全然困っていない顔でサリラが言う。
色も柄も上質な生地もデザインも「着ていいのよ」とイズールを誘っている。
イズールの好みを知り尽くしたサリラのお見立てで、申し分ないものだ。
アドルと行った公演の日、紺のストールを買った店で対応してくれた番頭とは親しかったらしく、アドルが喜んでくれそうな街着も用意されている。

「公演では2曲歌ってくれればいいわ。魔術具はその曲で2個作ればいいし」

お茶を飲みながらサリラは服を見つめるイズールを眺めている。

「歩合が不満かしら?」
「お金の問題ではないのです。いえ、お金の問題なんですけれど」

訳が分からない、という顔のサリラに申し訳なさそうに告げる。

「……あの、一生分の生活費が貯まりまして」

結構長生きするとして、今すぐ王宮勤めを辞めても一生暮らしていけるくらいのお金が貸金庫にはある。
大きな病気、怪我をしても大丈夫なくらいに。

「引退、させて頂きたくて……」

ふーむ、とサリラが少し考える顔をした。

「あなた、今、孤児院を援助しているでしょう?」

ふいに飛んだ話だが、素直にイズールはうなずいた。
サリラが賢そうな目を瞬かせて話を続ける。

「王都は貧富の差が特に激しいけれど、地方も場所によっては似たようなものよ。もっとひどいところもある。土地がやせて、経済力がないの」

国中を何度も回り、他国と取引しているサリラの話には説得力があった。

「大変ですね」

サリラはにっこりと微笑んで言った。

「あなたがこれからの稼ぎで援助してあげればいいじゃないの」
「私に、そんな力は……」
「あるじゃないの。あなたの歌はお金になるのよぅ。別に全ての場所に今回のようにしなさいっていう訳じゃないわ。井戸を掘るだけでも感謝されるでしょう。水がなくて死ぬ人はたくさんいるから」
「私に、そんな力は……」
「別に全てを投げうって尽くせという訳じゃないのよ?ただ、そうすればうちの孫のような赤子が死ぬ数が減るかしらって」

イズールは、結局公演も魔術具も引き受けてしまったのである。
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