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七話
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あの子……ルイスは今日も日当たりのない暗い部屋に閉じ込められている。
公爵家初の男として生まれた弟のルイスは、公爵家の嫡男として厳しく育てられた。その期待はあまりにも大きく、それ故に歪んだ方向へと両親の思いは変わっていった。
ルイスは生まれつき体が弱く、勉強や作法などハードなスケジュールをこなせるような体をしていなかった。しかしそれを知っている上で両親はルイスを出来損ないと呼び、彼らの思い通りにならないことがあるたびにルイスに鞭や杖をふるうようになった。
これ以上やるとルイスが死んでしまう、いつかルイスが大きくなれば公になるからやめろ。私が何度そう訴えても、これはただの躾だ、ルイスが公爵家を継ぐのは私が死ぬ時だから問題ない、などの一点張り。
しかし虐待の自覚はあるのだろう。何かのパーティーに出席することとなっても、ルイスは病弱だからと嘘を吐き、その存在を公にすることを良しとしなかった。
これは躾だ……両親の言い訳はいつもそうだった。
しかし悲劇はこれだけでは終わらない。
ルイスに対し、陰で姉も暴力を振るうようになったのだ。
そして逃げられないようにと、ルイスを一目につかない部屋に閉じ込めるようになった。両親にも上手いこと言って、ルイスを独り占めした。
姉は容赦ない。公爵家の屋敷のなかですら猫を被る。王家に嫁いでからは姉の代わりに両親がルイスを監禁するようになった。もし反発する使用人がいれば、即座に彼らをクビにし、情報が回らないように徹底的に痛めつけるという始末。
結果として公爵家には、姉や両親に媚びる者しか残らなかった。
でも私はどうにかしてルイスを救いたかった。ルイスのトラウマははかり知れない。
力のない私はルイスが両親に手を挙げられ始めた時、彼らが去った後に使用人と共に手当てをするだけだった。
「ごめんね、ごめんね」
「姉さん……助けて」
ルイスが私に伸ばした手は折れそうなほど細くて、私はルイスに抱きつきただ泣きじゃくるだけだった。
でもそんなある日、私は「力」を見つけた。
いつものようにルイスを手当てしている時「救いたい!」という思いが心の中で何かを生み出していることに気づいたのだ。
正体もわからないのに、ただがむしゃらにその力に向かって「ルイスを助けて!」と願った。すると私の手から光の粒が溢れて、それがルイスの体を包みこみ、光が止む時にはルイスの身体中の傷跡が消えていた。
「姉さん……これ」
「ルイス、良かったルイス!」
この時、私とルイスの他に人がいなかったこと幸いだった。この力の存在を知られずに、私はルイスを癒す日々を送った。
この力をもっと上手く使えるようになれば……と、人目につかないところでひたすら練習も重ねた。途中で、書物からこれが「聖女の力」であることも学んだ。魔法なんてものはこの世界には存在しないから、聖女なんてバレた暁にはその力を利用されるに決まっていると、私は聖女であることをひた隠しにした。
やがて私の力によって、ルイスが暴力を振るわれても痛みも感じず、見せかけの傷しか残らないようにすることに成功した。
私の「力」は、ルイスが監禁されて会えない時でも、扉越しにルイスの元まで光の粒を届けることで役に立っていた。
でもあの子の心の傷だけは、どうしても直せなかった。
でもそんな現状にももうさようならだ。
絶対にこの屋敷からルイスを連れ出して幸せにする。これは私の我儘だけれど、絶対に譲れない信念なのだ。
私はルイスのいる屋敷の一番端の部屋まで全速力で走った。
公爵家初の男として生まれた弟のルイスは、公爵家の嫡男として厳しく育てられた。その期待はあまりにも大きく、それ故に歪んだ方向へと両親の思いは変わっていった。
ルイスは生まれつき体が弱く、勉強や作法などハードなスケジュールをこなせるような体をしていなかった。しかしそれを知っている上で両親はルイスを出来損ないと呼び、彼らの思い通りにならないことがあるたびにルイスに鞭や杖をふるうようになった。
これ以上やるとルイスが死んでしまう、いつかルイスが大きくなれば公になるからやめろ。私が何度そう訴えても、これはただの躾だ、ルイスが公爵家を継ぐのは私が死ぬ時だから問題ない、などの一点張り。
しかし虐待の自覚はあるのだろう。何かのパーティーに出席することとなっても、ルイスは病弱だからと嘘を吐き、その存在を公にすることを良しとしなかった。
これは躾だ……両親の言い訳はいつもそうだった。
しかし悲劇はこれだけでは終わらない。
ルイスに対し、陰で姉も暴力を振るうようになったのだ。
そして逃げられないようにと、ルイスを一目につかない部屋に閉じ込めるようになった。両親にも上手いこと言って、ルイスを独り占めした。
姉は容赦ない。公爵家の屋敷のなかですら猫を被る。王家に嫁いでからは姉の代わりに両親がルイスを監禁するようになった。もし反発する使用人がいれば、即座に彼らをクビにし、情報が回らないように徹底的に痛めつけるという始末。
結果として公爵家には、姉や両親に媚びる者しか残らなかった。
でも私はどうにかしてルイスを救いたかった。ルイスのトラウマははかり知れない。
力のない私はルイスが両親に手を挙げられ始めた時、彼らが去った後に使用人と共に手当てをするだけだった。
「ごめんね、ごめんね」
「姉さん……助けて」
ルイスが私に伸ばした手は折れそうなほど細くて、私はルイスに抱きつきただ泣きじゃくるだけだった。
でもそんなある日、私は「力」を見つけた。
いつものようにルイスを手当てしている時「救いたい!」という思いが心の中で何かを生み出していることに気づいたのだ。
正体もわからないのに、ただがむしゃらにその力に向かって「ルイスを助けて!」と願った。すると私の手から光の粒が溢れて、それがルイスの体を包みこみ、光が止む時にはルイスの身体中の傷跡が消えていた。
「姉さん……これ」
「ルイス、良かったルイス!」
この時、私とルイスの他に人がいなかったこと幸いだった。この力の存在を知られずに、私はルイスを癒す日々を送った。
この力をもっと上手く使えるようになれば……と、人目につかないところでひたすら練習も重ねた。途中で、書物からこれが「聖女の力」であることも学んだ。魔法なんてものはこの世界には存在しないから、聖女なんてバレた暁にはその力を利用されるに決まっていると、私は聖女であることをひた隠しにした。
やがて私の力によって、ルイスが暴力を振るわれても痛みも感じず、見せかけの傷しか残らないようにすることに成功した。
私の「力」は、ルイスが監禁されて会えない時でも、扉越しにルイスの元まで光の粒を届けることで役に立っていた。
でもあの子の心の傷だけは、どうしても直せなかった。
でもそんな現状にももうさようならだ。
絶対にこの屋敷からルイスを連れ出して幸せにする。これは私の我儘だけれど、絶対に譲れない信念なのだ。
私はルイスのいる屋敷の一番端の部屋まで全速力で走った。
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