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居場所

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 シドさんに掴まれた手首を見て元お父様はギリギリと歯を鳴らします。そして力尽くでシドさんの手を振り払いました。

「平民ごときが、この私に許可もなく触れるなど……っ!」
「汚らわしいわ、早くその手を離しなさい!」

 この人達は何も分かってない。平民が、彼らが、どんなに優しくて、どんなに温かいか。
 なんて自分勝手で傲慢なのでしょう。一回でも彼らに愛を求めた私が馬鹿みたいです。
 私は恩人であるシドさんに対する元両親の態度に、ふつふつと怒りが込み上げてきました。しかし私が言葉を発するより前、シドさんが口を開きます。

「もうお帰りください」
「だ、か、ら!帰るわけないでしょ!何故私が平民のいうことに従わないといけないのよ」
「全く、ここは邪魔者が多すぎる。どこか他の場所に移動するしかないか」
「ええ、そうしましょう。いらっしゃい、ステラ」

 私の手首を掴もうとする元両親を、シドさんは最も簡単に抑えます。

「もう一度言います。お帰り願います」
「……っ!」
「お前たち覚えておけよ!今は余裕がないが、お前ら平民ごとき、我が公爵家の力を持ってすればいとも簡単に潰せるんだからな」
「後で覚えておきなさい!」

 とうとう元両親はこれ以上は無駄だと思ったのか、そう吐き捨ててそそくさとその場を去って行きました。


「……良かったです」
「ああ」

 やっと出て行ってくれたと私はホッと胸を撫で下ろします。
 しかし私が皆さんにご迷惑をかけたことには違いありません。
 これ以上迷惑をかけない為にも、私はここを出ていくべきでしょうか……。
 でも、私が去ったところで彼らはこの店に酷いことをするかもしれません。
 どうするべきか私には分かりません。今は深々と頭を下げることくらいしか出来ません。

「皆さま、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」

 ……私のせいでこの店の悪評が広がるかもしれない。本当に情けないです。
 ゆっくりと顔を上げると、シドさんが私の肩にそっと大きな手を置きました。

「気にするな。何か事情があることを分かっていて引き取ったんだ」
「シドさん……」

 シドさんの温かい言葉。やっぱりシドさんは、私に手を差し伸べてくれたあの時と何も変わりません。

「そうだそうだ!やっぱこの店にはステラちゃんがいなくちゃな」
「迷惑だなんて思うわけないよ」
「むしろいなくなられた方が寂しくて困る!」

 常連さんもそう言って私に笑いかけてくれました。私は嬉しさで胸がいっぱいになります。
 やっぱり私がした選択は正しかったのでしょう。
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