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追い出された先
しおりを挟む身一つで森に捨てられた私。どうせ今帰ったところで、またサーシャのいない間に捨てられることは安易に想像ついたので、取り敢えず平民になることにした。料理や掃除などそれなりにスキルはあるし、体力もあるのでどうにかはなると思う。でも……。
やっぱりサーシャが心配だわ。
戻りたいけど、戻れない。見つかったらそれこそ次は何されるかわからないし。
でもサーシャはあの環境で生きていけるのだろうか。辛い思いをしていないだろうか。もうすでにサーシャが恋しくなっている。
はぁ、本当にどうしましょう。
私は木の幹に寄りかかってうずくまった。日が暮れてくるタイミングで冷たい風が頬を打つ。でも寒さなんてどうでも良かった。それより私はサーシャのことで頭がいっぱいだ。
「シルヴィア様!」
ふと、誰かが私の名を呼んだ気がして顔を上げる。
馬が森を駆ける音がして思わず身構えた。両親あたりの誰かに頼まれた刺客が、私を殺しにきたのだと思ったのだ。
でもそれにしては、殺意など微塵も感じない。むしろ熱っぽい声音で……。
「ここにいましたか、シルヴィア様!」
「ひっ!」
「大丈夫です、落ち着いてください」
慌てて木の影に隠れた私に向かって、男性は手を差し伸べる。
現れたのは、この国の英雄と称えられる騎士団長様だった。
「騎士団長様がどうしてこんなところに?もしかして遠征から戻って来られたからですか?」
とりあえず、殺されることはなさそうだ。
ホッと胸を撫で下ろし彼にそう尋ねると、彼は何故か顔を赤くする。
「……お迎えに上がったのです。貴方がご実家から無理矢理追い出されたと、サーシャ様からご連絡があったので」
「サーシャが私のことを心配して連絡を……。ですが、それでどうして騎士団長様自ら私を探してくださったんですか?嬉しいですけれど、誰か他に頼めば」
「それは絶対になりません!」
突然騎士団長様が声を上げたので、私は反動で体をビクッと震わせた。何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか。そう思って騎士団長様をみれば、彼自身も驚いたような顔をしていてこちらを見ていた。
「あ、すみません……突然大声を出してしまって」
彼の方が辛そうな顔をするので、私は慌てて首を振る。
「いえ、こちらこそ何か気に障ることでも……」
「いえ、シルヴィア様は一ミリたりとも悪くありません!全て僕の……」
それっきり、騎士団長様は口を閉じてしまった。
「あの、」
「あの……」
大丈夫ですか、と言おうとしたところで彼と第一声が被ってしまった。
「すみません、シルヴィア様からお先に」
「いえ、私は大したことではないので。騎士団長様がお先にどうぞ」
私がそう言うと彼は恥ずかしげに下を向く。言いづらいことなのだろうかと思っていると、やがて彼は口を開いた。
「……シルヴィア様、良ければ私の屋敷に来ませんか?」
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