4 / 7
4、公爵令嬢の答え
しおりを挟む
アドルフ様の言葉に会場内はシーンと静まり返る。そして僅かな時間差で拍手が巻き起った。
「素晴らしいわ!」
「なんて情熱的なの」
「小説みたいですね」
「アドルフ様、凄いな」
次々にアドルフ様に対しての賞賛が飛び交う中、私は一人首を傾げる。
……ん?待ってください。皆さん、私とアドルフ様が婚約していること、もしかしてご存知ありませんか?
確かに言われてみれば、こういう最低限必要な行事の時以外でアドルフ様と何かした思い出は全くない。むしろこういう時も距離を取られてきた気がする。
過去を遡る中で、少しずつ彼の本心が見えてくる。
……ああ、そういうことだったのね。
私は一人で納得した。先程なぜレイラ嬢などと他人行儀な呼び方をされたのか、彼の今までの行動を振り返る。
全部、自分自身のためだったのだ。
全てはアンジェリカ様に求婚するための。
「アンジェリカ様、絶対に幸せにします!」
手を差し伸べるアドルフ様を目を見開いてみるアンジェリカ様。彼女にしては珍しく、動揺を隠しきれていないようである。
呆気に取られた表情さえも美しいが、次第にアンジェリカ様の表情は暗くなっていく。
驚くのも無理ないとアドルフ様が得意げに跪く中、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……お断りします」
「なぜ!?」
会場中が騒然とした。絶対に断れないか保留になるような状況下に置かれていたのに、アンジェリカ様が即座に首を横に振ったことは、予想だにしていなかったことだからだろう。
「もしかして僕に遠慮されているからですか?しかしその必要は……」
「違います」
アンジェリカ様は真っ直ぐとアドルフ様の目を見る。
「あなたが、婚約者という存在がありながら私に求婚してきたからです」
「……っ!」
アドルフ様は決まり悪そうな顔をした。
一番触れられたくないことに一番触れられたくない人が触れたからだろう。
今まで散々アドルフ様へ歓声を送っていた貴族たちが、恥ずかしいとばかりに口を次々と閉ざしていく。
しかし絶望するアドルフ様の前で、アンジェリカ様はまだ話を続けた。
「仮にでも私は王族に入ろうとしていた者です。この国の全ての貴族の名前は勿論、その関係性も把握しております。ーーあなたとレイラ様は婚約者同士ですよね?」
「……はい」
「ではなぜ、あえてレイラ嬢などと他人行儀な呼び方を彼女にしたり、私の無実を証明してくれたレイラ様ではなく、貴方の方が得意げな顔をしているのでしょう。私にはそれが理解出来ません」
「…………」
アドルフ様はもう何も言わなかった。それは自分の願いが叶わなかった悲しさというよりもむしろ、アンジェリカ様に全ての考えを見透かされたショックと言うべきだった。
こんなに情けない婚約者を見るのは始めてだった。
「素晴らしいわ!」
「なんて情熱的なの」
「小説みたいですね」
「アドルフ様、凄いな」
次々にアドルフ様に対しての賞賛が飛び交う中、私は一人首を傾げる。
……ん?待ってください。皆さん、私とアドルフ様が婚約していること、もしかしてご存知ありませんか?
確かに言われてみれば、こういう最低限必要な行事の時以外でアドルフ様と何かした思い出は全くない。むしろこういう時も距離を取られてきた気がする。
過去を遡る中で、少しずつ彼の本心が見えてくる。
……ああ、そういうことだったのね。
私は一人で納得した。先程なぜレイラ嬢などと他人行儀な呼び方をされたのか、彼の今までの行動を振り返る。
全部、自分自身のためだったのだ。
全てはアンジェリカ様に求婚するための。
「アンジェリカ様、絶対に幸せにします!」
手を差し伸べるアドルフ様を目を見開いてみるアンジェリカ様。彼女にしては珍しく、動揺を隠しきれていないようである。
呆気に取られた表情さえも美しいが、次第にアンジェリカ様の表情は暗くなっていく。
驚くのも無理ないとアドルフ様が得意げに跪く中、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……お断りします」
「なぜ!?」
会場中が騒然とした。絶対に断れないか保留になるような状況下に置かれていたのに、アンジェリカ様が即座に首を横に振ったことは、予想だにしていなかったことだからだろう。
「もしかして僕に遠慮されているからですか?しかしその必要は……」
「違います」
アンジェリカ様は真っ直ぐとアドルフ様の目を見る。
「あなたが、婚約者という存在がありながら私に求婚してきたからです」
「……っ!」
アドルフ様は決まり悪そうな顔をした。
一番触れられたくないことに一番触れられたくない人が触れたからだろう。
今まで散々アドルフ様へ歓声を送っていた貴族たちが、恥ずかしいとばかりに口を次々と閉ざしていく。
しかし絶望するアドルフ様の前で、アンジェリカ様はまだ話を続けた。
「仮にでも私は王族に入ろうとしていた者です。この国の全ての貴族の名前は勿論、その関係性も把握しております。ーーあなたとレイラ様は婚約者同士ですよね?」
「……はい」
「ではなぜ、あえてレイラ嬢などと他人行儀な呼び方を彼女にしたり、私の無実を証明してくれたレイラ様ではなく、貴方の方が得意げな顔をしているのでしょう。私にはそれが理解出来ません」
「…………」
アドルフ様はもう何も言わなかった。それは自分の願いが叶わなかった悲しさというよりもむしろ、アンジェリカ様に全ての考えを見透かされたショックと言うべきだった。
こんなに情けない婚約者を見るのは始めてだった。
156
お気に入りに追加
2,297
あなたにおすすめの小説
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後
アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。
【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?
BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。
婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし
こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。
この場所で貴方達の味方はいるのかしら?
【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる