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VS.ドロゴロス

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頭が痛み、身体が重い。
女の媚びるような甘い声にイズールは目を覚ました。

(ここ、どこ?今、どれくらい……?)

自分が硬い床に転がされているのに気づく。
片手に酒、両脇に裸の娘をはべらせて、ドロゴロスが下品な紫の瞳で自分を見下ろしていた。
自分の左右には剣を持った人相の悪い男たちがいる。
怯えていないと言えば噓である。
しかしこんな男に震える顔など見せたくないではないか。

「……恐怖で声も出ないか」

満足そうにだらしなく肥えた男、ドロゴロスは言う。
てらてらと脂ぎった顔が気持ち悪い。

「あの夜は美しく見えたが、こうして見ると地味な女だな。アドルは何が良いのやら。魔力もそんなにあるわけではないし、つまらん」

さすがに最近のイズールは目立つ行動が多すぎた。
ドロゴロスがちょっと調べれば、すぐ自分にたどり着いたであろう。
しかし王宮でさらわれるなんて思わなかった。

「ここは私の家の隠し部屋だ。王宮の近くだが、愛しのアドルにはここが分かるまい」

ニチャッとした口調が気持ち悪い。

「さて、お前たち、ここでかわいがってやるといい。女、もしかしたら叫べば来てくれるかもしれんぞ?」

ドロゴロスはあざ笑うように言ってまた手元の酒を飲む。
裸の女たちが笑い、男たちが剣を構えて近づいてきた。

「指を一本一本切ってやろうか。せいぜい怖がってくれよ」
「お前のその悪趣味は困るよ」
「お前も嫌いじゃないだろう、お館様の前だ。派手にやろうぜ」

(今よ!)

向けられた剣に勢いよく指を押し当てた。
加減が分からなかったが、血がどくどくと流れ出す。
そのまま素早く胸元に刺してあった金色のピンを握りしめた。

「何だ?この女」

男たちは一瞬戸惑ったが、気を取り直してイズールに向き直る。

「ふうん、生意気そうな顔だ」
「こういうのを泣かせてやりたいね」

じりじりと近づいてくる男たちから逃げ出そうとして、自分の身体に力が入らないことに気づいた。
くたり、と、また倒れてしまう。
薬がまだきいているのだろう。
剣はまだ向けられたままだ。
自分で切った指が熱い。

(どうしよう……!)

次の瞬間、キョエエ、ギィイイ、という鳴き声が一斉にあがった。
ドロゴロスの家は王宮の竜舎の近くだったらしい。
一斉に飛び立ったらしい、多くの翼の音が大きくなってくる。
建物に突っ込んだのか、ガラスやレンガの壊れる音が響いた。

「馬鹿な……!」

ドロゴロスがうろたえて、娘たちを突き飛ばす。
建物の壊れる音がだんだん大きく、近くなってきた。

「何故……?!」

ドオン!
と、小さな扉を壊して鮮やかな青い竜と赤い竜が飛び込んできた。
色とりどりの竜がさらに続く。
竜たちはギョエッ、ギョエッと興奮した声を上げる。

「イズール?!」

驚くアドルが青い竜から飛び降りイズールを抱きかかえた。
イズールは血だらけの手に握りしめていたピンを見せる。

「竜が危ないから、早くピンを、拭いて……」
「それどころじゃないよ!」
「いや、それが一番先だな」

落ち着いた声で言ったグノンが、赤い竜から飛び降りてイズールの手の中のピンを清める。
すっと竜たちが鎮まった。

「な、何故……!?」
「隠し部屋が分かったのかって?俺に目くらましはきかないんだ!」

赤い竜の上で得意げに言うリーリシャリム。

「そうじゃない、この女を、一体どうやって……!」

アドルに抱きかかえられながら、イズールはきっぱり言った。

「残念ね、あなたなんかには教えられないのよ!」
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