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王妃様

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 私は外へ連れ出されました。門の近くには馬車が一台停まっています。
 これから馬車で下町まで行き、そこで初めて拘束を解かれて平民になるのです。
 楽しみと不安とが入り混じった感情が私を襲います。
 これからどうなるのでしょう。
 全く先が見えない未来。生活がまるっきり変わることなんて容易に想像できます。
 緊張しながら馬車に乗り込もうとしました。

「待ちなさい!」

 私が馬車に乗り込む直前、王妃様が声を上げました。走って来たのか、少し髪が乱れています。
 王妃様は怒っていらっしゃるのでしょうか。いえ、そうに決まっています。今まで散々支えてもらっていたのに、その期待から逃げるような行動をとってしまいましたから。
 私は王妃様に頭を下げました。

「ごめんなさい、婚約解消なんかして。今まで散々王妃様に支えて頂いたのに、私は何も恩返し出来ませんでした」

 私の言葉に王妃様は顔を歪めます。

「……それはこちらの台詞よ。貴方が冤罪なことくらい分かっているもの。だって誰よりも近くで、貴方のことを見ていたのよ?貴方が誰よりも努力していることを私は知っていたもの」
「王、妃様……」
「でも否定しない限り、これは貴方が望んだことなのね」

 王妃様の言葉に私は大きく頷きます。何の疑いもなく私の冤罪を主張した王妃様に、私は鼻の奥がツーンとするのを感じました。

「はい」
「……辛い思いをさせたわね」

 何故、王妃様がそのようなことを……。謝る必要なんかないのに。

「いえ、これは私の我儘です。私は自分が幸せになりたくて、こんなことをしたんです」
「そう、なの」

 私がそう言うと王妃様は少し嬉しそうに微笑まれました。

「……初めて聞いたわ、貴方の我儘」
「え?」
「貴方ってば、愚痴もこぼさないし、周りからの辛辣な言葉にも言い返さないし、これでも心配していたのよ?……でも貴方が望んだことならば、背中を押すしかないわね」
「王、妃様……」
「やだ、貴方ってばいつになく泣きそうな顔をして。そんな顔をされたら離れがたくなるわ」
「すみません」

 いつのまにか流れ出た涙を見て、王妃様も泣きそうな顔をされました。
 伝えたいことがたくさんあるのに、言葉がうまく出てきません。

「すみません王妃様、そろそろ……」
「ごめんなさい、もう済ませるわ」

 痺れを切らした衛兵が王妃様に声を掛けます。衛兵の視線の先を見ると国王様や殿下、そして私の家族たちが。
 さっさと追い払えとでも指示されたのでしょう。
 王妃様もそのことに気づきます。そして私に向き直って口早に話し出しました。

「いい、ステラ。よく聞くのよ。これは私からの最後の課題だから」

 私は王妃様の言葉にコクリと頷きます。王妃様は私の反応に嬉しそうに微笑むと笑顔を浮かべました。そして私のことをぎゅっと抱き締めるとこう告げました。

「絶対に幸せになりなさい」
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