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「ば、化け物!?」
「うん、なにその顔、気持ち悪い。でも香水はやめたみたいだね」
「え、あ、はい。ドミニク様が臭いとおっしゃるので」
「まぁあれも臭かったけれど、君の体臭の方がずっと臭いから、やめなくても別に良かったんじゃない?」
「そうですか……」

 それだけ言うと、ドミニク様はある女生徒と話し始めてしまった。確か伯爵令嬢のミレイ様だ。彼は最近彼女と仲が良い。彼女は私とは違って、自然体な美しさを持っていらっしゃるお方で、ドミニク様も彼女に対しては私に見せないような優しい笑みを浮かべている。
 それが悔しくて私は顔を逸らした。
 惨敗だったわ……。
 どうやったら彼に褒められるのだろう。認めて欲しいのにその願いは一向に叶わない。
 私はその後も浮かない気分のまま授業を受けた。





 全ての授業を終えると私は足早に教室を出た。
 ……早くまた次の作戦を立てないと。
 今度こそ、綺麗だって思われたい。
 そう思って下駄箱へと続く階段を進むと、突如、背中を誰かに押される。

「きゃっ」

 そして抵抗も虚しく階段から転げ落ちる間に、私は前世の記憶というものを思い出した。
 しかし意識はそこで途切れる。
 次に目が覚めたのは自室のベッドだった。

「クレア様!」
「お目覚めですか?」
「心配しました!」
「ご無事で何よりです!」

 目の前に並ぶ侍女たちの顔。それはいつものように私を心配しているようだけれど、今の私にはそうは思えなかった。

 どうしてこの人たちは、私をわざわざ不細工に仕立て上げていたのかしら……。

 前世の記憶、化粧品会社で働いていた記憶を取り戻した今の私は、自分の格好が酷いことにすぐに気づいた。
 きつい香水に、似合わない縦巻きロール、厚化粧なんて、可愛くなれるわけないじゃない。
 どうしてわざわざ嘘をついてまで私に……。そりゃあ、ドミニク様も好きにはなれないわよ。こんな婚約者をあてがわれてむしろ被害者じゃない。
 まぁ、でももう彼への恋心もないけれど。
 記憶を取り戻したことによって、私はドミニク様への愛情を完全に失ってしまった。彼も私を押し付けられてなかなか可哀想だとは思うけれど、自分を好きになってくれるどころか暴言を吐いてくる人を追いかけるほど私も馬鹿ではない。何故今までそれほどドミニクに執着していた、クレアよ。

「ク、クレア様、どうされましたか?」
「ドミニク様にまあ酷いことを言われたんですか?」
「でしたら、また私たちと考えましょう!次は髪型をもっと派手にしてみるとか……」
「もう良いわ」

 私はベッドから起き上がった。階段から突き落とされた体がキシキシと痛む。
 でも気にせず立ち上がって私は鏡の前に腰掛けた。
 慌てて寄ってくる侍女たちに向けて、鏡越しに私は微笑む。

「さぁ、始めましょう」
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