5 / 11
※妹の怒り2
しおりを挟むお姉様を理不尽な理由で追い出した両親たち。私は彼らの話には耳を貸さずに馬車に乗り込むと、御者に早口で尋ねた。
「お姉様の居場所を知りませんか!?」
「サーシャ様っ!?」
御者は私の反応にビクッと体を震わせた。
無理もないだろう。今までの私はいつもお姉様に守られていて、優しくて穏やかなサーシャを保てていたから。しかしいつもおっとりとしていられたのは、お姉様がいたからに過ぎない。
「お姉様はどこです!?」
「わ、分かりませんっ、シルヴィア様を乗せた馬車はまだ帰ってきてないのです」
「行き先は?」
「ここから一番近い森だと思います!ですが、そうだとしても一番速い馬車でさえ片道五時間かかってしまいますよ」
どうしてそんな酷いところに……!
「分かりました。では今すぐその森へ向かってください。早く!」
「はっ、はひっ!!」
私の大声に御者は反動的に馬車を走らせ出した。
私は馬車の中で一人、お姉様のことについて考えを巡らせる。
……もし私が助け出したところで、伯爵家に二人で戻るのは危険すぎる。だからといって二人で逃亡しても捜索されるかもしれない。どうするのが最適なのでしょう。
「うーん、どこかお姉様を保護出来るところがあれば……う~ん。あっ!」
その時パアッと閃いた。というよりあることを思い出した。
「そうです、騎士団長のバーナード様がいました!」
バーナード様はこの国の英雄と謳われる騎士団長だ。
無敗王の異名をもつほど武力も頭脳も優れたお方で、口を開くことは滅多にない。
しかし彼はこちらが驚くほどお姉様に恋焦がれている。
……鈍感なお姉様はお気付きにならなかったけれど、彼はいつもお姉さまを目で追っていましたもの。
そしてお姉様の言葉にだけ返事をする。
はっきりと目で見て分かる対応の差がそこにはあった。そしてそれが意味していることはすぐに分かる。
……うん。きっとバーナード様ならお姉様を迷わず助けに行ってくださるでしょうし、その後も保護してくださる。
「ええ、決めました」
私は一人で納得して呟くと大声で御者に話しかける。
「すみません!行き先を変えたいのですが」
「えぇっ!?」
馬車はキキーッとブレーキがかかり、急に止まったことによって体のバランスが崩れる。それでも私は声を張り上げて言った。
「目的地変更です!まずは騎士団長バーナード様のお屋敷に向かって下さい」
「ええ!?でも突然の訪問はやめといた方が……」
「緊急事態なので仕方ありません。後で謝罪はしっかりとします。ですから今はとにかく急いでっ!」
再び馬車は凄いスピードで走り出した。私は馬車の中で、どうにかなって下さいと祈りを捧げるばかりだった。
94
お気に入りに追加
3,294
あなたにおすすめの小説
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
逃げて、追われて、捕まって (元悪役令嬢編)
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で貴族令嬢として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
*****ご報告****
「逃げて、追われて、捕まって」連載版については、2020年 1月28日 レジーナブックス 様より書籍化しております。
****************
サクサクと読める、5000字程度の短編を書いてみました!
なろうでも同じ話を投稿しております。
気付いたら最悪の方向に転がり落ちていた。
下菊みこと
恋愛
失敗したお話。ヤンデレ。
私の好きな人には好きな人がいる。それでもよかったけれど、結婚すると聞いてこれで全部終わりだと思っていた。けれど相変わらず彼は私を呼び出す。そして、結婚式について相談してくる。一体どうして?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる