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※王太子の限界
しおりを挟むクロエが婚約者になって一ヶ月。
僕はもう既に限界を迎えていた。
泣きついてくるクロエのせいで仕事は手に付かないし、ストレスは溜まる。何度言っても聞かないクロエに、僕はイライラが爆発する寸前だった。
「父上、お話があります」
そしてついに僕はこのことを父上に話すことにした。父上が決めた婚約に物申すなんて無礼だが、それだけ限界を迎えていたのだ。
父上はいつもの通り険しい顔で僕を見る。
「なんだ」
「ク、クロエとの婚約を破棄してください!」
恐ろしさからぎゅっと目を瞑ってそう言った。何秒後かにそっと片目を開けて父上を見てみれば、表情はいつも通りでまるで動揺していない。そしてゆっくりと口を開いた。
「……理由を聞かせろ」
「はい。理由は率直で、クロエは王太子妃にはなれないと思ったからです。努力はまるでしようとしない。その上僕の仕事の邪魔ばかりする。何度注意しても全く聞く耳を持ちません。彼女が立派な王妃になることはあり得ないと思いました」
「そうか……。では次に、お前は何故儂がクロエ嬢をお前の婚約者にしたかわかるか?」
「やはり……」
「レベッカとの婚約破棄のきっかけを作った張本人だから」もしくは「レベッカよりクロエを優先したから」と答えようとしたところで僕はあることに気づいた。
父上はこうなることが分かって、敢えてクロエを婚約者にした……?
それは僕にあることを教えたかったから。そしてそれが今ならもう分かる。
「僕の人助けが自己満足でしか無かったことを教えるためかと。僕は結局、人を救う自分自身に酔っていたんです。クロエの本質も見抜けないのに、レベッカに注意したりして。僕は人助けの意味を履き違えていたんです」
「そうだ。それに気づいて欲しいが為にわざわざこんなことをした。しかしお前はいくら口で行っても聞かなかったからな。これで分かっただろ」
「はい」
レベッカの言っていたことがようやく分かった気がする。そして今までの自分がいかに愚かだったかも。
父上は真剣に話を続ける。
「弱い者を助けることは人としての義務だ。それはおそらく間違っていないだろう。しかし弱さに漬け込んでくる者に肩入れするのは愚かなことだ」
「はい……」
「お前は結果としてレベッカ嬢を失った。それがいかに大きいことか、今のお前なら分かるだろう?」
「……はい」
それはクロエとの差を見ても歴然だ。今までのレベッカの凄さを思い知った。
「これに懲りたなら今度は王太子として、国民に指し示せるような行動を取るようにしろ」
僕は父上の言葉に力強く頷いた。
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